後日談186話、出発前の気持ち
クレイマンの浮遊島は、辺境の火山島へ近づきつつある。
ガルたちを蘇らせるため、時空回廊の奥、神竜のもとを目指す。ソウヤはそれに備え、気持ちを落ち着かせる。
それを見たミストは皮肉げな笑みを浮かべた。
「アナタも緊張するのね」
「今までオレの何を見てきたんだい?」
苦笑するソウヤ。浮遊島の屋敷、そのリビングでくつろぐ人の姿をしたドラゴンたち。ソウヤは立ったまま部屋を往復しているが、それを見やりミストは肩をすくめる。
「戦いとなれば、不思議な落ち着きというか、自信が感じ取れた。アナタってそういうところがあるわよね?」
「……まあ、大抵は魔王城に乗り込むほどのものではないからな」
ソウヤは身震いする。視界に、ソファーで居眠りしているファイアドレイクの子供――フラムがいた。
「今回は、魔王城に乗り込む時のような緊張感だ」
「だったら、何とかなるんじゃない?」
ミストは再度肩をすくめた。
「だってアナタ、その魔王城潰してきたでしょう?」
「気分の問題だ」
物理的に時空回廊は魔王城ではないし、ましてそれを破壊しにいくわけでもない。
「公園を散歩するようなものでしょう」
ミストは気楽である。ドラゴン特有の自信からくる楽観か。あまり難しく考えることはないのは大体のドラゴンに見受けられる特徴だ。
「行って、神竜に会う。それだけよ」
「道中の守護者が厄介なんだ」
それが一番の問題であり緊張の原因だ。
「どれだけ強いのかしらね……」
ミストは楽しそうだった。久々に手応えのある相手と戦えるとワクワクしているようだった。黒の結社では消化不良だったのかもしれない。
「正直、ワタシでも手も足も出ないくらい強いかもしれない……。でもそれならそれで戦ってみたい」
彼女は笑った。
「譲るつもりはないけど、ワタシがあっさりやられたら、仇は討ってね」
「人に頼むお願いにしては、気分のいいものじゃないな」
「そりゃあ、魔王を倒したアナタでさえ警戒しているほどの相手だもの。ワタシがまったく通用しないことだってあるでしょ」
そういう割には、さばさばしているように見える。恐れはないのだろうか。
「もちろん、本気で行くし油断するつもりもない。本気で戦えるというのは、楽しみではある」
ミストは遠くへと視線を投げる。
「それが生きていることの実感に繋がる」
地上最強の生物であるドラゴン。それより下の雑魚ばかりと戦って強者を証明して何になる。自分と同等、あるいはそれより強い敵と戦い、それを打ち負かすことこそ、真の強者ではないのか。
「そういえば、お二人も同行するのよね? 理由は何だったかしら?」
ミストは、クラウドドラゴン、アクアドラゴンに尋ねた。灰色髪の女性姿のクラウドドラゴンは淡々と返した。
「言わなかった?」
「もう忘れたわ」
「……我々の後輩が危険に挑むというから。せっかくアースドラゴンを継いだ者がいるのに、早々に失っては先達の面子が保てない」
ソウヤを見ながらクラウドドラゴンは言った。
「四人いてこその四大竜。ファイアドラゴンのように欠けては、収まりが悪い」
「気持ち悪いのだ」
青髪ツインテール少女姿のアクアドラゴンはブンブンと首を振った。
「四属性の調和こそ、美しい……。一人でも欠けると格好悪いのだ」
ソウヤは意地の悪い顔になる。
「ないとは思うけど、もしかして四大竜全滅なんてこともあるかもしれなくないか、それ?」
「アナタ、フラムも連れていく気?」
ミストが怖い顔になった。ソウヤは慌てる。
「いや、連れていかない。子供を連れていけるわけないだろう!」
未来の火属性ドラゴンのトップであるフラム。まだ幼い彼女を、時空回廊に連れて行くなんてあり得ない。
クラウドドラゴンも悪戯っ子のような顔になる。
「なら、欠けるのは三大属性かもしれんということね」
「欠けるつもりはないぞ。水属性はな」
アクアドラゴンは鼻をならした。
「守護者だが何だか知らないが、上級ドラゴンの前ではちょっと強いだけのモンスターであろう。そんなものは千切っては投げてやるわ!」
相変わらず口調のおかしい水属性ドラゴンである。
ドラゴンは極度の個人主義者ばかりだと言われるが、何だかんだ仲間思いでもあるのだとソウヤは感じて、心の中が温かくなった。……ガルたちの復活云々を口にしないのは、ドラゴンらしいと言えばらしいが。
ドラゴンからしたら、人間の生き死についてさほど深刻ではないだろう。種族が違うといえばそれまでだが、ソウヤがカリュプスメンバー復活のために命を賭けるといったところで、ドラゴンたちからしたら、どうでもいい理由に入るだろう。
銀の翼商会で顔を合わせた仲とはいえ、友人関係を構築していたようには見えなかったし、彼女たちにカリュプスメンバーの名前を全員言えるかと聞いたら、きっと答えられないだろう。どうでもいい、と言われてしまうかもしれない。
ただそうだとしても、ソウヤは、ガルたちを復活させられたら、ドラゴンたちが復活させるのに命懸けで戦ってくれたことを伝えるつもりだった。
危険に身をさらそうとしてくれているのは本当である。それに対する解釈も、様々な見方ができるのだから。
「さて、皆さん――」
部屋に浮遊島の主、ジン・クレイマン王がやってきた。
「火山島に到着した。そろそろ行くかね?」
「ああ」
ソウヤは力強く頷いた。友を蘇らせる、そのためにここまで来たのだ。
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