後日談148話、魔王軍の残党の最期
妙な場所だった。甘ったるい香水の臭気に眉をひそめつつ進むミスト。その道中で、死体を発見する。
「……ガルじゃあないわよね」
魔族ではない。人間のものだ。魂というか、精気を吸い取られて絶命してしまった男のもの。夢魔にやられたのでは、とミストは思った。
「思ったより広いし、この城、どこまで続いているのかしら?」
隠された玉座の間ではなく、通路や部屋がいくつもある。確認はするが――
「臭いはきっついし、敵もいないし! 何よここは!」
段々苛立ってきた。敵がいるなら襲ってきなさいよ、とばかりに竜爪槍で床や壁を叩き、音を立てながら進む。
魔族兵は出てこない。死体は人間のものばかり。もしかしてカリュプスのメンバーがいたりするかも、と思い、一応確認。……ガルではない。
しばし進む。いよいよ最深に近づいてきたような気がした。部屋が少なくなり、通路が真っ直ぐ伸びている。
大きな扉。いかにも玉座の間の入り口のよう。相変わらず槍でリズミカルに突きながら歩くのだが、衛兵は飛んでくる気配はなし。
「というか、ガルは先行しているはずなのよね……?」
一人呟いてみるが、当然返事はない。
まったく関係ない異空間に飛ばされて、閉じ込められていたらどうしようと一瞬思った。だがその時はその時。その事実に突き当たってから考えようとミストは開き直った。
世界というのは、大概なんとかなるようにできているのだ。ないかもしれないことを、ああだこうだ考えても仕方がないこともある。
あまりに暇なので、鼻歌でも歌いたい気分になってきた。……ある意味、現実逃避だったかもしれない。
中を覗き込む。広いが殺風景な大部屋。がらんどう。奥に玉座らしきものが見えたが、その手前に、おそらく死体が転がっていた。
「あらぁ、もう一人はっけーん!」
場違いなのはわかっているが、そうでもないとこの空気感でダメだった。不謹慎と詰りながらでもいいから誰か出てこいと、ミストは玉座の間に入る。
そして死体に歩み寄る。よく見たら、見覚えのあるそれ。
「あらあら、ガルじゃない。もう、無茶して――」
まだ生きている、という反応を期待したのだが、それはなかった。
刹那、悲しい気分になった。ドラゴンにとっては、瞬きにも等しい期間の交流。ガルはそれほど社交的ではないから、大親友というわけではないが、それでも連帯感のようなものは、銀の翼商会にいた頃は感じていた。
しかしこれで、カリュプスのメンバーは全滅だ。道中、ソウヤが回収していたのは知っているから、ガルの遺体も担ぐ。
「これで全員よね……。えーと、オダシューにトゥリパに、グリード――」
改めて確認してみて、全滅である。忘れている人間はいないのを確認。
ちら、と魔族――サキュバスの死体を一瞥したが、特に感傷に浸ることなく、ミストは元来た道を引き返した。ここが行き止まりなのがわかったからだ。
そして戻っていると、入り口を見つけたソウヤたちがやってきて、それと合流した。
「ガルか?」
ソウヤが尋ねたので、ミストは頷く。
「それ以外に見える?」
担いでいた暗殺者を下ろし、ソウヤが後を引き取る。全身に無数の傷。激戦であったことは一目見ればわかった。だが――
「……随分と、静かな顔をしているな」
苦痛に満ちた最期ではなく、やり遂げたという死に顔だ。仇を討てたのだろうか。
「ここのボスはどうなったかわかるか?」
「玉座の間に、サキュバスの死体はあったわよ。……あー、そういえば、あれがガルが追っていたカリュプスの仇だったかもしれないわ」
あまり興味なさそうに、いかにも思い出したという調子のミストである。ソウヤは、アイテムボックスの時間経過無視空間に、遺体を収容した。
「じゃあ、この城でやることはないか?」
「一応、確認したらどうかね?」
ジンが口を開いた。
「魔王軍の残党の終焉を見届けるべきだろう。残党の残党が、また悪さをしないように」
・ ・ ・
魔王軍の残党は壊滅した。
地底城もまた半壊。外でアクアドラゴンとクラウドドラゴンが大暴れした結果、魔族兵は一掃されてしまった。
ドラゴンと魔王軍残党の魔族の因縁は、ここに決着をみたのである。虎の尾を踏まなければ、こうはならなかった。
ソウヤは、ガルやカリュプスメンバーが、仇と付け狙っていたサキュバス・クイーン、ブルハの死を確認した。
ガルが満たされた死に顔だったのと対称的に、生にしがみつき、絶望と恐怖に引きつった死に顔であった。何とも対称的である。
「これで、ガルたちも心に残っていた宿題を果たせたわけか」
その結果が、全滅である。銀の救護団で帰りを待っているレーラを悲しませることになる。彼らは覚悟していたとはいえ――
――待っている彼女のことも考えてやれよ、と、今日のおまいうはここですかっと。
ソウヤは自嘲するのである。
――そろそろ、人間社会に復帰してもいいだろう。
リハビリは充分。人間社会で普通に生活できるだけの力のコントロールはできるようになった。三年かかった、そう思うと長かったなと感じる。
「さすがに三年だと、今さら感もあるよなぁ……」
ひょっとしたら、このまま人間社会とは距離を置いたほうがよいのではないか。もう自分のことは忘れて、それぞれの生活を取り戻しているのではないか。
銀の翼商会にいた面々が、新たな人生をスタートさせたことは知っている。
が、そう考えたところで、ふと思う。かつての仲間たちに何人かすでに会ったが、皆例外なく驚き、しかし温かく迎え入れてくれたことを。
そもそもの話をしたら、十年昏睡していて、死んだことになっていた身である。それから三年なんて短い。
「ガルたちを蘇らせたら、みんなに会いにいこう」
ソウヤはそう決めた。
そのためには、時空回廊――その奥にいる神なる竜に、会う必要がある。きちんと準備をした上で、本気のダンジョン攻略というやつをしなければ。
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