後日談169話、追っ手
バァ鉱物をロッシュヴァーグの工房から盗み出した実行犯は、何者かによって殺されていた。
それを処分したのは魔術師。執事長の話からガラガランダ伯爵の手の者のようだった。どうにも実行犯たちは素行が悪かったらしく、それがあの末路を招いたようだ。
ソウヤとしては、最初は強盗、次に魔術師が犯人だと思って足取りを追ったら、ガラガランダ伯爵のもとに辿り着いた。
荒事を覚悟しつつも、得体のしれない貴族が出てきたので、最初は穏便に様子をみて、バァ鉱物強奪犯と関係があるか確証をとるつもりだった。
実際、黒だったわけだが、話せばあっさり剣の返却に応じた。
話せばわかる。
よく言ったもので、ここでドラゴンたちの流儀で飛び込んでいたら、果たしてどうなっていたことか。
仮にも貴族の屋敷一つを吹っ飛ばして何も起こらないはずがない。短気は損気。我ながらよく自重したとソウヤは思う。
ファイアードラゴン一族を滅ぼすべく行動したことで、ドラゴンたちの逆鱗に触れて滅ぼされた魔王軍残党並みに早まった真似をするところだったかもしれない。
とはいえ、そもそもロッシュヴァーグの工房から鉱物強奪をしなければ、こういう事態にならなかったのも事実である。
貴族であることを抜きにすれば、怒鳴り込まれてもおかしくないことをガラガランダ伯爵は命じたわけだ。
ただ、ソウヤは伯爵については、落ち度はあれど報復には値しない人物だと見て判断した。
あの人は他人に興味がないのだ。
それでいて金も地位もあるから、多少強引な手に出ても何とかなってしまう。彼に仕える執事長が、ロッシュヴァーグ工房の被害と聞いた時、あっさり慰謝料を支払うと言ってきた時点で慣れてしまっているのだろう。
多少の面倒事の処理は伯爵の判断を仰がずとも執事長が処理できる点からもそう推測できる。
こうなってくると伯爵は、ただバァ鉱物を手に入れろと命じただけで、工房を荒らせとは言っていないのだろう。手段についてガラガランダ伯爵は関心がないのだから。
手に入れるために雇った交渉人――実行犯が盗賊もどきだった。それがあの騒ぎを引き起こした。交渉人に雇ったのが銀の翼商会だったなら、穏便に済んでいただろうに……と思わずにはいられない。
チンピラを雇ったのが運の尽き、というやつだ。だがそのチンピラゴロツキは、伯爵の手の者である魔術師が始末した。
おそらく、伯爵と実行犯の間に立っていた人物なのだろうが、ロッシュヴァーグが怪我をする羽目になったのも、この中間の魔術師の人の見る目のなさが原因ではないか。
「やっぱり、一言言ったほうがいいか……?」
この間に立つ人間が注意しないと、また余計な面倒を引き起こすのではないか。ソウヤが絡むことはないだろうが、他にも似たような伯爵からの注文が出た時などに。
屋敷から出て、広い田園地帯の間を行く。人が見ていないところで変身して帰ろうと思っていたら、結構歩いてしまっていた。考え事をしていると以外に歩けてしまうものだ。
それはそれとして。
「あんた、さっきから人の後ついてきているみたいだが、何か用か?」
かなり歩いた原因は、人がいたから。ソウヤが睨むと、旅人風の格好をしたその男は、ふっと目を細めた。
「お命、頂戴致します――!」
風の刃。肉眼では捉えられない一撃が男の振るった手から放たれる。ソウヤはそれを一歩横に動いて躱した。
「!? 見えるのか!?」
「そんだけ魔力を集めていたらな!」
ソウヤが男を睨んだ理由。彼の右手に魔力がすでに集まっていたから。これはいつ魔法が発動してもおかしくない準備状態。
「いきなり攻撃してくるとは穏やかじゃないな」
伯爵の命令か? いや他人に興味がない彼が、こういう命令を出すだろうか? むしろあの慰謝料の手配をした執事長のほうが可能性はあるか。表向き支払うふりをして実はビタ一文渡すつもりはないとか。……チンピラたちも魔術師が処理したというし、そちらを疑うべきだったか。
――で、その魔術師というのがコイツか。
いや、こいつらか。魔術師は一人ではなかった。ソウヤを取り囲むように動く彼ら。
「元勇者というのは、どうやら本当らしい」
最初に襲撃してきた魔術師が言った。
「そのまま黄泉の世界にいればいいものを……。我ら黒の結社を滅ぼすために現れたか」
黒の結社?――何やら聞き慣れないワードが耳に届いた。伯爵や執事長とは関係ないのか……?
「やれ!」
周りの魔術師らが一斉に魔法を放ってきた。
――火の玉に電撃弾、氷つぶてに……拘束魔法か。
ソウヤは金縛りのように体が動けなくなるのを感じた。瞬時に周囲の魔法の種類を見分け、まずは拘束魔法の構成を操作。それから――いや、間に合わない!
拘束が不充分になったところでかろうじて体を動かし、まず一番早く飛んできた電撃を回避。一歩向きを変えるついでに、氷つぶてが背中をかすめ、次にしゃがんで火の玉を避ける。
魔術師たちが驚愕する。
「なっ――!?」
「全部躱した!? 馬鹿な!」
「何故、動ける!」
何故かって?――ソウヤは拘束魔法を完全に解除し自由になる。これがジンなら、一目で全部解体していたのだろうなとソウヤは思った。魔法に関してはまだまだ精進が足りない。
「属性の違う魔法を同時に撃ってもな。弾速が違うから、まあ体運びで躱せるってもんよ」
勇者を舐めるなよ。魔族相手にどれだけ修羅場をくぐり抜けてきたと思っているんだ――ソウヤはアイテムボックスから、バァ金属で作られた大剣を取り出した。
「あんたらに恨みはなかったんだがな。仕掛けてきたのは、そっちだからな……!」
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