後日談165話、クライアントと魔術師
バァ鉱石を持ち去った魔術師たちは、地下道の分岐を曲がると、その奥の行き止まりに辿り着いた。
「ルンド・フェル・アスラ・ディ・ガルティ」
その瞬間、地面に刻まれた魔法陣が光り、魔術師たちを転移させた。視界が変わり、深い森の中に出る。
周囲の確認を済ませた後、魔術師たちは進んだ。やがて森が開け、広大な宮殿と見まごう大きな屋敷が彼らの前に姿を現した。
「相変わらず、見た目は荘厳だが、空虚な屋敷だ」
魔術師たちのリーダー――オイユは冷めた顔で呟くと、敷地を横断して屋敷へと到着した。
番兵とやりとりの後、屋敷内に通され、オイユらは煌びやかな装飾の目立つ廊下を大股に進む。
向かった先は、屋敷の主の部屋、ではなく保管庫。各地から集めた鉱石はもちろん、サイズが大きく豪華な宝石などが、きちんと整理されそれぞれの台座の上に設置されていた。ひとつの博物館のような佇まいである。
そこに髭を生やした老齢な主が待っていた。オイユらが一礼すると、やや背の曲がった、しかし目つきは鋭い屋敷の主、ガラガランダ伯爵は口を開いた。
「待っていたよ。成果は?」
「こちらに」
オイユが合図すると、部下の魔術師が収納魔法具から、バァ鉱物とそれから作られた大剣を台座の上に置いた。
「ほう、これが幻の鉱物か……」
ガラガランダ伯爵は鉱物マニアだ。各地の希少な鉱物、鉱石の収集家である。ただそれだけであれば何の問題はないのだが、彼の悪いところは貴族であるという特権ゆえに傲慢になり、我慢がなく、欲しいものを手に入れるために手段を選ばないことであった。
――ついでに、この男は人間に関心がない。
オイユは心の中で呟く。すでにガラガランダは、オイユたちの存在など忘れたようにバァ鉱石に夢中であった。
運んできた者たちへの礼を言うでもなく、報酬について話すでもなく、自分を優先させる。
オイユたちは黙って、伯爵が一息つくまでひたすら待った。貴族を相手にするというのはそういうことだ。いかにこちらに用事があろうとも、貴族の機嫌を損ねるより大事なことなどない。
付き合いからそれがわかっているオイユは態度には出さず、ひたすらガラガランダを待った。
慣れているとはいえ、その内心ではこの老いぼれ伯爵に対する悪態をつきまくるのを忘れない。
というより他にすることがないからだ。貴族は、貴族以外の者の都合など何も考えないのである。
「この光沢は独特だ」
伯爵は呟いた。もちろん視線はバァ鉱石に注がれたままである。
「何とも不思議だ。まるで磨かれた大理石を思わせる。これが自然のものだというのか……」
台座の上に置かれた鉱石、その中で一番小さな欠片を見下ろすと、控えていた従者に人差し指だけで『持って来い』と合図する。その従者は盆の上に片手用の金槌を置いていて、それを主に差し出した。
ガラガランダは金槌を取ると、よどみなく的確に鉱石を叩いた。老いてなお力を感じさせる一撃は、まだ人を殺せると、見ていたオイユに感じさせた。
「ふむ、なるほどこの硬さ。本物だな」
欠片でさえ無傷。
「金属になる前からこれだ。他とは硬さがまるで違う。……わかるかね、魔術師」
相変わらず名前を覚えない人だ――オイユは口を開いた。
「魔法金属の元なのはわかりますが、伯爵閣下ほどの目利きではありませんので」
「フン。貴様にはオリハルコンとアダマンタイトの違いもわからんのだろうな」
ガラガランダは鼻をならした。
貴重な魔法金属、その二大巨頭を例に出されて、オイユはムッとする。魔術師に魔法金属の話を振るのは、いかに伯爵が彼らを馬鹿にしているかの証明であった。
「見た目をそれらしくしたら、オリハルコンのフリをしたアダマンタイトも、アダマンタイトのフリをしたオリハルコンの見分けもつかないのだろう。魔術師は魔法の深淵を探る者というが、鉱石に関しては関心がなさ過ぎる」
「肝に銘じておきます」
オイユは淡々と答えた。関心がないわけではないが……鉱物マニアのガラガランダの前では比較しようがない。一面の真実である。だから一理あることにオイユは反論はしなかった。
「もうよい。下がるがいい。いつものようにな」
「はい、閣下。失礼致します」
これだ――オイユは一礼し、部下と共に保管庫を後にした。仕事のことも、その労を労うこともない。仕事であったことで報酬や要望についての話を一切切り出す間を与えない。
――これだから貴族というやつは。
「お疲れさまでございました」
執事長が、オイユたちを待っていた。少しは話のわかる者である。仕事の後処理の話はそちらでしろ、という伯爵の手回しである。オイユにしても、ここで話や報告ができるから無理にガラガランダに進言したりはしない。
「どうでしたか、仕事の方は?」
「まあ、実行犯たちが文句を言ってきたので処理しました」
オイユが事務的に応じると、執事長の目が光った。
「ほう……殺されたのですか?」
「礼儀を弁えず、言われていない事柄に対して文句を言い、報酬の増額を要求してきたのです。酷い話ですよ」
「それは大変でございました。手間賃として報酬を上乗せしておきます」
「助かります」
話が早くて本当に助かる。オイユがわずかに口元を緩めれば、執事長は思い出したように言った。
「これは雑談なのですが、そちらの方はどうでしょうか。例の黒の結社……順調ですかな?」
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