後日談153話、古き友との語らい
エンネア王国の王都にくるのは、いつ以来か……。
などと感傷に入ることもなく、ソウヤは夜の闇に包まれている王都に降り立った。
実のところ、ドラゴンの姿でエンネア王国にも頻繁に飛行していて、王都もまた何度もその上空を通過している。
人としての生活ができるように、というリハビリと同時にドラゴンとして自在に動けるよう飛行など訓練を繰り返してきた。魔王との戦いから三年。だが前回エンネア王国の空を通ったのは、一カ月くらい前。その程度しか経っていない。
どこを通れば気づかれないか。ドラゴンの姿のままでも王都に着陸する場所には目星をつけている。
――本当は警備体制の不備ってことで、教えてやるべきかもしれないが……。
夜のうちに侵入し、人型に戻ったソウヤは夜の王都を散策する。表通りは酒場を中心ににぎやがだが、住宅街ともなるとほとんど真っ暗だった。
人の気配もほとんどない。
そして工房が集まる区画。昼間は作業音でうるさいここも、夜ともなると静まり返っている。作業は昼、夜は人がいなくなる。そんな場所だ。
ただソウヤは、目的の場所に目的の人物がいるのを魔力で掴んでいる。こんな時間に一人残っているとは何か重要な仕事で残業か、あるいは居眠りでもしているのではないか。
ロッシュヴァーグ工房。古き友、ドワーフのロッシュヴァーグがいる。
三年ぶりか――ソウヤは感慨深い。工房に勝手に入る格好だが、中にまだ人がいるから開いているとも言える。
いた。
ドワーフが一人、ぼんやりと壁を眺めている。
たった三年なのに、老けたように感じるのは気のせいか。ドワーフの外見年齢はわかりにくいのだが、ソウヤはそう感じ取った。色々と苦労しているのだろう。
ソウヤは、声をかけた。
「よう、おっさん、こんなところに一人で夜更かしなんかしたら、風邪ひくぜ?」
「……!?」
ロッシュヴァーグは振り返り、驚愕の面持ちになった。
「お主――」
言いかけ、言葉に詰まるロッシュヴァーグ。
わからないでもない。死人が三年ぶりに帰ってきたのだから。しかし前回は十年ぶりに帰ってきたのをやっているのだから、彼にとっても二回目。初回ではないので、そこまで驚くものでもないのでは――よソウヤは思う。
「なあ、ロッシュ。ちょいと9人ほど友人を復活させるために、世界の果てにある火山島の時空回廊ってとこに行くんだけどさ……。オレがぶん回しても壊れない頑丈な武器、ない?」
・ ・ ・
積もる話に花を咲かせ、ソウヤが持参した酒をかっくらう。ロッシュヴァーグはときどき涙を拭いながら笑った。
「――そうかぁ、ドラゴンか。難儀なことじゃのう」
「それがなければ、もう少し早く会いにいけたんだけどな」
皮肉るソウヤを、ロッシュヴァーグは小突いた。
「三年は長いじゃろ」
「ドワーフにとっては、あっという間だろう」
談笑は止まらない。
「――で、何人お前が生きておることを知っておるんじゃ?」
「ほとんどいないな。ライヤー、コレル、あとフラッドか」
ドラゴン界隈では有名人だから、影竜親子も知っているが、そこはロッシュヴァーグの方が面識なさそうなのでいいか、とソウヤは黙っている。
「見事に飛び回って捕まらん奴らじゃのぅ。……レーラには伝えておらんのか?」
「ガルたちを復活させられたら、その時に会うと思う」
ガル・ペルスコットとカリュプスメンバーたち。その九人は銀の救護団にいてレーラと行動を共にしていた。
彼、彼女たちがソウヤの復活を知れば、聖女レーラに黙っていることなどできない。
「ただ、時空回廊はかなりヤバいからな。正直、事が上手くいかなかったら、マジで死ぬかもしれない。だからまあ、皆に生存報告は無事にガルたちを蘇えらせたらの方がいいだろう」
死んだままにしておいたほうが、喜びもつかの間、また死にましたなんてトドメを刺すようなことにもならない。
レーラなどは行く前に挨拶なんてしたら、彼女も死地に飛び込もうとするだろう。今度は絶対に離れなそうである。
「わしなら、いいのか?」
「あんたには、オレ専用の武器を作ってほしかったからな」
死地に飛び込むからこそ最高の武器を。そのためには、ロッシュヴァーグとの再会は避けられなかった。
「生きて、皆に報告するためにな」
「そう言われては、武器職人として応えないわけにもいかんのぅ」
ロッシュヴァーグはドワーフ自慢の顎髭を撫でた。
「勇者が認めた職人として、最高の仕事をせんとな」
「……蘇ったんだな『斬鉄』」
ソウヤは、壁に飾られているかつての愛剣『斬鉄』を見やる。あれもいい武器だった。豪腕でならすソウヤの力にも応え、敵を叩き潰してきた。
「苦労したわい」
新しく作り直したロッシュヴァーグは言った。武器が砕けた時、それが元に戻ることはない。その素材を使ったとて、新しく作り直すことであの形に戻ったのだ。
「あれを持っていくか?」
「今回の敵は、魔王との戦いに匹敵するヤバいものになる。せっかく直してくれたのに、また壊してしまいそうだ」
「武器は使えば、いつかは壊れるもんじゃ」
ロッシュヴァーグの目は真剣そのものだった。
「だが、戦いは命をかけておるからの。そう簡単に折れては、持ち主も困るじゃろうて」
「斬鉄は折れなかったよ」
ソウヤは言った。
「あれは、魔王との戦いで最後まで折れなかった。砕けてしまったのは、オレには斬鉄の意地を感じた。あんたが魂を込めて作った武器だった」
「……そうか」
ロッシュヴァーグは遠い目になった。
「なら、なおのこと、あいつを持っていけばいいんじゃないか?」
「オレがハーフドラゴンってこともあるけど、ちょっと地力が違うというか……。今のオレだと、たぶん斬鉄が自壊しちまう」
敵と戦って壊れるのではなく。
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