後日談181話、そういえばソウヤって……
若い幹部は、超覚醒液と言った。
それは人を人間を捨てさせ化け物にする液体らしい。それを腕に打ち込まれたソウヤだったが。
「じんわりと温かいが、爆発するような感じはしないな」
「そ、そんなバカなッ!」
若い幹部――ビィルは大きな声を出した。彼を掴んでいるソウヤも思わず耳を塞ぎたくなるくらいの音量だった。
「薬が効かない? そんなこと、あるもんかっ!」
「そうは言ってもなぁ……。これ投与してからどれくらいで効果が発揮されるんだ?」
まるで世間話のように聞くソウヤである。まったく恐れていないどころか緊張感の欠けるそれだが、ビィルは動揺を隠せない。
「すぐだ、すぐ! 何でお前は平気にしていられるんだよ!? お前、本当は人間じゃなくて最初から化け物だったんじゃないか!?」
「人間ではない、というのは部分的には認める」
ソウヤはあっけらかんとしたものである。様子を見ていたミストは、意地の悪い顔になった。
「まあ、ソウヤときたら、ドラゴンブラッドを直接入れられても平然としていたし、人間の作った変化薬なんて、その程度だったんじゃない?」
「ド、ドラゴンブラッドだとッ……!」
ビィルは愕然とした。その名の通り、ドラゴンの血。超覚醒液の素材候補にして、究極の薬として求められた一品。あまりに希少過ぎて、わずかな量を得るのが精一杯だったそれを、薄めることなく直接投与された人間がいたとは。
そしてその変化に耐えて、原型を保っているという勇者ソウヤ。彼が魔王に匹敵する力を持ったのも道理。
超覚醒液の完成型による進化したスーパーヒューマン。それが勇者ソウヤだったのだ!――と、少々の誤解をしながら自分なりに納得するビィルである。
「ふふっ、アッハッハッハ! そうかっ、勇者とはそのように作るものだったのか! これは盲点。そうか、勇者はドラゴンブラッドの進化に耐えられた者だったかっ!」
「何か誤解されてるな」
ソウヤはミストを睨んだ。
「いい加減なことを言うなよ」
「あら、ドラゴンブラッドを使ったのは本当のことでしょう?」
ミストは楽しそうだった。
「まあ、それはソウヤが魔王を倒した後の話だけれど」
「あははっ――へ……?」
ビィルがキョトンとなった。魔王を倒した後、とは? それでは最初はただの人間だった?
ソウヤはグイとビィルを立たせた。
「まあ、そういうわけで、オレも最初は普通の人間だったよ。今ではハーフドラゴンになっちまったけどな」
「ド、ドラゴン……」
「さあ、もういいだろう」
ソウヤは、ビィルをアイテムボックスの時間経過無視に放り込む。そして気絶している幹部四人もまたアイテムボックス送りにした。
「これで終わりかな」
「なんか、拍子抜けだわ。もっとヤバそうなものが出てくるかとちょっと期待していたんだけど」
ミストは怖いことを言う。これにはソウヤは苦笑する。
「時空回廊の奥を目指すってやることがあるんだ。こんなところで余分な力を使ってられない」
「そんな全力を出してた?」
からかうように歩き出すミスト。ソウヤは室内を一通り見回し、めぼしいものがないのを確認した後、部屋を出る。
「本番前の試し斬りとかできたから、まあいいかなと」
ロッシュヴァーグが作ったバァ金属の剣もいい感じだった。回廊に行く前に実戦で使えたのは僥倖であった。
「黒の結社は国に引き渡して、さっさと時空回廊を目指そう」
ガルたち元暗殺者メンバーたちを復活してもらいに。思えばかなり回り道をさせられた。これでようやく目的に向かって進める。
ミストがノビをした。
「これで、黒の結社とやらも終わりね。まったく、ソウヤの命を狙うなんて、何千回でも地獄に落としてやらないと気が済まないわ」
「オレのことになると、本気で怒るのな」
「あなただって、ワタシに何かあれば本気でキレるでしょ? ン?」
ミストが何気ない調子で返したが、彼女の目を見た時、そこにある敬意と愛情を感じて、少しときめいてしまうソウヤだった。
「それはそう」
ソウヤは降参した。
「まあ、黒の結社のことは、国のほうで取り調べをやってもらうとして――」
「話逸らした?」
「それはない」
逸らしたかもしれない、とソウヤは思ったが口には出さなかった。ミストは肩をすくめる。
「それはいいけど、あなた、黒の結社の幹部たちをどうやって国に突き出すつもり? 公式にはあなた、死んでることになっているけれど?」
「あー……」
最近、ぼちぼちロッシュヴァーグに会いにいったりと王都にも足を運んでいるせいか、忘れそうになる。銀の翼商会メンバーを含めて、ソウヤの生存を知らせていない人間の実に多いこと。
「挨拶する気になった?」
「ガルたちを助けてから、ぼちぼち解禁していこうかと思っていたんだが」
なにせ時空回廊、神竜のいるところにいる守護者たちが、とてつもなく強そうでソウヤとて無事に帰れる保証がないから。
生きてましたからの、やっぱり死にましたは洒落にならない。公式死の状態で、目的を無事果たしたら解禁にしたほうが、混乱は最低限に収まる。
「ぬか喜びさせて、やっぱり駄目でしたが一番よくない」
余計なことは考えず、まず目的を果たそう。そして無事に帰ってこられるよう、全力を尽くすのである。
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