後日談139話、理不尽な差
アクアドラゴン?
ガルの困惑は大きかった。地底城の外でドラゴンが暴れているという話は、混乱する魔族兵たちの声で聞こえてきてはいた。
まさか、と思っていたら、アクアドラゴンとクラウドドラゴンだったと聞いて驚きもした。
だが状況を利用し、城への侵入を進めていたから、ガル自身はドラゴンたちを見ていなかった。だから実際目の当たりにして、懐かしい姿に感じ入るものがあった。
一方、この状況で取り乱したのは、吸血鬼のカネールの方だった。歩国の地下で、竜玉を巡る場での邂逅した青髪ツインテール少女――の姿をしたドラゴン。初見では手も足も出なかった。
「何故お前がここにっ!?」
「喋るなと言ったぞ、ヴァンパイア!」
グンと床を蹴ったその瞬間、石で作られたそれが吹き飛んだ。あっという間の加速。カネールはギリギリで突撃を躱すと、後ろの壁と床が砕けて弾け飛んだ。
「ひぇぇぇぇぇっ……!」
あまりの威力に声が出る。だが次の瞬間、切り返したアクアドラゴンがカネールの懐に飛び込んできた。
「避けるんじゃないぞ、ヴァンパイア」
「理不尽!」
とっさに後退しつつ、腕でガード。すさまじい衝撃に両腕が粉塵にまでバラバラとなり、なおアクアドラゴンの手がカネールの体に迫る。
「え……?」
蝙蝠分身。寸でのところで、カネールは自身をコウモリに分かれてなければ、致命的な一撃を食らっていた。
『ひとまず、た――』
「逃がすかい!」
アクアドラゴンが追いかけてくる。一回の跳躍が距離などないかのように縮めてしまうので、カネールは逃げるので精一杯となった。
これが理不尽なまでの個体差、種族差か。吸血鬼が人間のそれと体が異なり、強さの格が違うように、ドラゴンもまた吸血鬼との間に隔絶たる力の差を持っている。
生物の頂点と言われるドラゴン。その前では、吸血鬼もただの雑魚か。
室内はしんと静まり返る。ガルは一人取り残されて呆然とするが、倒れている仲間に気づき、駆け寄った。
「グリード!」
吸血鬼に挑み、思い切り顎を蹴飛ばされ、吹っ飛ばされていたグリード。顎が割れ、血が流れ、そして彼は息をしていなかった。脈も確認したが、もはや動いていない。
「……兄さん」
吸血鬼の本気の力をぶつけられれば、人間など卵のようなもの。あまりにあっさり命を奪っていく。理不尽なまでに。種族の差は対等ではない。
しばし佇む。
――ひとり、か。
とうとう一人になってしまった。カリュプスの仇、ブルハへの報復で動いた組織の生き残りたち。
ここまで来る道中に、ある者は倒れ、ある者は魔族幹部との戦いに残った。
オダシュー、ニェーボ、アズマ、アフマルは生きているのか。もしかしたら彼らも――ガルは不吉な予感に苛まれる。
トゥリパ、そしてグリードの亡骸を見やり、ガルはほんの僅かだが瞑目した。
「仇はとる」
ここは敵地、長く感傷に浸っている状況ではない。吸血鬼はアクアドラゴンから逃げ、もはや眼中にない。
報復のターゲット、ブルハを目指したガルは一人、塔を登った。
・ ・ ・
「いやはや、もうね。どうしてアナタは、私を目の敵にするんですかねぇ……?」
カネールは、追撃してくるアクアドラゴンに思う。
――そこまで恨まれるおぼえは、ないのですが……?
思えば、初対面から鉄拳制裁。突然の暴力にさらされ、恨みを抱くなら普通は、殴られたこちらの方だろうと思う。
――思えば、最初から狙われてましたね、私は。
どうしてだろうか? カネールが憶えていないだけで、あのドラゴンの恨みを買ってしまっていたのか。
いや、そもそも、あの場以外で会ったことはないはずだ。他の吸血鬼と間違われたのではないか。
――あ、あり得ますねぇ。同族の阿呆があのドラゴンに喧嘩を売り、吸血鬼全体のヘイトを買ってしまったとか……!
ドラゴンとは、まことに勝手な生き物だ。力を持つ者は傲慢であり、自分勝手である。本来関係ないはずなのに、同じ種族というだけで攻撃をしてくる。理由は、前に嫌なことがあって、恨んでいるから。
――あぁ、本当に理不尽の塊だ。
今から逆転する方法はないのか? カネールは目まぐるしく動く状況で、思考のリソースを割く。
だが、どう足掻いても勝ち筋が見えなかった。
――そういえば、我ら吸血鬼の間で、ドラゴンの血を吸った者の話、聞いたことありませんねぇ。
竜の血は不治の病すら治すとか、不老不死になるなどといった言い伝えが、広く分布している。ドラゴンの神聖性――クソがつくほど暴力的の間違いだろうが、それを知らしめるエピソードの一つた。
――もしその血を吸うことができれば、私にもまだ勝ちの見込みがある……?
しかしドラゴンの血を他の生物が取り込むと異常進化が起きて、体がそれに耐えきれず絶命に追いやられるとも聞いている。
制することができれば、圧倒的な力を得られるが、逆に自滅する可能性もある。二つに一つ。どうせこのまま追い詰められてやられるくらいならば、人生を賭けた一勝負で逆転を狙うのもあり、だ。
カネールは覚悟を決めた。
「いざ、勝負――!」
「存在自体がうるさい!」
圧倒的な水のブレスが迫った。あ、これは――
逃げられない。コウモリ分身を使おうとも、全コウモリごとブレスで吹き飛ばされる。
――りふじーーーーん!
トマトのように潰れ、吹き飛ばされ、跡形もなく裂かれて、吸血鬼幹部は果てた。
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