後日談178話、最深部へ突入するソウヤたち
「ここがそうなの?」
ミストは、目の前にそびえる巨大な扉を見つめる。ソウヤは剣の腹で自身の肩を軽く叩く。
「たぶん、そうじゃないか。魔力で探れない空間の最後がこの辺りだし」
「何に見えるかしら?」
「そうだなぁ……」
ソウヤは金属の分厚い扉を睨む。
「馬鹿デカい倉庫……って感じでもないか」
「幹部たちの隠れ家、という割には飾り気が足りないわね」
ミストは首をかしげる。
「ま、とりあえず、ソウヤ。ぶっ叩いて」
「オレ、力があり過ぎるからドアノッカーどころか扉ごと破壊しちまうんだよな」
ソウヤは剣を構えた。本来、こういうのはハンマーの仕事で、間違っても剣でやることではない。剣で斬るというのならともかく、ソウヤの流儀では叩く方が好みだった。
「うおおりゃあぁっ!」
バーンと勢いよく金属の扉が吹っ飛んだ。渾身の一撃は、常人では押すことも叶わない重量の扉すら破壊した。
「ふと思ったんだが、あんなクソ重い扉、普通には開けられないと思うんだが、どうやって出入りしているんだ?」
「それ、壊してから言うこと?」
呆れ顔になるミスト。
「普通に考えたら、何か仕掛けがあるか、魔法か何かで動かすんじゃない?」
「……なるほどな」
「でもワタシたちドラゴンの常識からすれば、ソウヤのやり方の方が圧倒的に正しい」
パワーで吹き飛ばす。小細工は必要ない。
「オレもだいぶドラゴンに染まってきたな」
「もう三年もドラゴンやってそれ?」
「オレなりのドラゴンジョークってやつだ」
踏み込むソウヤとミスト。扉が倒れた先の部屋は真っ暗。ソウヤたちの後ろから差し込む光が、部屋の奥にもう一枚の扉の姿を浮かび上がらせている。
「また扉か」
「さっきより小さいわね」
「マトリョーシカみたく、出てくる扉は段々小さくなったりして」
金属の扉に触れた瞬間、バチリと稲妻が走った。ソウヤは指先のちりつきを感じて、引っ込める。
「扉に電流を流しやがった」
普通の人間なら今のは危なかったかもしれない。ソウヤは再び剣を構えた。
「本当は扉の厚みを図りたかったんだが……。おかげで加減はできない、ぜっ!」
ドーンと再び扉が吹っ飛んだ。そして今度は中で何かがぶつかったらしく、悲鳴のようなものまで聞こえた。
「おや、誰かいたか? すまんな、外から魔力を探知できてなくてな。……大丈夫か?」
ソウヤが声をかければ、中にいた者たち――黒の結社幹部たちが目を白黒させた。
「き、貴様はっ!?」
「勇者!?」
男女二人ずつ。見るからに幹部らしい豪華な装飾の法衣を纏っている。ミストはニヤリとした。
「こいつらが黒の結社の親玉かしら? で、一番偉いのは誰?」
「問答無用!」
幹部たちが一斉に呪文の詠唱にかかった。その瞬間、ミストがフッと軽く息を吐き、ドラゴンブレスを放った。
室内ということもあってかなり加減したそれは、正面に立つ男女をその構築する魔法陣ごと破壊――はできなかった。
「稲妻!」
「氷牙!」
「紅蓮!」
三つの属性の魔法が飛んできた。ソウヤは前に出てバァ金属の剣でそれらを瞬く間に弾き飛ばした。
「馬鹿な!? 我らが大魔法を剣で打ち返しただと!?」
若い貴族風の男が叫んだ。ミストもまた舌打ちする。
「加減したワタシのブレスを防いだのは誰っ!?」
「それはグナーの神聖魔法だ!」
老魔術師が、一人だけ聖職者の服装の女性を見た。
「彼女の力を、我らが結社の触媒が強化しているのだ! たとえドラゴンのブレスであろうとも効きはせぬ!」
「……ソウヤ、全力ブレスを使っていい?」
ミストの目が冷ややかな色を帯びる。ドラゴンのブレスでも耐えられるという発言は、ドラゴンへの挑戦と受け取ったのだ。プライドの高い彼女たちが、その挑発を聞き流すことはしない。
「ダメだ」
ソウヤはきっぱり拒否した。
「ここでお前の全力ぶっ放したら、部屋が崩れて生き埋めだぞ」
その返しに、ミストは唸った。挑発に対してわからせてやらねば気が済まないドラゴンの性分である。
「ふはは、防げる! この防御があれば、勇者とて手も足も出まい!」
老魔術師――ワイスは興奮を露わにする。
「我らが結社が作り上げた魔術は、世界に通用する!」
「……あんなこと言わせていいの、ソウヤ?」
「オレはまだ何もしていないんだがな。とりあえず、ぶっ叩いてみるか」
自慢の防御魔法だか結界とやらが本当に耐えられるか、ソウヤは興味が湧いてきた。
「それじゃ――!」
ミストが加速し、幹部たちの元に踏み込んだ。聖職者――グナーが腕を前にかざした。
「守りの結界!」
ガンっと、ミストの竜爪槍が光の魔法陣によって阻まれる。凄まじい音がしたのは、それだけ強くミストが力をぶつけたからだ。
ソウヤも動く。新型の剣を結界に思い切り叩きつける。
ギャンッ、と嫌な音がして、結界にヒビが入る。グナーは驚愕する。
「嘘!? ただ剣で切られただけで――!」
「一発は耐えたか」
ソウヤは体を巡る力をほどよく纏う。
「守護者と戦う前に全力を出してみたかったんだ。この結界を練習台にさせてもらう!」
「ひっ!?」
グナーが顔を歪ませる。本来、傷などつくはずがない結界がやられている。それは如何に勇者ソウヤの力が規格外であることかを物語る。
彼女は察する。勇者ソウヤの伝説は伊達ではないと。魔王をも殺す豪腕勇者であると。
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