後日談171話、ドラゴンは報復だと叫びまして
「赤の結社?」
その単語を聞いた時、ミストはわずかに首をかしげ、何かを思い出そうとするような顔になった。
「うーん……駄目ね。心当たりはないわ」
「そうか。まあ、もう十三年も前の話になるんだがな――」
ソウヤは、バァ金属製の剣を取り戻し、一旦クレイマンの浮遊島へ戻っていた。そこでミストらに完成した剣と、それにまつわる騒動の顛末を説明した。
そこへ老魔術師が部屋に戻ってきた。
「ロッシュヴァーグ氏には君が無事、剣を取り戻したことを連絡しておいたよ」
「すまないな、爺さん。ちょっと面倒になりそうなんで、ロッシュの工房に戻るのを見合わせたんだ」
「そうだろうとも。私の浮遊島は下界に知られていないから面倒は起きない。存在自体が面倒ではあるがね」
ジンはそう皮肉った。
「それで、どこまで話したのかな?」
「俺を襲ったヤツらが赤の結社のアミュレットによく似たシンボルを持っていたって話までだな」
ソウヤは、回収したアミュレットと赤の結社のアミュレットをそれぞれ持って見比べやすくした。
ミストは深く考えずに言った。
「色が違うわね」
「あと質の面も違うね」
ジンが自身の顎髭を撫でつけた。
「赤い方のアミュレットのほうが、いい素材を使っている」
「持っていた奴のランクの違いだろうな」
今回ソウヤを襲ってきた魔術師たちは、はっきり言えば下級戦闘員といったところだろう。対して赤の結社のアミュレットの持ち主はリーダークラスの人材が持っていたものだった。
「で、その赤の結社って何?」
ミストが問うた。十三年前の魔王との勇者パーティーのソウヤのことは、遠巻きに見守っていた彼女だが、途中から故、当時のことを全て把握しているわけではなかった。
「詳しいことはオレもよくわからない。何やら超常の力を手に入れるために手段を選ばない組織で、あの頃は地獄の悪魔を呼び出して力を手に入れようとしていた」
「悪魔召喚か」
ジンは首をかしげた。
「表では話せないような話だね。国なり宗教なりが知れば潰そうとするだろう。……勇者にお呼びがかかったのかな?」
「そういうことだ。オレが赤の結社の殲滅を頼まれて、当時の勇者パーティーの仲間たちと討伐した」
ソウヤは思い出す。まだあの頃は、悪党とはいえ『人』を斬ることに、躊躇いがあった。モンスターや魔族を倒すことには慣れたが、盗賊などでも人を斬ることには抵抗があった。
だが相手が悪魔を召喚するために子供を誘拐して生け贄に使っていたと聞き、葛藤を押し殺して戦った。
「王国軍の掃討もあって、壊滅したんだけどな。赤の結社は」
ソウヤは改めて、赤の結社のものに似た黒の結社を自称するものたちの持っていたアミュレットを見やる。
「赤の結社の残党が新たに結成したのか。赤の結社を真似た模倣集団か」
「興味深いね」
ジンはソウヤからアミュレットを受け取る。ミストは首を横に振った。
「そうかしら? ソウヤを攻撃するということは、ワタシたちドラゴンに対する宣戦布告でもあるわ。相手が何だろうと叩き潰す!」
「物騒だなぁ」
「ソウヤ、あなた襲われたのよ? わかってる?」
ミストの指摘に、ジンは肩をすくめる。
「君を狙ったということは、勇者としての過去があればこそだろうね。赤の結社の残党と考えるのが自然じゃないかな」
老魔術師は、アミュレットをじっくり観察する。
「ソウヤ、これの出所とか似たもののありかとかわからないのか? アースドラゴンの力で、探れたりは?」
「地面に埋まっていないと難しいな」
ソウヤは否定した。
「魔力の目で見るというのもやってみたが、そっちは材質含めて形から見分けが難しくてやめた。……教会系のアミュレットと判別がつきにくくて」
「それはそうだ。この辺りの人間は、日曜には礼拝に行く習慣を持つ者が多いからね。南や東の国だったら、案外わかりやすかったかもしれないが」
「断固! 報復!」
ミストが声を大にした。ドラゴンに手を出したら、ただではおかない――それがミスト他、一般的ドラゴンの考え方である。
しかもソウヤは、四大竜の一つ、アースドラゴンなのである。上級ドラゴンに刃を向けられたとあれば、孤立主義を貫くドラゴンたちも動かざるを得ない。
――のんびり者が多い大地属性ドラゴンのおっちゃんたちは……どうなのかな。
いまいち報復に動くとも思えないソウヤであるが、すでに身近なところでミストがヒートアップしているので、どのみち黒の結社への報復は確定事項なのだろう。
――ガルたちを早く復活させてやりたいんだがなぁ。
アイテムボックスの時間経過無視空間に保存されているガルと仲間たち。時空回廊の奥にいる神竜の力に縋ろうというのだが。
――オレが死なない限り、ガルたちの時間は止まっているし、神竜だって逃げたりはしない。
多少、数日、半月程度遅れたところでどうという問題でもない。
「実際に命を狙われたわけだしな。何かよからぬことを企んでいるから、元勇者を狙ってきたんだろう」
無視もできないか、とソウヤは半ば諦めの境地である。知らないところでまた子供が犠牲になっていたら寝覚めが悪いのもある。
「だが手掛かりはないんだろう?」
ジンが確認するように言えば、ソウヤは少し考える。
「どこからオレの名前を聞いたか考えたら、ガラガランダ伯爵の屋敷なんだよな」
伯爵は他人に興味ないから関係なさそうだが、魔術師絡みとくると雇用した執事長が何か知っているのではないか。
「これは今一度、訪問する必要がありそうだ」
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