後日談154話、最高傑作とは
武器を作る。
ロッシュヴァーグにとって、それは大人になってからこれまでずっと続けてきたことであった。
金属の扱いについては、幼少の頃から触れていた。父親もその父親も武具系の職人であり、ロッシュヴァーグもその手伝いをしながら、家族にして師の技を学んでいった。
だが大人になるまでは漫然とやってきたことであり、それが本当に自分の人生でよいのかと疑問に思った。
紆余曲折、旅に出て様々な場所で学び、結果的には武器職人に収まった。だが自分が何者であるか納得した上で今の職にいることは、若き日の迷いを消した意味でも納得している。
悪くない半生であった。職人として認められ、ロッシュヴァーグの作は著名人も求めるものとなった。ドワーフでありながら積極的に人族と交流していたことも彼の名声を高める一因であった。
「しかしまあ、わしもいい歳じゃと腰を据えてしまっておった」
日々に張り合いがなくなってきた。歳をとって、自分はやれることを精一杯やってきた。それで満足しかけていたのだ。
「そろそろ引退か、と考えはじめていた……」
「冗談だろ?」
独白を聞いていたソウヤは言った。
「あんたはまだ、老け込むような歳じゃないよ」
「ふん、ドワーフの寿命のことをしらん癖に、よう言うわい」
「いくつなんだ?」
不躾にもソウヤは聞いてきた。ロッシュヴァーグは視線を逸らす。
「まあ、ええ歳じゃわい」
「まだ人生四分の一程度は残ってるんじゃないか?」
ソウヤは視線を鋭くさせた。
「本当のドワーフ老人と比べたら、背骨も曲がってないし、しわの数が全然足りない」
しわくちゃ、という表現がぴったりなほど皺だらけになるドワーフ老人と比べたら、ロッシュヴァーグは全然若い。
「要するに、あんたは生き甲斐をなくしちまいかけているんだ。精神的に老人になっちまった。違うか?」
「……ソウヤよ。ちと早とちりしておらんか?」
ロッシュヴァーグが自身の作品に触れながら振り返った。
「さっきも言うたが、お主の仕事に職人として応えると言ったはずじゃ」
「ああ、さっき聞いたよ。だがそれが終わったら、もう職人やめようなんて言っている風に聞こえたんでね」
「フン、わしがそんなヤワに見えるか?」
「硬い。ドワーフだもんな」
ジョークを飛ばし、互いに笑う。
「だが、精神的に老いてきた、というのは当たっておるな。つまらん仕事とは言わん。作るからには完璧を目指す。それがわしの主義じゃ。だが……こうな、つまらんのだ。言っていることが伝わるかわからんが――」
「張り合い、だろ。わかるよ」
ソウヤは頷いた。ロッシュヴァーグは斬鉄を見やる。
「こいつは、わしの傑作の一つじゃ。だが……まだ最高傑作は作れておらん」
「そうなのか? じゃ、あんたの最高傑作は?」
「ない」
ロッシュヴァーグはそっけなく答えた。
「わしは傑作を生み出すが、常に次に作るものこそ最高傑作になる、そんな気でやっておる。どんな作品も通過点。それを極めた先に、真の最高傑作が生まれる。そしてこれ以上は無理だ、と思った時こそ、引退するんじゃろうて」
そこでドワーフはため息をついた。
「だが、このところ、どうにも手堅い仕事ばかりでな。わしがいかに最高傑作を作ろうと思うても、武器は使う者がはじめて輝く。その求めるものには一定の規格がある」
たとえば、ソウヤの斬鉄。頑丈で威力は凄まじいものがあるが、その重量からその性能を引き出せる人間がほとんどいない。ある意味、人が使えない欠陥武器とも言う人もいるだろうが、ソウヤに言わせれば最高の傑作武器である。
「つまりは、使い手が、あんたの傑作についていけないってことか」
ソウヤは理解した。いかにロッシュヴァーグが最高の品を作ろうと思っても、それを扱いこなせる人間がいない。そのスペックを求められない。
だからロッシュヴァーグも、依頼主が使える範囲に性能を抑えなくてはいけない。その範囲で完璧に仕上げるのは熟練の職人ならではであるが、それは職人本人の気持ちが満たされることはない。
「使うのは依頼する者。その者の求める究極を作るのが職人。それを忘れてはいけない。だがな、たまには職人のわがままに付き合ってくれる者がおってもええと思わんか?」
「いいんじゃないか」
ソウヤは言った。
「まあ、その職人のわがままを使いこなせるヤツがいるかどうかは、別問題として」
「お主のために最高傑作を作ってやる」
ロッシュヴァーグは言う。
「だが、お主はわしの究極を使いこなせる性能がある。少し、扱うのが難しいやもしれんが構わんな?」
「壊れなきゃいいさ」
ソウヤは言い切った。
「どんなじゃじゃ馬でもな。壊れないなら扱いこなしてみせる」
・ ・ ・
どんな武器にするか、その話し合いは、斬鉄同様の大剣型をベースにすることが決まった。
あれこれ試行錯誤する前に、ロッシュヴァーグは自身が作った傑作品をいくつか、ソウヤに使わせた。
「使い手をまったく無視したもんじゃ。お主に使えるかな?」
「……なんだこれ、巨人にでも使わせるつもりだったか?」
「斬鉄のコンセプトを引き継いで、どこまで重く頑丈にできるか試作したものじゃ」
「こりゃ重い。オレがこれじゃ、人間でこいつをぶん回せるやついないんじゃね?」
「おらんじゃろうな。ドワーフだって無理じゃ」
「じゃあどうやって作ったんだよ、これ」
両手でしっかり持って、軽く――重く素振り。腰にきそうな重さだった。
「ドラゴンの力で振れば――!」
風が起きて室内に吹き荒れた。中にあったものが色々ひっくり返る。巨大うちわじゃあるまいし――ソウヤは首を横に振るのであった。
試しは続く。
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