これは午後十一時から、午前零時にかけての出来事
いつも感想、投票ありがとうございます。
前回のあらすじ、・・・・・・
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マリアside
七英雄の中で、望郷の念が一際強かったのも理由の一つかも知れない。
帰るために、召喚術、召還術を学び、血の滲む想いで会得し、精神感応で人間、動物、遺跡、古代遺産の思念、残留思念を読み取り情報を集め、自身の身を守ってくれる人材を探すに連れ、ブリタニア王家とサクストン家に行き着いた。
当時、暗殺に怯え、誰が敵かわからなかったエリザベスちゃんに王宮に忍び込み、私を売り込み、彼女の外敵を退け、王家の外戚のサクストン家の養子になり、エリザベスちゃんが女王に即位したことで自身の身を守れる体勢を整えた。
召還術、召喚術を覚え、パワースポットを調べる中、遺跡の残留思念を読み取り、この世界の裏の歴史、異世界人を召喚して戦争の駒にしていた歴史を知った。
・・・・・・そして、千年前の戦争でその事実を知った当時のこの世界のガリア、ロマリアの御子が召喚者に反旗を翻し、打倒に至ったが、彼らの策略によって同士打ちにあった事を・・・・・・
異世界人は初めは英雄として祀られるが最後は魔王、魔女として葬られ始末される。
悲嘆にくれる中、遺跡に残された碑文を【精神感応】で込められた意思を読み取り、そして彼らにたどり着いた。
家に帰して
怒り、泣き、喚きちらし、石像に精神感応で意思を飛ばし、コンタクトを試み、そして意思の疎通に成功した。
近いうちに大きな戦いが起きます。
その戦いの勝者になれば、元いた世界に帰してあげれます。
私たちの争いに巻き込んで本当に申し訳ありません。
申し訳なさそうな、母さんの様な優しそうな女性の声が届き、私はこの世界での役割を理解した。
この世界は召喚者達の派閥争いの為の駒として異世界人にその意思、願いを託し、戦わせる為の戦場で、その副次的効果として、この世界は進歩、発展を遂げてきたのだ。
私は、この事実を心の奥底に封じて、戦った。
外敵から身を守るために仮面をかぶり、修道服を来て、高位の魔獣、悪魔を使役し、幻獣を作り出し、国力を高める為に文化の発展にも助力した。
そうして、海賊王、鉄人すら屠り、もう直ぐ帰れる。
そう予感した時に、イレギュラーが現れた。
・・・・・・千年前に召喚者達の思惑を知ったこの世界の大精霊の御子 魔王がこの世界に召喚に紛れ込んで、黄泉の入口に封じられていた大精霊の封印を解き、再び召喚者に楯突くために力を蓄えているという情報が入った。
そして偵察、潜入任務で間近で見たが・・・・・・化物だった。
戦女神という、同郷の人物は私には届かない強さを誇り、其れをあざ笑うかのように翻弄する強さを誇り、伝承や遺跡の記憶にみたときより、遥かに強大な猛者となっていたのだ。
元、アースの住人が、私の家へと帰る道を奪ってしまったのだ。
そして、ルール変更ということで、新たに追加された異世界人と、共に勝利条件が言い渡される。
戦乱を起こす
この膠着状態の原因である転生者を殺すか、新たな災厄の芽である、この世界の住人の中の突然変異者、魔王、勇者が現れれば、ロマリアを利用して宗教戦争に持ち込める。
勝ち負けでは無く、戦争を起こせば、帰れる。
魔王か勇者、そのどちらかが生まれれば遠からず、戦乱が起きる。
私は家に帰れるんだ。
精神感応による完全な洗脳は大精霊には通じないけど・・・・・・受肉し、なおかつ標的の転生者に恋心、愛情を持っていれば、一部の思考、価値観をいじることは容易だ。
そして、真祖という魔物の中で最上位の存在がいた事も功を奏し、転生者の目を背け、二手に分かれるように話を持ちかけ、舞台は整った。
これで、帰れる。 私は家族のみんなが待つあの家に帰れるんだ。
「その為に私は貴方を倒す!」
マリアside end
マリアの固有スキルは元々、【精神同調】【女子高生パワー】【妹属性】の3つである。
後の二つは対したことの無いスキルに思えるが間抜けな名称とはうらはらに固有スキルの何に違わぬ効果を有している。
【女子高生パワー】
女性、本来の生命力、活力、魔力、幸運を底上げするパッシブスキル。
【妹属性】
保護欲を掻き立てる一種のカリスマ、魅了のスキルでカグヤのカリスマに匹敵するスキルである。
そして【精神同調】精神感応能力に属し、【読心】【催眠】【思念波】【威圧】【憑依】など、汎用性も高く、意思の疎通が至難な高位の魔獣、神獣、悪魔を使役出来るだけでなく、契約した魔物の能力を己が物にする能力を獲得していた。
本来、人間に打倒できない神獣や吸血鬼の真祖すらマリアの前には平伏する。
カグヤが人間を魅了するカリスマを持っているのに対し、マリアは人間以外を魅了するカリスマを有しているのだ。
