後日談140話、物言わぬ仲間
知っている人間の死を見るというのは、辛いことだ。
三年ぶりに会ったその人が、もの言わぬ遺体となっている。これはたまらなく切なく、悲しいことだ。生前を知っているだけに、その落差が酷く落ち込ませるのだ。
ソウヤは、カリュプスメンバー、それぞれの遺体を回収した。
「ハノ、ニェーボ――」
そして。
「オダシュー……」
カリュプス組のリーダーとして、仲間をまとめていた男だ。ガタイがよいが、よく笑う男で、冗談めかしたり皮肉なユーモアの持ち主だった。これで仕事ぶりは真面目で、サポートに回ると、これほど頼もしい者はいなかった。
銀の翼商会でも、任せた時の信頼感は抜群だった。
その彼も絶命している。抱えている小柄な魔術師――男の子か女の子かわからない子供もまた息絶えており、どういう状況だったのか、いまいちわかりづらい。
「敵対したのは間違いないようだが……」
ジンが後ろから覗き込む。
「見たところ、魔族というより人間に近そうだが……これはハーフか?」
人間と魔族の混血かもしれない。わからないのは、オダシューは胸を貫かれ、しかしその原因と思われる子供魔術師を抱きしめていることだ。
「敵対している者の抱き方じゃないんだよな」
ソウヤは、双方の遺体を引き剥がす。
「相手を締め上げるとか、最期の抵抗とは違う。……まるでか弱い子供を抱きしめる父親のような、そんな感じだ」
本当に何があったのか。どこをどうやったらこうなったのか。幻でも見せられて、子供と錯覚したところをやられた……であれば、その子供魔術師が傷を負って死亡した理由にはならない。
そもそもの話、オダシューは未婚で、子供はいない。
「どうするね、ソウヤ?」
老魔術師は尋ねる。
「状況がわからないからな。何か意味があるかもしれない。オダシューと一緒に、この魔術師も回収しておく」
時間経過無視空間ならば、死んだ者の時間もそこで止まる。遺体は腐敗することなく、保存が可能だ。通常の手段では、人を蘇らせることはできないが、普通でない方法での復活方法に、ソウヤは心当たりがある。
オダシューら死亡したカリュプスメンバーも、遺体が残っているなら、蘇らせることができる。
「その子供は敵だったと思うが、大丈夫だと思うか?」
「どうだかな……」
ソウヤは頭を掻く。
「オダシューたちを先に蘇らせて、その後で聞いてみればいいだろう」
どうしようもなく敵というなら、そのままにしておけばいいだけである。
「先に行くか」
ミストと影竜は先行して、魔族兵を蹴散らしている。ここでソウヤたちが、敵地でお喋りできる余裕があるのもその影響だ。
「これが続くというのは、億劫だ」
ソウヤは意識を集中し、大地竜の力で気配を探る。かつての仲間たち、カリュプスメンバー……。
「これは……スナーブか?」
「それと、アズマとアフマルだな」
同じく気配を探れるジンが歩きながら答えた。ソウヤは早足になる。
「手遅れか?」
「君にもわかっているだろう?」
「あぁ、その答えを聞きたくなかったんだ」
すでにこの三人も、命を散らしている。しかし周りに敵らしいものは死体しかない。敵は去ったのか、あるいは相打ちだったのか。
「残っているのは、ガル、グリード、トゥリパだけか?」
「いや……どうやら、ガルだけのようだ」
ジンは目を閉じ、ここではない場所に意識を向ける。
「動いているのは、彼だけだ」
「……」
自然とため息がこぼれた。ソウヤは前を行っているミストらに意識を向けて、そして驚いた。
「何やってるんだ、あいつら?」
ミストと影竜が、何故か知らないが戦っているようだった。槍を突き出すミスト。影竜はそれを躱している。
「喧嘩という雰囲気でもなさそうだな」
駆け出すソウヤ。ジンも続く。
「何やら嫌な予感がしてきたな。原因は何だと思う?」
「よくわからんが、ミストの中に何か異物の気配が感じられる!」
不吉な、魔族の気配だ。
・ ・ ・
「おいおい、これはっ、いったい! どういうつもりなんだ!」
影竜が吼える。地底城を進んでいたら、突然相棒のミストが竜爪槍を向けてきた。
「おい、ミスト!?」
答えない。彼女は遮二無二に挑みかかり、影竜を攻撃し続ける。
「どうしたんだ、いったい……!」
わけがわからなかった。本気で喧嘩をするような場でもないし、ここに来るまでに何か意見が対立したわけでもない。ミストとて状況を理解しているから、こんな場所でお遊びをするようなものでもない。
――何か変だ。
ミストの槍が迫るが、影竜はわけもなく躱す。
「攻撃が雑! 舐めているのか?」
軽く腹パンを決めて、吹き飛ばす。壁に叩きつけられるミスト。……本当にらしくない。
「あー、ひょっとして何かに取り憑かれていたりするか?」
影竜は腰に手を当て、仁王立ちになった。
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