後日談175話、礼拝堂の攻防
わかっている待ち伏せほど、虚しいものはない。
ソウヤは、扉の向こうに集まっている人の魔力を感じていた。そしてそれはミストもまた同じで、扉を開けたところで激しい攻撃魔法が迫ってきた時も、奥に引っ込んでやり過ごした。
まるで嵐のようだった。地下礼拝堂の扉はズタズタに破壊され、様々な属性の魔法が炸裂して何が何だかわからないほどであった。
「あらあら、とんでもない歓迎ね」
範囲の外に身を潜めてミストは涼しい顔だった。まるで状況を楽しんでいるようだ。ソウヤは首を横に振る。
「ここまで侵入者を歓迎しないとはね……。挨拶したのにな」
「挨拶したからじゃない?」
訪問の際は事前に予約を、と気をきかせたつもりだったが、そうとは受け取ってもらえなかった。
「相当、勇者が恨まれていたのかしらね」
「ガチへこむな。いや、君が上の隠れ家を半分吹っ飛ばしたせいで怒っているのかも」
「人のせいにしない」
ミストは竜爪槍を握った。
「そろそろじゃないかしら?」
飛んでくる魔法が静かになった。あまりに攻撃を集中したから、どうなっているか目視できなくなったのだろう。
――あれだけ撃ち込めばそうなる。
「ここで『やったか?』なんて言ったら完全にフラグだな」
「異世界ではそう言うの?」
ミストは視界が晴れたら突撃する気満々で構えている。
耳を澄ませば、爆煙の向こうで、ざわついているのを感じた。侵入者を仕留められたのか緊張しながら注意深く見守っている。
『やったか……?』
――言いやがった!
確かにソウヤの耳はそれを聞き逃さなかった。そしてそれが合図だったようにミストが竜爪槍を横に振るった。
風が起き、煙を払い、そして集まっていた黒い衣装の者たちを薙ぎ払った。
「うわあっ!?」
吹き飛ばされる構成員たち。ミストが床を蹴り、一気に中へと突入した。ソウヤも剣を手にそれに続く。
「ほらほら、人様に殺すつもりで攻撃したら、どうなるかわかってるわよねぇ!」
ミストが、再び魔法を唱えようとした構成員を槍で貫く。力のまま槍を振り回し、刺した敵を遠心力込みで吹き飛ばすと次の標的へと向かっていく。
どよめきと悲鳴が木霊する。
「諦めの悪い……!」
ソウヤは、抵抗する構成員に剣を振り上げた。
「武器を捨てれば、助かったかもしれないのに」
敵が潰れた。命を狙われたこと以外に恨みはないが、戦うというのであれば容赦はしない。戦場というのはそういうものだ。
「ここは本来、そういう場所じゃないんだが……」
地下礼拝堂。どういう神を信奉しているかは知らないが、戦いとはもっとも遠い場所であるべきなのだ。
「そういう無粋なことをする!」
槍を手に向かってくる構成員。油断するべきではないのはわかっている。だがソウヤが軽く一振りすれば、槍を砕き、敵を返り討ちにした。
「オレは話し合いにきたんだがなぁ」
抵抗しないでくれと言ったはずだが、聞こえていなかったのだろうか?
ミストは次々に向かってくる敵を刺し、貫き、そして薙ぎ払う。飛んできた火球を竜爪槍で跳ね返し、術者へと跳躍。そのまま串刺しにする。
「……これで話し合いは無理があるか?」
しかし仕掛けてきたのは黒の結社側だ。自分たちから攻撃をかけておいて、この状況は自業自得というものである。攻撃に対して反撃に徹しているあたり、ソウヤたちの方がまだ理性的に振る舞っている。
「理性的、とは?」
積み上がっていく構成員の死体をよそに、ソウヤは嘆息する。ミストが道をこじ開け、横合いから回り込んできた手合いをソウヤが返り討ちにする。
「こいつらは半端だ」
本格的な戦士や魔術師もいるのだろうが、大半は素人に毛が生えた程度。ドラゴンや勇者相手に正面から挑んで勝てるわけがない。
「やめろよな。虚しくなるから――」
「勇者め!」
クロスボウの矢が飛んできた。ひょい、と身も軽く躱すと、ソウヤは左手に魔力を集め、衝撃波の魔法を撃ち込んだ。直撃を受けた構成員は壁にまで吹き飛んで激突して果てた。
「ば、化け物っ!?」
構成員たちに動揺が見られる。ミストの快進撃もあって、礼拝堂にいた構成員の大半がすでに命を落としていた。ここまで来ると、もはや彼らにとっては恐怖でしかない。
ソウヤは足に魔力をためて、爆発的な加速で生き残りのもとに飛んだ。制動のための着地をかませば、それだけでその若い構成員は悲鳴をあげた。
「ひっ、ひいぃっ!」
「話し合いをしようじゃないか」
ソウヤは見下ろす。その構成員はすっかり腰を抜かしてしまった。
「お前たちは黒の結社、だよな?」
礼拝堂の奥に結社のシンボルを飾っているのだから間違いない。
「お前たちの罪を教えろ」
「……え?」
わからないという顔をする若い構成員。ソウヤは睨んだ。
「何故オレが狙われなければいけないんだ? 理由があるんだろう? 教えろ。黒の結社ってのは何をしている組織なんだ?」
「な、何故それを話さなくてはならないんだ……?」
構成員は言い返す。腰は抜けている癖に、威勢は張ろうとするのである。そんなことをしても大きくはなれない。ソウヤは呆れも露わに構成員を見やる。
「オレがいまいち本気になれないからだ。命を狙われた時点で、お前たちはオレに報復されても文句をいえない立場だろうが……、オレとしても、何も知らずに組織を潰すようなことはしたくはないんだ」
もちろん、先に潰した赤の結社のような悪党であるなら、喜んで潰すが。
「人は誰しも理由が欲しいのさ。わからないまま決着ってのは、モヤるだろう?」
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