マリアはこのスキルを用いて、満月の日の下準備の為に手始めにクラスメイトのアリシアを洗脳し、アリシアを通して憑依した状態で、寝室警護の任を利用してクラリスにも洗脳を掛け、姉のリンにも同様に掛け、ギルドマスターのリンにも乗り移り、ノエルに洗脳を掛けていく。
そして今回の事態を発展するに至った嬉しい誤算が、吸血鬼の真祖を見つけた事で、マリアはテレサを即座に篭絡し、マリアの支配下に置かれたテレサが猫の目にいた人間に魅了の魔眼を掛け、噛み付き支配下においたのだ。
カグヤに怯えるテレサであったが、マリアと主従関係により、精神同調で動きを止めたカグヤもテレサの魅了と噛み付きにより、マリアの支配下に置かれ、一部の思念、価値観をいじるに留まり、洗脳を成功させたのだ。
光、闇、火の大精霊とその契約者をこの時点で傘下に収め、更に猫の目に寄る前に薔薇宮殿で買い物をしていた聖女級のシスターをもついでに洗脳していた。
こうして準備が整い、争奪戦を仕掛け、ナミとの契約関係を解除させ、結界を街に張り巡らせ、アキラを追い詰め、捕縛に至った。
故に、二回目の戦闘も容易に片付くとマリアが思うのは当然だった。
「認識が甘くないか? 霊斬剣がある以上結界や封印魔法なぞ効かないし、さっきと違い出力も高い上に今回は『お遊び』じゃないんだ、俺が遠慮でもすると思ったのか?」
倒れふす手駒達、廊下に立っているのはアキラとマリアの二人のみだった。
目的がアキラの捕獲、気絶、抵抗力を削ぐために弱らせるという目的では無く、抹殺なら話は違ったが、マリアは彼女たちにアキラを殺すように命じなかったことが決めてになった。
本来アキラを気絶、捕縛するには殺す気でかかってやっと捕まえれるのだ。
初めに捕まったのは、アキラも『これはゲームだから』『ハーレム宣言をした責任、後暗さ』等といった考えがあった事、封印魔法をかけられたこと、女性には手を出さないなどの要因があった故だ。
だが、今のアキラには精霊化ができないだけで何の制限も無く、戦えるのだ。
初めに、ルーに近づき、【回答者】の短剣を使わせる前に【闇纏】で強化された拳で当身を当て、通り抜き際にノエル、リン、アリシアも手刀、当身で気絶させ、今迄の戦いで戦闘能力に磨きがかかったテレサを【混沌の沼】に沈め、残ったナミ、カグヤ、テレサと退治した瞬間、アキラの【認識阻害】が発動し、見えているのに、見えていない、認識できないという状態になったアキラに当身、首うちを食らわせられ、気絶した。
格が違う・・・
前世の記憶もなく、技量もない、只、この世界に少々因縁があるだけの青年が、この世界の最強クラスの達人、魔物、精霊を殺さずに打倒するという離れ業を行うという事実にマリアは恐怖した。
「・・・・・・な、なんで?なんで負けるんですか!? みんなあなたより技術もスペックも上なのに! 数ですら圧倒したのに! 一度勝ったのに!! こんなの絶対おかしいですよ!」
「・・・・・・」
脳裏に、邪精霊、悪魔の対軍を笑いながら、屠り、巨像を一撃で仕留めたアキラの姿が過ぎる。
そして、あの時の殺気が、鷹の目の眼光が今度こそ、マリアを射抜く。
「ゲームじゃないんだ、どれだけ魔素を蓄え、器、体を強化しても人体の構造まで、変わるわけでは無い。 首を斬られりゃ死ぬし、9mm口径の弾丸で脳天や心臓に風穴開けられりゃ死んでしまう。 急所に的確な打撃を受けたり、脳を揺らされれば気絶もする。」
そう言いながら近寄るアキラに恐怖し、急いで契約した魔物を召喚するマリア。
「黒ちゃん! ブレスです!!」
狭い廊下でまるごと召喚する事が出来ないが、廊下の一面に虚空に魔法陣が浮かび上がり、空間に亀裂が走り、召喚門となり、そこから黒竜のアギトが現れ、特大のブレスを放つ。
だが、アキラの前にも黒い風穴の転移門が開き、ブレスを飲み込み、もうひとつの転移門が現れ、飲み込んだブレスをお繰り返し、召喚門に向かってブレスを送り返して黒竜自身のブレスに焼かれ、悲鳴を上げて、召喚門から顔を引っ込めてしまい門が消え去る。
「あ、ああ く、クラさん 締め上げて捕縛して下さい!」
クラーケンを召喚門から呼び出し、巨大な触手がアキラに襲いかかるも霊斬剣で切り裂かれ、刺身のように捌かれる。
「ナイトさん! お願いします。」
英霊の黒騎士が実体化し、必殺の一撃を放つが、剣がアキラに触れた瞬間、砂の様に消え去り、すり抜けざまに無造作に突き出された右手が鎧ごと胴体を貫き、黒騎士の実体化を解除される。
追い詰められたマリアは自身の切り札、魔物ではなく、召喚獣を呼び出す。
大精霊と対をなす存在 光、闇の大精霊でいう、勇者と魔王にあたる 神獣、魔獣の召喚獣。
風の大精霊の半身の雷獣、王天虎を呼び出す。
「テンコ君、あの男を!」
ズドン!!!
