後日談182話、報告は大事
ソウヤとミストは、黒の結社の隠れ家を潰した後、別行動をとった。
世界の果ての火山島、時空回廊をいよいよ目指す。だがその前にロッシュヴァーグにきちんと剣を取り戻して、事件は解決したことを報告しなければとソウヤは考えたのだ。
犯人グループを追ってその後、音沙汰がないのではあのドワーフの名工も不安だろう。
勇者であるソウヤに限って心配はない――と普通ならそう考えてもおかしくないが、どんな些細であろうとも連絡はしておくべきだ。
人を不安にさせたままというのは良くない。あの勇者ですら帰ってこない! などと騒ぎになっても困る。
ミストはクレイマンの浮遊島に行き、ソウヤは一人でロッシュヴァーグの工房に……行く前にもう一軒立ち寄る。
ガラガランダ伯爵邸。例の執事長に結果報告をする。
話の途中で飛び出すことになってしまったので、黒の結社関連のお話を少々とロッシュヴァーグ工房への慰謝料を回収した。
伯爵当人には会わなかったが、慰謝料に関しては本当に気前よく出した。手段を選ばないような者に依頼したことの責任というものらしいが、本当に伯爵当人は鉱石にしか興味がないのだなとソウヤは思った。
壊れた壁は、さっそく業者がきて修理していた。それを見たら早くロッシュヴァーグの工房に戻らねばと思った。
そしてエンネア王国の王都へ飛んだ。
誰かに見られないようにコソコソと……するのは逆に目立つので冒険者風の出で立ちでフードを被って顔だけは遠目からは見えないようにしておく。
王都では割と顔を知られているので、死人が素知らぬ顔をして歩くというわけにもいかない。
と言いながら白昼堂々、ソウヤはロッシュヴァーグの工房の門をくぐった。
「ロッシュ、いるかい?」
「おお、ソウヤ。戻ってきたか!」
ドワーフの名工は、怪我から治ったようにピンピンしていた。見た限りでは、最初から何事もなかったかのようにだ。
「ドワーフの治癒再生能力って高いんだなぁ。知らなかった」
もしかしたら医者か、治癒術士のもとに行ったのかもしれないが、ソウヤは軽口を叩く。ロッシュヴァーグはニッと笑った。
「あの程度、怪我のうちにも入らんわい! それよりお主が無事ということは、取り戻せたんじゃな?」
「おう、この通り!」
アイテムボックスからバァ金属の剣を取り出す。ロッシュヴァーグはさらに破顔した。
「おーおー、さすがじゃな。まあ、お主のことじゃから問題はないと思うとったが、よくもまあ犯人どもに追いついたもんじゃ」
「追跡に関しては、ここしばらくで格段に向上している。実際、これくらいならどうってことはないよ」
「頼もしい限りじゃな。……それで残っている鉱石は?」
「あー、あれは剣を気持ちよく取り戻すために献上した」
「うん?」
「話せば長くなるんだよ」
と、犯人グループの死亡と、すでに依頼主の貴族に届けられていて、剣を取り戻すための交渉。それから黒の結社の話もしたが、これは脱線だったかもしれない。
「ほーん、それはそれは。大変じゃったのぅ」
「まあね、ただ剣の試し切りにはちょうどよかった」
ソウヤはそう言ってロッシュヴァーグに剣を見せた。一度使ってソウヤとしては不満はなかったが、作ったロッシュヴァーグから見て、どこか不具合などがないか確かめるのだ。
「ふむ、問題ないな。……それでこいつの名前じゃが、もうつけたのか?」
「まだ。というか、作った人がつけるもんじゃないのか、こういうのって」
ソウヤが首をかしげると、ロッシュヴァーグは肩を揺すった。
「普通はな、そうじゃがこれはお主のためのお主の武器じゃ。持ち主たるお主に名前をつける権利はあるじゃろ」
「えー……。名付けなんて、あんまり得意じゃねえんだけどなぁ」
「子供の名前をつけるようなもんじゃろ」
「オレの子供じゃないよ」
そういう意味でなら、やはり作ったロッシュヴァーグがつけるべきではないか。ソウヤはしばし剣を眺め、そして言った。
「斬鉄だな」
「斬鉄……」
「それしか浮かばなかった」
前に愛用していた金属の塊である剣。斬鉄Ⅱ、それともニュー斬鉄でもよかろう、とソウヤは思った。
「オレは斬鉄がいいと思う」
「フン、お主の剣じゃ。好きにするとええ」
そう言いながら、ロッシュヴァーグはどこか楽しそうだった。もともとの斬鉄は、名付け親がロッシュヴァーグ本人だったから、ソウヤがその名前に愛着を持って継承させたことが嬉しかったのだろう。
「そういえば、子供の名前で思い出したが、セイジとソフィアのところに子供が生まれたらしいぞ」
「ホント? それはおめでとうだな!」
銀の翼商会を引き継いで頑張っているセイジ少年。あれから三年、頼もしく成長していい青年になっているかもしれない、などと思いつつ、はて子供とソウヤは首をかしげた。
初めて聞いたような、あるいは誰かがそんな話をしていたような……いまいち思い出せないが、当のセイジ、そしてソフィアには、魔王を倒してから会っていないこと自体は変わらないので、そういうものだと思っておく。
「へえ、子供ね。そういや結婚祝いも出してないんだよな。……何がいいだろうかなぁ」
ベビー用品? 我らの大魔術師ジンに相談しておくか、などと考える。ロッシュヴァーグは鼻をならした。
「その前に、お主の生還報告が先じゃろうが。あやつらの中では、お主は死んだことになっておるんじゃぞ?」
「次に抱えている件が終わったら、まだ会っていない仲間たちに挨拶回りしようと思ってる」
時空回廊、あそこから生きて帰ることができたなら――ソウヤが表情を引き締めたのを見て、ロッシュヴァーグは察した。
「次は危ないのか?」
「あぁ、何せあんたに剣を頼むくらいの場所に乗り込むんだ。これが今度こそ今生の別れになるかもしれない」
「縁起でもないことを。……斬鉄があるんじゃ、お主は必ず帰ってくる。じゃが、次は三年以内に帰ってこい」
「はははっ、そんな時間はかからんさ」
軽口を叩きつつ、ソウヤは立ち上がった。
「じゃ、ロッシュ。オレは行くよ。またな」
「ああ、またな」
ロッシュヴァーグは我らの勇者を見送った。
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