後日談170話、黒の結社
相木ソウヤなる人物が現れた。
それを聞いた時の黒の結社内の反応は衝撃であった。
死んだはずの勇者が蘇った!
「そんな馬鹿なッ!」
「偽名だ! 死者が蘇るはずなど――」
「アンデッドということか?」
「いや、アンデッドが昼間から表を出歩くものか! 死体とは思えん」
喧々諤々。
「だが、あの勇者、前にも蘇らなかったか?」
「あれはエンネア王国が勇者の死を偽装していたのだ!」
「再び偽装したというのか!? 何のために?」
「私が知るか!」
これは見ていられないな――魔術師オイユは、結社構成員たちの動揺っぷりに、小さくため息をついた。
混乱している面々を冷めた目で見ていた彼は、同じく場を見ていた幹部のトルメンタを見た。
「どう思います?」
「どうもこうも、黒の結社の前身である赤の結社は、昔、勇者ソウヤとその仲間に潰されているからな」
古参にして、現組織の前を知るトルメンタは、いかつい体躯を持つ戦士の体つきながら魔術師である。その相貌は鋭く、険しい。
「話だけでも聞いている連中からすれば、ソウヤの名前が出てきただけで動揺するのも無理もないことだ」
赤の結社同様、黒の結社もあの勇者に攻撃されるのではないか。いや間違いなく潰しにくる――構成員たちはそう考える。
「私は、貴方ほどの古参ではない。というより赤の結社時代の話はほとんど知らないのですが」
オイユは淡々と尋ねた。
「何があったんです?」
「我々の考えが、世間に受け入れられなかった。それだけのことだ」
トルメンタも感情を表に出さない。
「我々は『力』を求め、そのためには手段を選ばなかった」
「色々血なまぐさいことをしていたという話は聞いています」
オイユは遠くへと視線を向けた。
「悪魔の集会とか、悪魔と契約したとか……まあ教会から敵視されていたとか」
「赤の結社の血を受け継いでいる黒の結社の存在を知れば、いまだって教会は我々を排除するだろうよ。教会だけじゃない。国も討伐に乗り出すだろう」
トルメンタの目が鋭くなった。
「いや、もうすでに我々の存在が嗅ぎつけられた。だからあの男――勇者ソウヤが現れた」
「ガラガランダ伯爵の屋敷に現れたのは、バァ金属の回収のためでは?」
「ふん、それだけならば、わざわざ勇者ソウヤの名を口にせんだろう」
表向き勇者は三年前に死んだことになっている。貴重なバァ金属を取り戻しにきただけならば、わざわざ勇者の名を使う必要はない。
バァ金属とソウヤの因果関係がないからだ。勇者とバァ金属が結びつかない。つまりソウヤを名乗らずとも、他の有力者の名を使っても解決できる問題だったのだ。
だがわざわざ『ソウヤ』の名を使った。
「これは我々を表に引きずり出すための罠だぞ」
「……罠、ですか」
オイユは口元を緩ませた。だとしたらザル過ぎないか。勇者が、ではない。黒の結社の対応が、だ。
「それを何故指摘してやらなかったんです? もう刺客、出てしまったでしょう?」
トルメンタの話が本当であるなら、黒の結社はまんまと餌に釣られたことになる。殺害目的で構成員を送ったのだから。
「スケープゴートというやつだ。我々の存在が怪しまれているというのであれば、尻尾を切り離すべきだろう?」
「……恐ろしい人だ」
オイユは歪んだ笑みを浮かべた。
「素質のない雑魚どもを生贄にするわけですね」
「ここにいて何の役にも立たない者が増えてきた。力を求めるという理念さえ忘れてしまった愚か者さえな。組織にとって不要な塵が」
ふだん喋ることが少ないトルメンタをして、ここまで言わせるのは、相当彼の中で憤りがあったのだろう。オイユは口元をさらに歪めた。
「怖い怖い。……私にその話をしてくださったということは、それなりに評価をしてくださっていると考えてよろしいので?」
「愚問だ」
「ええ、愚問でした。すみません」
まったく悪びれた様子もなくオイユは言った。結社の同志を切るという話をした時点で、トルメンタからの信用を勝ち得ているのは理解できるというものだ。
「愚問ついでに、これからどうするかお聞きしても?」
・ ・ ・
魔術師の刺客5人を倒すのに、ソウヤはさほど時間がかからなかった。
ロッシュヴァーグの作ったバァ金属の剣は、相手の魔法をいともたやすく両断し、直接殴れば斬鉄を思い起こさせる手応えと破壊力を感じさせた。
素晴らしい出来だ。ソウヤはこの新しい剣に惚れ込んだ。ドラゴンのパワーで振り回しても壊れないという点は、まさに命を預ける武器にふさわしい安心感を与えた。
「威力は申し分ないが……うん」
思い切りぶん回したことで、血と肉片の欠片になってしまった刺客。威力があり過ぎるというのは考えものか。
「守護者相手にするにはこれでも足りないかもしれないが……人間相手に使うものではないかもしれない」
使ってみた手応えに満足するも、ちょっと振っただけで倒してしまった魔術師については、何とも言えない気分になる。
かろうじて人の体の一部を残している死体を、ソウヤは検分する。
「黒の結社と名乗っていたが……こいつら何なんだ?」
懐からアミュレットが出てきて、ソウヤはそれをじっと睨む。この形、どこかで見た気がする。
どこだったか――戦場ではとりあえず拾う癖があるソウヤは、アイテムボックス内を探る。
「おっ、これか……?」
似たものの印象を頼りに探して見つかったのは、アミュレット。しかしその形は――
「似ている……かなぁ?」
赤の結社のアミュレット。これは偶然か?――ソウヤは首を捻るのであった。
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