稲光と共に現れた王天虎が、標的を認識した瞬間、飛びかかるが即座に王天虎の首が床にめり込む。
知覚できない速度と只の膂力で王天虎の頭を掴み、床に叩きつけられたのだ。
最後の切り札をも容易く、潰され、腰が抜け、力なくへたり込む。
アキラは魔物と男には容赦しない。
この情報がマリアの脳裏によぎり、自分との相性の悪さを今更ながら再認識した。
魔物、悪魔、召喚獣を使役するマリアに勝ち目は無かったのだ。
レベル1の状態で死都に乗り込み、駆け出しの熟練度で、前世で敗れ去った千年前の軍隊と勇者を実質、単独で滅ぼすほどの実力を有し、そんな男が臨界者へとなったのだ。
概念崩壊の法則というカラクリを知り、実際はトリックやハッタリ、不意打ちが得意なだけの男と侮りもあったのだろう。
それでも用心して女性陣を盾に戦えば、確実だという考えを持っていただが、彼女はアキラの地雷を踏みすぎた。
「・・・・・・」
無言で自分に向かって歩いてくる死神。
その一歩一歩が自身に対する処刑台の階段のように感じ、周囲から音が消え去り、自身の鼓動とアキラの足音だけが廊下に響き渡る。
声が出ない・・・
走馬灯の様に元いた世界の家族と友人たちとの思い出が頭を駆け巡り
この世界で過ごした一年と数ヶ月の思い出、クリスタ、エリザベス、心優しい魔物、悪魔、召喚獣達、留学した先のクラスメイト達が浮かび、消えていく。
あと数歩で、自分の命が終わると悟り、迫り来る手を想像し目を瞑り、頭を抱える。
だが、攻撃は来ない。
恐る恐る目を開ける。
すると、そこには自身が契約した召喚獣が、悪魔が、魔物が、弱体化した姿で主を守ろうと震えながらアキラに立ちふさがっていた。
魔物たちも理解している。
彼らは人間と違い、本能で力量差を感じ取る。
目の前の人間の姿をしたナニカに恐怖を感じながらも自身の主、親を守ろうと現れた。
魔族で淫魔のアケミとテルオもその力量差を知ってなお、マリアを守るために自発的に現れ彼女を庇う。
アケミはマリアを抱きかかえるようにかばい、テルオは三股の槍を震えながら構えている。
魔力不足の為か召喚獣の王天虎と海竜が弱体化した状態で、大型犬程の大きさに縮んでアキラに対峙している。
全員が震えている。
目の前に居るのは魔物、魔族、邪精霊を容赦なしに殺戮する怪物だと知っている。
それでも歩を止めず、歩くアキラが手を伸ばし、全員が死を覚悟した・・・
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くしゃくしゃ
気づくと頭を撫でられていた。
「辛かったな、お前がそんなに追い詰められていたなんてな・・・気づいてやれなくて済まなかった。」
頭が真っ白になった。
「俺が必ず、元いた世界に返してやる。 だから、この世界で出会った人達を犠牲にして、帰ることに心を痛める必要はないんだ。 もう我慢しなくていい。」
助かった・・・
許してくれた
孤独な戦いを理解してくれた。
もう、良心の呵責に苛まれなくていい・・・
その事実と重いが少しずつ氷解するように心に響いていき・・・
マリアの瞳に安堵の涙が流れる。
「うッ ぐすッぐす・・・ヒック」
静けさに満ちる廊下に年相応の少女の鳴き声だけが静かに響き渡った。
そして、最も長い一日の最後の戦いの幕が閉じた。
23:59:58
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さ~て後は皆さんのお楽しみの時間だ!




