後日談173話、アジトまでご案内
「何故、バレる!?」
魔術師ルアイは、ガラガランダ伯爵邸で、勇者ソウヤと執事長が話し合うのを見張っていた。
あの勇者、戻ってくるかもしれない――オイユから見張っておけと言われたルアイは、姿を隠して伯爵邸にいた。
オイユの班に所属するルアイは、彼と共にこれまでも伯爵邸に何度も足を運んでおり、内部の構造も屋敷にいる者の顔も全て把握していた。
そして迷うことなく執事長を監視。黒の結社について詳細は知らないまでも、存在を知っているこの男が余計な詮索を始めないかと用心していたら、本当に勇者を名乗ったソウヤという男が戻ってきた。
黒髪の女性戦士を連れていたソウヤは、執事長と話を始めたが、その連れである女性戦士が凄まじい威圧を放った時、離れて隠れていたルアイもまた背筋がゾッとしてしまった。……そしてそれがいけなかった。
動揺で潜伏が解けたか、その女性戦士――ミストに察知され、一直線に向かってきた。
とっさに危機を感じて、体はすぐに動いた。潜伏を頼りに立ち尽くしていたら、立ち所に捕まるかやられていただろう。
己の無意識の退避行動に喝采を叫びつつ、ルアイは逃走を図った。しかし追跡者もまた素早く、ルアイが新たに張った潜伏魔法も効果がないようだった。
「仕方ない――!」
窓を突き破り、屋敷の外へ脱出。収納魔道具からフライングボードを出して、それに飛び乗った。
高くは飛べないが地上近くを高速で飛行できる飛行板は、あっという間に伯爵邸の敷地を抜ける。このスピードならば、追跡者を振り切ることも容易い。
「洒落臭い……!」
ミストは背中に翼を出して一気に飛んだ。追ってくる彼女の姿に、ルアイは目を見開く。
「翼!? 人間ではないのか!?」
ルアイはフライングボードに魔力を注ぎ、スピードアップを図る。正直に言えばフライングボードは比較的小型なので、それに乗るというのも割と難しい。スピードを上げれば上げるほど、強い風が乗り手を襲い、制御が難しくなる。
最悪ボードから落ちて大怪我も笑えないがあり得る。ルアイも最大速度まで上げたことはないが、もはや立ってコントロールは難しく、しゃがんでボードを手で掴みながらの飛行となっていた。
どこまでスピードが出せるのか。わからない。怖い。だが立ち止まるわけにはいかない。あの恐るべき威圧を放たれる『何か』が追ってきているのだから。
――あれは一体何なんだ……!?
翼を持つ人間などいない。飛行する魔法の類いでも、わざわざ翼を生やす意味はない。であれば魔族か?
しかしそうなると勇者ソウヤと魔族がどうして行動を共にしているのかという疑問が出てくる。
だがそれに集中して考える余裕はルアイにはなかった。
・ ・ ・
ソウヤは執事長と共に屋敷の壊れた窓を見やり、近くの扉から庭の外に出た。
「見張られていたようですね」
「ええ、まったく」
執事長は汗を拭った。
「まさか屋敷に忍び込まれていたとは……。今後、黒の結社と関係している者とは付き合うのはやめるべきですな」
「でしょうね。危ない組織とは関係しないほうがいいです」
ソウヤは追尾しているミストに念話を飛ばした。
『ミスト、聞こえているか?』
『もちろん!』
ミストは心なしか声が弾んでいた。日頃の退屈を抜けだして、久々に血がわいているのだろうとソウヤは思った。
『今どこだ?』
『畑の上を飛んでる』
聞けば、空飛ぶ板の上に乗った男が逃走しているらしい。
――ボード? スノーボードみたいなやつかな。
ソウヤは想像しつつ、魔力の流れを掴むべく意識を研ぎ澄ます。飛行するミストの魔力を捉え、その先を飛行する人間を魔力の目で見つける。
『見えた。ミスト、適当に追いかけてくれ。捕捉したから、適当に振り切られてもいいぞ』
『捕まえないの?』
やや不満そうな返事である。ソウヤはさらに念話を送る。
『適当に泳がせて仲間かアジトのもとまで飛ばせろ。そちらのほうが手間も省ける』
『確かに!』
捕まえて戻って、そこから情報を引き出すより、逃げ込んだ先に踏み込んだほうが手っ取り早い。
そもそも、捕まえて生きたまま連れて戻るのも面倒だとミストなら思っていそう。
『わかった。適当に振り切られるわ。こちらへこれそう?』
『すぐに行くよ』
ソウヤは念話を終えると、執事長に振り返った。
「じゃあ、ちょっと黒の結社の一味を追ってきます」
・ ・ ・
しつこい追っ手を振り払ったルアイは、しばしつけられていないのを確認したのち、隠れ家へと飛んだ。
仲間たちが危惧した通り、勇者ソウヤは黒の結社を探っていた。これを速やかに報告せねば……。
そして次の行動を組織で決めるのだ。拠点を捨てて逃げるか、勇者と全面対決か。
地下の秘密拠点にルアイは到着した。見張りの構成員に、翼の生えた女性戦士が近くに現れるかもしれないから警戒するように注意し、ルアイは仲間たちの元へと駆けた。
「オイユ!」
見かけた魔術師にルアイは声をかける。
「あんたの睨んだ通り、ソウヤはガラガランダ伯爵邸に現れた! 奴らは俺たち黒の結社を探している!」
「想像通りというわけか……」
オイユは片目を閉じた。
「奴ら、と言ったか?」
「ああ、もしかしたら魔族かもしれない。翼があって空を飛んでいたからな」
ルアイの報告に、オイユは頭をかたむける。
「魔族? どういうことだ?」
「わからん」
そう言ったところで、突然爆発音が外から響いた。わけがわからないルアイ。オイユは顔をしかめた。
「貴様、尾行されたのか?」
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