後日談157話、大地竜の思い出
アースドラゴンが天に召された。
思いがけないことだったから、ソウヤはことのほかショックを受けた。
「――そう、お爺ちゃまがね……」
ミストはそっと瞑目した。
「いい歳だったようだし、いつお迎えがきてもおかしくはなかった」
「オレには突然過ぎた」
長寿のドラゴンにあっても、かなりの高齢なのは理解している。人の姿になった時も老いた仙人のような姿だった。それでもまだしばらくは生きていると思っていた。
「急に衰え過ぎだ……。加護のこともあるのかな。こう胸に風穴を開けられたような気分だ」
繋がりが消えるというのはこういうものか。何か大きなものが欠けたようだった。
――オレが思っていた以上に、アースドラゴンの爺さんを身近に感じていたのかもしれない。
毎日顔を合わせるほどベッタリな関係ではなかった。たまにやってきてリハビリや大地竜の力について助言をくれていた。
――そうか、師匠だ。
今ではほとんどいなくなった、教えを授けてくれる大人。だからアースドラゴンの死がここまで深くのし掛かっているのだ。
――供養はしないとな。
ソウヤは立ち上がった。
アースドラゴンの住処――最近はクレイマンの浮遊島に住んでいたのだが、その前にずっと住んでいた最果て、大地竜の島へ行こうと思う。アースドラゴンの遺言でもある。
「ソウヤ」
影竜が声をかけてきた。
「アースドラゴンが死んだって?」
「そうだ」
「そうか。……じゃあ、ソウヤが新たなアースドラゴンだな」
神妙な調子の影竜に、ソウヤは小さく首を振る。
「オレにはまだそこまでの迫力も経験もないけどな」
「じっくりやればいい。ドラゴンの生は長い」
立ち去る影竜。その息子であるフォルスがやってきた。
「アースドラゴンのお爺さんが亡くなったって聞きました」
「ああ、寿命だな。穏やかな最期だったよ。今頃、ドラゴンの天国にいっているんじゃないかな」
「復活させられませんか?」
フォルスは真顔だった。
「時空回廊なら……。それか神竜にお願いするとか」
「それは無理だと思うぞ、フォルス」
例の時間を戻す台座は、アースドラゴンの遺体がそもそもないし、あったとしても体は再生しても魂まで戻るとは思えない。
「神竜だって、天寿を全うしたものまでは戻せないだろうよ。アースドラゴンの爺さんは、お迎えを受け入れたんだ。オレたちがどうこうするものじゃないさ」
「そうですか……」
「……」
「何です、ソウヤさん」
フォルスがキョトンとする。ソウヤはそんな少年をじっと見つめ、そして言った。
「お前、普通に話せるんだな。ちょっとびっくりした」
「え……?」
「少し見ないうちにまた大人になったなって。ちょっと前はもう少しガキっぽさが抜けてなかったというか」
「なんですか、それ!」
フォルスが抗議するような声を出した。
「僕だって日々学習してるんです。もう大人ですよ」
「抜かせ、人間だったらまだ四、五歳だろうが」
ソウヤはフォルスの肩を小突いた。
――ドラゴンの成長って早いなぁ。それで長寿だし。
「とりあえず、大地竜の島へ行ってくる。アースドラゴンの爺さんを連れて帰ってやらないとな」
「僕も行きます」
そうか、とソウヤはフォルスの同行を認めた。二人は浮遊島を離れ、世界の果て、大地竜の島へと飛んだ。
・ ・ ・
昔は世界の果てまで行くのに飛空艇なり乗り物の力が必要だった。しかしハーフドラゴンであるソウヤは、今や自分の翼で大地竜の島まで飛行できる。
鬱蒼と生い茂る緑の島。そこに生息するは、石と縁がある動植物。低空を飛行しながら、フォルスは言った。
『石化耐性があるっていいですね』
『ドラゴンは全体的にそういうの、なりにくいだろ』
『アースドラゴンみたいな大地属性ドラゴンは特にそうでしょうけど、僕らはなりにくいというだけで、完全に耐性があるわけじゃないので』
『お前が石化したら、オレが唾をつけて治してやるよ』
『えーっ、やだなぁ。バッちい』
『アースドラゴン流の由緒ある石化解除術だぞ』
ソウヤの言葉に、フォルスは笑う。
『アースドラゴンの爺さんがやってたからマジだ。石化していたレーラを――おっと、今の話は彼女には絶対にするなよ』
『しませんよ』
アースドラゴンが聖女レーラの石化を解いた時のことが、ソウヤの脳裏によぎる。ドラゴンといってもあそこまで穏やかなものもいるのだというのは、当時のソウヤには新鮮であった。大亀のクリスタルを元気よく貪っていたのも思い出して、ほっこりする。
だがふとした瞬間、それが切ない思い出となる。
初めてアースドラゴンと出会った場所、彼のねぐらにソウヤとフォルスは舞い降りた。人の姿になり、改めて辺りを見回す。
あの頃と変わった様子はない。以前は感じられなかった新鮮な魔力を今は感じる。心が安らぎ、意識が大地に溶けていくようだ。意識は広がり、世界を感じる。
「帰ってきたぜ、アースドラゴンの爺さんよ……。ここがあんたの場所だ」
ふっと魔力が抜けていくのを感じた。広がっていく何か――アースドラゴンだったものが、本当に天に還っていくのが見えた気がした。
「さようなら、アースドラゴンの爺さん」
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