後日談187話、時空回廊、再び
火山島の大神殿――のような時空回廊に来るのも久しぶりだ。
かつてはファイアードラゴンがテリトリーとしていた島は、火属性ドラゴンたちがいなくなって静かな時を刻んでいる。
「前回来た時は、アースドラゴンの爺さんがいたんだよな」
ソウヤは目を細める。ミストは口角を上げた。
「仮死状態のクラウドドラゴンを復活させるため、ね」
名前を出されて、当の風のドラゴンはそっぽを向いた。あの時は、アースドラゴンがソウヤたちに色々と教えてくれた。
なお、暑いことはわかっているので、すでに魔法で対策済みである。
光が差し込む台座のような場所に置くと、生き物であれば寿命と引き換えにそのものの時間が戻る。
「あれにガルたちを置いたら復活しないかしら?」
「死体がフレッシュになるだけで、魂は戻らないらしいからな」
ソウヤは首を横に振る。
「それで死者が生き返るなら、誰も苦労して時空回廊に挑んだりはしないさ」
「それもそうね」
奥に続く回廊。そこは前回と同様、怪しく光っていた。アースドラゴンは『時』と言った。
ソウヤは逆コースで通ったが、あの時は巨大な空洞があって、目のない白い肉食恐竜じみた姿の守護者らが複数いた。
見られただけで感じたプレッシャーは相当なものだった。その一体一体から、魔王に匹敵する何かを感じた。
「さて、行くか」
ソウヤが振り返れば、ミスト、クラウドドラゴン、アクアドラゴン、そしてジンがそれぞれ頷いた。
このメンバーで時空回廊を制覇。神竜に会い、ガルたちカリュプスメンバーを復活させるのだ。
光の差す方向へ。ソウヤたちは時空回廊を進んだ。ここからが本番だった。
・ ・ ・
「なるほど。あれが守護者……」
クラウドドラゴンは淡々と、しかし油断なく視界に移る白い巨獣を見つめた。
真っ白な体。ティラノサウルスを連想させる姿だが、目はなく、体のところどころに青い斑点が見える。背中には四枚の翼を持っている。
「強そうなのだ」
アクアドラゴンは、どこか嫌そうな顔になる。
「ちょっとドラゴンに似ていてムカつく……!」
「あそこまで酷い不細工は見たことがないけど」
辛辣だなぁ――クラウドドラゴンの言葉にソウヤは苦笑する。ニュー・斬鉄を手にソウヤは前を進む。
立ち塞がる障壁、守護者を突破しなければ神竜のもとには辿り着けない……。そのはずなのだが――
「来ないな」
「ちょっと拍子抜けよね」
ミストも竜爪槍を肩に担ぎつつ、守護者を見やる。
「てっきり通せんぼしてくるかと思ったけど、様子見で動かないし。……そもそも目がないとかいうツッコミはなしよ」
「頭は動いているからな。たぶん、こっちを見ている」
ソウヤは、プレッシャーを感じつつ答えた。
「目がないのに見られている。何かこう、体の内側、心臓を掴まれているような圧迫感を感じる」
いきなり襲ってくると予想していたが、意外に静かな立ち上がりといった雰囲気だ。ジンが口を開いた。
「彼らにも知性はあるのだろう。問答無用で飛びかかってくるような番犬ではないということだ」
「襲ってくる時は、問答無用じゃないの?」
ミストは冗談めかした。
「だってあれ、こちらの言葉喋らないでしょう?」
「そう決めるのは早計だと思うね」
老魔術師はのんびりと告げた。
「姿形はどうあろうと、コミュニケーションを取れる種もあるさ」
「ふうん、そういうものかしら」
「これは異なことを。ドラゴンは人ともコミュニケーションは取れるだろう?」
痛烈な皮肉を飛ばすジンである。これにはミストも苦笑するしかなかった。
「あとこれは言うのが遅いかもしれないが、すでに試練は始まっていると思うよ」
「どういうことだい、爺さん」
ソウヤが後ろを一瞥すれば、ジンは微笑した。
「さっき君は、心臓を掴まれるような圧迫感と表現したが、あれはおそらく君の心を、守護者たちが探っていたのを感じたのだろう。私も感じた。他の者もそうだろう?」
クラウドドラゴンは同意の沈黙。アクアドラゴンは舌を出した。
「あれは守護者どもの精神介入だったか。いわれるまで気づかなかったのだ」
「すでに手を出されていた、と」
ミストが乾いた唇を舐めた。
「どうりでチリチリするような感覚がしたわけだわ」
上級ドラゴンでさえ、圧迫感としか感じさせない干渉をしてきた守護者という存在。その能力は底が知れない。ソウヤは遅まきながら冷や汗を流す。
神竜からの帰り。素通りかと思ったら、思い切り守護者たちに探られていたわけか。目の前で手を伸ばされているのにそれに気づけなかったと考えると、如何に危険だったか、今さらながら思い知らされる。
「じゃあ、何で今攻撃されないんだ?」
ふと思った疑問をソウヤは口にした。
「オレたちが奥の神竜に会いにいこうとしていることは、わかっただろうに」
「ここに来た時点で、守護者たちもそれくらいは初めから察しているよ」
ジンはやんわりと言った。
「攻撃してこないのは、こちらも手を出されない限り、攻撃しないというスタンスで来ているからだろうな。初めから先手必勝で攻撃――なんて考えていたら、今頃戦闘になっていただろうね」
「慎重にいったのがよかったわけだな」
ソウヤは頷いた。普通だったら守護者を見て『化け物』と敵対行動を取りそうなものであり、そうなれば守護者も容赦はしなかっただろう。
「なら、このまま最後まで素通りさせてほしいものだ」
「それで済むなら簡単なんだがね」
ジンは真顔になる。
「世の中、そう簡単にはできていない」
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