後日談172話、伯爵邸に再訪問したら
昨日の今日で、ソウヤはガラガランダ伯爵の屋敷に戻ってきた。
なめられたら即報復というドラゴン精神旺盛なミストも同行した。何だか面子を潰されたことへのお礼参りするヤクザのようである。
ある意味律儀ではあるドラゴンの習慣に、半ばその一員であるソウヤもまた乗るしかない。
理由をあげれば、やはり面子の問題だ。命を狙われた。それもドラゴン種族の上位、四大竜の一つが。
火のドラゴン一族への報復に動いたことで全ドラゴンを敵に回した魔王軍残党の如く、ドラゴン界のレジェンドに手を出してただで済むわけがない。大地属性のドラゴンたちが比較的のんびり気質ではあっても、トップにふざけたことをされれば黙ってはいない。
大人しい奴ほどキレたら怖い、という格言めいた教訓を照らし合わせれば、暴徒と化したドラゴンたちに世界を滅ぼされる前に、ソウヤ自身が動くしかなかったのである。
――そもそも、狙われたのはオレだしな。
しかも相手は、勇者ソウヤへの怨恨が原因のようであり、ドラゴンとはまったく関係がない。
が、それがドラゴンたちに通用するかどうかは別問題である。過去のことは過去のこと、今のドラゴンに喧嘩を売ったことが問題なのだ。
そういうことも含めて、狙われたソウヤ自身がケジメをつける。それもミストが囃し立てるまでもなく、速やかに他のドラゴンたちが動く前に、である。
ガルたちを優先させて、黒の結社を後回しにするなどと言ったら、アクアドラゴンが。
『じゃあ、私が代わりに黒のなんちゃらを滅ぼしてこようか……?』
ニチャリと嫌な笑みを浮かべて、暴れる機会をうかがっている危ない水属性さんの図が思い浮かび、ソウヤは背筋が凍るのである。
それと比べれば、ミストは可愛いほうである。
「何か言った? ソウヤ」
「ん? ミストは可愛いって言ったんだ」
「え、ワタシが? 可愛いですって?」
そこで突然前髪を気にしたりするところは実に人間らしい振る舞いだった。ドラゴン化しつつあるソウヤとは逆に。
屋敷に到着。門番が反応した。
「これは先日の方……。今日はご予定はございましたか?」
ソウヤのことを覚えていた。翌日に来れば忘れもしないか。そう頻繁に人がやってくる屋敷でもない。
「今日は執事長に会いにきた。昨日のやりとりの後で、二、三確認することがあって」
「執事長ですか? わかりました。確認致します。お待ちください」
門番の一人が屋敷に行く。もう一人と顔を合わせ、ニコリと笑みを浮かべるソウヤ。ミストがその門番にガンを飛ばしているのは置いておいて。
屋敷から門番が戻ってきた。
「お待たせしました、ソウヤ様。どうぞ」
・ ・ ・
「黒の結社、ですか……?」
執事長がわずかに怪訝な声を出し、ソウヤは続けた。
「ここの帰りに襲われましてね。オレ自身は何ともないんですが、後ろに控えている方とか一族とかまあお怒りでして」
「……」
ミストが竜の威圧を発している。執事長は冷や汗を流したものの、足がすくむこともなく、彼はハンカチで汗を拭った。
「何やら凄まじい力を感じます。……怒り、ですかな」
「いい感じ方だと思いますよ」
そこらの戦士ですら腰が砕ける竜の威圧を受けて、なお立っているのだから。
「何か心当たりはありませんか?」
「……こういうことを話すと消されるというのが相場ではありますが、お約束いただけますかな? 話す代わりに、黒の結社を潰していただけると」
「そのつもりです」
ソウヤはミストに威圧をやめるように手を振った。
「あなたも、彼らの仲間なのですか?」
「仲間ではありませんが、その存在自体は知っております」
執事長は一息ついて、背筋を伸ばした。
「私が伯爵の遣いとして雇う外部の者の中に魔術師がおりまして、その中に黒の結社という組織に属している者が」
「黒の結社の魔術師を雇っている? どんな組織か知りながら?」
ソウヤの視線が険しくなるが、執事長の表情は変わらなかった。
「詳しいことは存じておりません。何やら怪しい噂を小耳に挟んではいますが、しょせんは噂。それにこちらの依頼に関しては、ほぼ完璧にこなしていましたし」
雇っているうちに、どうも黒の結社なる組織に関係しているとわかってきたが、その組織のことではっきりしていることはないという。
「先日も探りを入れようとしたのですが、本人に深入りすると命の保証はできないと脅されまして……」
「なるほど」
話したら消されるというのは、そういう脅しの言葉を受け取ったことがあるからか。執事長の話が本当であれば、この件にガラガランダ伯爵は関係なく、外部の雇っていた魔術師がたまたま黒の結社の一員だったということだろう。
「で、その魔術師には、どこに行けば会えますか?」
ソウヤが問うた時、すっと、ミストが動いた。勢いよく駆けて奥へと駆け出す。執事長は驚く。
「なっ、何です? 突然!?」
「妙な気配を感じたので」
ソウヤが、去ったミストの代わりに答えた。
「ひょっとして、例の魔術師、ここにいたんですか?」
「いや、今お願いしている用件はありませんから、いないはずですが……」
だとすれば見張られていたのでは――ソウヤは思った。その魔術師が黒の結社の一員ならば、組織に通報したのはその人物で、屋敷に戻ってきたソウヤの動向を観察しようとしていたのだろう。
その気配に一瞬、敵意というか殺意じみたものを感じたから、ミストが動いたのだろう。
次の瞬間、窓ガラスが割れる音が聞こえた。
「派手にやってるな……」
ソウヤは呆れもあらわに髪をかきながら、執事長に「すみませんねぇ」と謝罪した。
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