後日談158話、大地から世界、そして宇宙
アースドラゴンは地に還った。
ソウヤはあぐらをかくように座ると静かに目を閉じた。気を落ち着け、呼吸を整え、その意志を大地へと伸ばす。
かの大地竜の遺言だ。大地の声に耳を傾け、大地に力を伸ばし、一体となる。そうすれば、問題は解決すると。
この大地竜の島には、魔力が満ちていた。地中には溢れんばかりの力があった。地の底を流れる魔力の大河。それは命を運び、そこに棲む生き物たちの糧となる。
命のサイクル。生まれ、育ち、やがて死ぬ。現れては消えて、消えては現れる。その存在を感じる時、ふと砂粒一つと重なる。この存在に意味があるのかとさえ思える砂粒一つ一つに世界が詰まっている。
世界は無限。無限なり世界。たかだか砂粒の中に凝縮された世界を感じ、その宇宙の途方のなさに驚嘆し、背筋が凍る。
深淵の向こうが見えた気がした。
「……」
すっと目を開ける。フォルスが首をかしげていた。
「大丈夫ですか、ソウヤさん?」
「うん、宇宙の彼方へ飛んでいた」
「はい?」
キョトンとするフォルス。無理もないとソウヤは思う。何故なら自分でも何故そうなったのかわからなかったからだ。
「初めはこの大地へ意識を向けた。アースドラゴンの爺さんの言葉だからな。そうしていたらそこらの地面にある砂に意識を吸い込まれた」
ソウヤは、そこらに落ちている砂粒をつまむ仕草をする。
「この小さな中に、オレは遥かなる宇宙を見た。この宇宙が、この世界にいったいいくつあると思う? 世界中の砂という砂、粒の一つに至るまで宇宙があるとすれば、その数は途方もない」
果てしない宇宙。数え切れない星があるのと同じように、この世界にも天文学的数字の数の宇宙が大地を構成しているのだ。
「……あの、ソウヤさん? 僕には何を言っているのかさっぱりわからないよ」
フォルスは正直だった。いきなり妙なことを言い出した、と思えたのだろう。ソウヤはにこやかに笑う。
「それは正しい。何故ならオレも自分が何を言っているのかさっぱりだ」
「?」
「理屈じゃないんだよ。感覚の問題だ」
ソウヤは再び目を閉じた。
「世界がわかったような気がした。錯覚かもしれないが、オレの中ではひどくリアリティがあって、夢の類いとも違う」
「妄想……?」
「だとすれば、自分にこんな妄想力があるなんて思いもしなかったよ」
何だろうか。これがいわゆるヴィジョンというものだろうか。これで宗教かたれば、完全におかしな人だろう。
「ひどく安らいだ気分だったのは間違いない。……少し集中させてくれ」
大地を感じ、その中にバァ金属かそれの元となる鉱物がないか探す。感覚に身を任せ、地に眠るものの声を聞く。
どれくらいそうしていたか。長かったかもしれないし、あっという間だったかもしれない。
それは確かに感じられた。
「見つけた」
ソウヤは目を開き、しかしその手を額に当てた。フォルスが覗き込むように首をかたむける。
「ソウヤさん、大丈夫?」
「……大丈夫だ」
だが、何かと大きなものも感じた。それが何なのかがわからない。いやそれは物理的なものではなく、感覚的な。何かがわかった、いやわかりそうな感覚。
何が大事なことがわかりそうなところで止まっていて心をざわつかせる。
「本当に大丈夫、ソウヤさん?」
「もどかしい……」
喉に魚の骨がひっかかったような。あと一歩で何かがわかりそうなのに。
「もう一度。いや今はいい」
まだ感覚がふわっとしている。意識を向けるべきところがわからない。これは少しマズいとソウヤは察した。
「フォルス、悪い。少し待ってくれ。やっぱり駄目かもしれない」
「具合が悪いの?」
「かもしれない。……駄目だな、意識が拡散して、グチャグチャになりかけている。周りに一体化し過ぎて……溶けているみたいだ」
「ソウヤさん!」
フォルスは不安になる。ソウヤの言葉は先ほどから理解できる範疇を超えている。恐怖。何かおかしい。
「手を……握ってくれるか? 意識をかき集める」
「これでいいの?」
フォルスが右手を差し出し、ソウヤは掴む。
「……この世界に留まるための支え、楔が必要だ。オレが……どこかへ、流れていかないように――」
ソウヤは呼吸を落ち着ける。意識しないと、呼吸でさえ早く浅くなっていく感じがした。何かに急かされているような、思考と体がズレている感覚だ。
落ち着くまでにどれくらいの時間がかかったか。フォルスはずっと不安な顔をしていたが、ソウヤが『流れていかない』ように手を強く握った。意味はわからないが、ここから消えてしまいそうな、という風に解釈したからだ。
正直、怖かった。ソウヤがここではないどこかを見ていたからだ。
やがて、傍目にもわかるほどソウヤは落ち着いた。
「ありがとな、フォルス。何とか収まってきた」
「いったい何があったんだよ、ソウヤさん」
「興味深い質問だ。だけど、それを思考するのはまた今後にしよう」
ソウヤは苦笑した。
「今わかっているのは、何事もほどほどが大事だということだ。次はもっと上手くやれるだろうが、慣れが必要だ。少しずつ、ゆっくりやっていこう」
「……ごめん、やっぱりよくわからないや」
引きつった笑みを浮かべるフォルスである。ソウヤは肩をすくめた。
「それも間違っていない。オレも全てを理解していない」
ただ――
「バァ金属の場所を感じた。とりあえず、そこに向かおう」




