第94話、新商品のアイデア?
魔法剣に魔力を通したら魔法が使えた。剣から炎が吹き出たのを目の当たりにしたソフィアは大喜びだった。
――でもそれさ、普通に魔道具使うのと変わらないんじゃね?
効果の強弱はあるだろうが、そもそも魔法が使えない、不得意な人間でも魔法が使えるように、と仕込まれた魔法文字の発動だ。
つまり、ソフィアでなくても、魔法習得中のセイジにだってできるし、よっぽど魔力がない人間以外は、それが普通だということだ。
――でも、めっちゃ喜んでいるんだよなぁ。
半泣きにも似た顔で歓喜しているソフィアを見ると、そんなこの世界の当たり前にすら触れさせてもらえなかったのではないかと思えてくる。滲み出る家庭内不遇。
魔法使いの家系で、魔道具で魔法をいくら使えても、道具に頼らないと駄目では、むしろ蔑みの対象だろうか。
ソウヤは唸る。
ソフィアが魔法を使ったといっても、現状は魔法武器に刻まれた魔法文字の効果だ。それでは魔術師を名乗ることすらおこがましいと言える。
とはいえ、道具や魔法文字に頼らない魔法は、ミストの指導で改善する方向にはなりつつある。
だが、ハンデを抱えているのは変わりなく、魔法文字や魔道具に頼ったとしても、多種の魔法を扱えるようになってもいいかもしれない。
そこで、ソウヤの脳裏に浮かぶものがあった。
元の世界で遊んだカードゲームだ。モンスターやら魔法をやらをぶつけて戦うトレーディングカードゲーム。
――ああいう風に、カードを使い捨てに魔法を発動したりできないだろうか?
先ほど、ソフィアが火属性の魔法剣を使って、炎を出した。だが、あの魔法剣は、火を噴くしか魔法が使えない。複数の魔法を使おうと思ったら、同じような魔法武器を幾つも携帯しなくてはいけないが、それぞれの重量や取り回しを考えたら、ナンセンスである。
だが、たとえばトランプのようなカードだったなら、携帯性は比べものにならない。数が多いと選択に迷ったり、若干手間も考えられるが、選べる状況であるなら選択肢が多いのは悪くない。
ソウヤは考えを弄ぶ。
――いっそ携帯やスマホみたいに、ひとつで複数の魔法を使えるようにすれば……いや、それだと普通の魔道具か。
魔道具は、基本的に手作りで、商品として考えると高額だ。よい物を買おうとするなら、魔法が使える仲間と組んだほうが安上がりである。
コストを考えるなら、やはり使い捨てにしたほうが、まだ商品となるだろう。
――と、すっかり商品にした時のことを考えてしまったなぁ
少しは商人らしくなってきたのかな、とソウヤは思った。
視線を戻せば、ミストがソフィアに、魔法武器を交互に指し示しながら説明していた。
「いい? 魔法武器といっても、今のあなたにとって向き不向きがある。魔力を通せば、武器が魔力を使って魔法を発動させるタイプ――これはいいわ。でも使用者の魔力を増幅させるタイプ――これは駄目よ。火花が倍になったくらいじゃ目くらましにもならないからね」
「火花――」
自分の魔法を『火花』と称され、がっくりするソフィア。ミストは続けた。
「当然、使用者に魔力を支払わせて発動するタイプも駄目。あなたは必要な魔力を自分で収束できないからね。でも魔剣のように、武器のほうで魔力を吸い取るタイプなら、あなたでも魔法を発動させることができるわ――」
「ちょ、ちょっと待って師匠。ええーと」
どうやら一度の説明では、すんなり頭に入らないようだった。あれはよくて、あれは駄目をたくさん並べ立てられたら、混乱するのも無理はないか。
ソウヤは、ふたりの美少女たちのやりとりから離れる。
「出かけてくる」
セイジに伝言を残して、ソウヤは外へ戻った。
・ ・ ・
冒険者ギルドの休憩スペース兼、酒場にソウヤはいた。
ダンジョン帰りの冒険者たちが、稼ぎで酒を飲んだり、仲間と談笑したりしている。騒がしくあるが、疲れやストレスを発散させることは生きるために必要なことである。
そんな中、テーブル席についたソウヤは、ひとりの女性冒険者と向かい合っていた。
ミア。女魔術師。エイブルの町を拠点に、仲間たちとパーティーを組んで活動している冒険者である。ダンジョン探索で何度か顔を合わせていて、顔見知りの関係だ。なお、彼女は、ソウヤの出す銀の翼商会の料理のファンでもある。
「やー、ソウヤさんからお誘いいただけるとは嬉しいのですが、わたしなんかとお酒飲んでミストちゃんはいいんですか?」
「何故オレが、あいつにお伺いを立てないといけないんだ?」
真顔のソウヤに、ミアは「あれ?」と苦笑した。
「てっきり、お付き合いしているのかなぁーと思いまして。年の差カップルってやつ」
「オレとミスト? ないない」
男女の関係はない。親友ではあるし、頼りになる相棒ではあるが、そもそも人間とドラゴンである。
年の差とは……どっちが上かはこの際、黙っておく。傍目には、ソウヤのほうが年上に見えているだろうが、長寿のドラゴンに比べたら、人間なんて小僧もいいところだ。
「それはそれとして、魔法について、専門家の話を聞きたい」
「いやぁ、専門家なんて……。何が聞きたいんです?」
照れながらも、ミアは問うた。ソウヤは、魔道具や、魔法を発動させる魔法文字と、その仕組みなどを質問した。
「ふむふむ、なるほど。要するにお手軽使い捨て、魔道具を探しているのですか?」
「体質というのかな。魔力があるんだが、それがうまく魔法として放出することができないっていう子がいてね」
「魔術師には向いてないですね」
「辛口だー」
「あ、いや、すいません。でも学校じゃ、そういう子はたぶん、そう言われちゃいますよ」
ミアは悪気はなかったのだろう。またも苦笑した。
「学校って言ったか?」
「あ、はい。わたし、王都の魔法学校の卒業生なんですよ」
「……マジで?」
エアル魔法学校は、つい先日行ったばかりであるが、まさか目の前の魔術師が、そこの生徒だったとは思いもしなかった。
「あの学校、エリート魔術師を出してる学校だろ? すげぇな」
「いやいや、わたしは何とか卒業できたって口で……。就職に失敗して、冒険者やっている始末でして」
などと自嘲するミア。言われればエリート魔術師学校の卒業なら、王族や貴族などからスカウトされたりするのもありそうだとソウヤは思った。
もっとも、そういうのは一部の上位者ばかりだろうから、冒険者が悪いわけではないが、そこにいるという時点で大体お察しである。
「それで、使い捨て魔道具でしたね」
ミアは話を戻した。
「なくはないですけど、一般的じゃないですね。パッと思いつくのは、東洋の魔術師が使うお札とかいう魔道具ですかね――」




