後日談188話、守護者色々
時空回廊を進む。ごつごつとした岩肌も剥き出しな大空洞には、ソウヤたちの歩く音が壁に反響していた。
肉食恐竜にも似た、白い巨体の守護者は、それぞれ侵入者である一行を静かに眺めていた。
このまま何事もなく神竜のもとへ……。行けたらよかったのだが、さすがにそう簡単なもののはずがなかった。
一体の守護者が、のそのそとソウヤたちの前に陣取った。
「通りたければ、避けていけってやつか?」
ソウヤが思ったことを口にした。
「通りたければ、自分を倒していけ、じゃない?」
ミストが冗談めかした。クラウドドラゴンは言った。
「敵意は感じないけれど」
「私たちに避けさせようとは、陰湿な嫌がらせなのだ」
アクアドラゴンが首を振ると、ツインテールがブンブンと揺れた。
「嫌がらせ、ね」
魔術師のジンは苦笑する。
「まあ、試している雰囲気はあるな」
「つまり、ここで一度戦う素振りを見せたら――」
ソウヤの言葉に、老魔術師は自身の顎髭を撫でた。
「周りのも含めて、排除にかかってくるだろうね」
「面倒なのだー」
駄々っ子のようすを見せる水属性ドラゴン少女。これにはソウヤは少し意外に思った。
普段なら好戦的に振る舞うドラゴンにしては珍しく、つっかからないのだ。行く道を遮る者は踏み潰すが当たり前のドラゴンが、迂回しようとしているのだ。
四大竜も、守護者に強さを感じ取っているのだった。そしてプライドの高い者ほど、わざわざ避けなければいけないというのは、屈辱的に感じるのだろう。
ソウヤは神竜に一度会っていることもあって、その守護者という存在には取り立てて敵意が湧かなかった。
……もちろん襲ってくるならば、容赦はしないが。
『いやいや、待て待て』
唐突に、通せんぼをしていた守護者が声を発した。……人の言葉で。ソウヤたちが特に構えもとらずに避けていこうとするのを見て。
これにはソウヤたちも驚いた。まさか話しかけてくるとは思っていなかったからだ。
『こういうことをすれば、攻撃してくるかもと思ったのだが、ひょっとしてこの姿、怖くない?』
「怖くないわけではないが――」
ソウヤは返事をした。
「あんたたちが、神竜の守護者だってわかっているからな」
ダンジョンにいて、侵入者に問答無用で襲いかかってくる魔物、モンスターと違って、明確に護衛の任務にあたっている者たちである。
いきなり襲ってこない以上、無闇に戦うこともない。
『中々肝が据わっているな。いや、道理を弁えているというべきかな』
表情はわからないが、声の調子はどこか楽しそうな守護者である。
『ここに来た者たちは、大半は我らの姿を見るなり襲いかかってきたものだ。この醜悪な見た目だろう? 話の通じぬ化け物だと思って仕掛けているんだろうなァ』
「大半って言った?」
ミストが片方の眉を吊り上げる。
「戦わない者もいたわけ?」
『たぶん、君らが思っているのとは少し違うがね。あれだ、我々の姿を見て、恐れをなして逃げた者、どうにかやり過ごして、こそこそ先を目指そうとした者、という意味だ』
目があるようには見えないが、守護者はじっとソウヤたちを見つめるような仕草をした。
『君らのように、堂々と歩いて通ろうとする者はいなかったよ』
そう言われて、ドラゴンたちが顔を見合わせ、内心ニヤニヤした。やはり自分たちドラゴンは他の種族とは違う、とでも感じているのかもしれない。
『これだけでも私としては、通していいような気がするが……。まあ、ね』
守護者は座り込んだ。
『いちおう、軽々しく神竜に会わせないようにするのが私たちの役目なのでね。たぶん、他の守護者が、もっとはっきり君たちの妨害をしてくると思う。これも神様に会うための試練だと思って割り切ってくれ』
「なんだ、結局どかないのか?」
アクアドラゴンが不満そうな顔をすれば、その守護者は言った。
『言っただろう? これが私たちの役目なんだ。どういう形であれ、いちおう邪魔しないと怠慢になってしまう』
侵入者を阻みましたよ、というアリバイ作りということなのだろう。建前というやつである。ソウヤは同情した。
「あんたも大変だな」
『役目だよ。それ以上でもそれ以下でもない。君らが愚かにも攻撃してきたら、私は君らを八つ裂きにして役目を全うしただろう』
仕掛けてこなかったから、これで済んでいる、とその守護者は言った。さらりと恐ろしい単語を混ぜてくるあたり、真に強いのだろう。
『まあ、頑張れとは言わないが、命は大事にな』
そういうと、その守護者はその場に眠りだした。その横をソウヤたちは抜けていく。
「何とものんびりした守護者だった」
「そういうのもいるのだろう」
ジンは頷くのだった。
それから少し進むと、人が立っていた。
「こんなところに人?」
目を見開くソウヤ。一方でミストの視線が鋭くなる。
「気をつけて、ソウヤ。……こいつ、他のと気配が違う」
銀色の甲冑。アクセントのように青のラインの入ったその武具。銀色の長い髪を伸ばした美貌の戦士。その姿は、北欧神話に語られる戦乙女のようでもあった。
――なんでそんなのが……?
困惑するソウヤ。その戦乙女は振り返った。
「レディース アンド ジェントルメン! ようこそ、時空回廊へ!」
バッと手を広げる彼女。見た目の荘厳さに反して、随分と明るく可憐であった。
「水の守護者、ディーネちゃんさん、推参! ここを通りたくば――以下略」
「……変なのが出てきたなぁ」
ソウヤがボソリと言えば、自称『水の守護者』は表情を変えた。
「御託はいいからかかってこいやぁ! こちとら大先輩様だぞ! 年季の違いってのを見せてやんよぉ!」
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