後日談134話、魔王軍残党四天王
ブルハ暗殺に燃えて、地底城内部を進むガルたち。しかし、警備の魔族兵は、それ以上の侵入を許さない。
魔王軍残党幹部の一人、インモルタルは腕を振り上げた、
「大波」
床から突然の水が噴き出し、それが波となってカリュプスメンバーに襲いかかる。壁のように押し寄せるそれを、暗殺者たちは跳躍で躱す。それ以外に回避する術がなかったのだ。
そしてガルは前に跳躍。波の壁をつま先ほどの差で飛び越えると、魔術師インモルタルに斬りかかる。
「鉄板」
インモルタルがガードとして立てた腕に、ガルの刃は金属音を響かせて弾かれた。
「焔」
フードの奥、インモルタルは炎を吐いた。ガルは驚異的な空中移動でそれを避けた。
大気を蹴るという風魔法の応用だ。常人には普通できないそれを目の当たりにして、インモルタルは目を丸くした。
「どうやら魔法もできるようだ」
インモルタルは手を長い袖に入れたまま構えた。
「戦士なんて脳筋だと思っていたけど、そういう戦いができる奴もいるんだ」
「……こういうこともできるぞ」
ガルがバッとしゃがむ。その後ろ――カリュプスメンバーの一人、ハノが腕を突き出し、電撃弾を放った。ガルをブラインドにした奇襲は、インモルタルのフードの奥に飛び込み、魔術師を倒した。
魔族兵らはざわめく。
「インモルタル様……!」
「やっちまえ!」
オダシューの怒号。暗殺者たちが一斉に飛び出し、動揺する魔族兵に肉薄した。刃がきらめき、兵たちの急所を裂き、倒していく。
「いくら鎧を着込もうが――」
アズマはナイフで、魔族兵の喉元を一突きにする。
「隙間にねじ込むくらい、おれたちには造作もないのさ!」
通路を塞いでいた魔族の壁は、瞬く間に崩壊する。グリード、スナーブが先導し突破を図る――その時、ハノが後ろから撃たれた。
「がはっ!」
腹を突き破る鋼鉄の騎兵槍。口から血が噴き出て、ハノは倒れた。
「一回は一回だ」
フードの魔術師が、右手を突き出した格好で立ち上がった。顔面に電撃弾が当たったはずだが、致命傷ではなかった。だがまったくの無傷でもなさそうで、インモルタルの声に怒りが混じっている。
「よくも、人間の分際でぇっ! ――ごふっ!」
その瞬間、またもインモルタルは顔面に一撃を食らった。
鉄の玉。カリュプスメンバーで一番の巨漢であるニェーボがお手玉のように扱う鋼鉄ボールだ。
ぐしゃりと顔面が潰れるような音がしたが、インモルタルはなお倒れない。
「お前……お前ぇぇー!!」
叫んだところに鉄球がまたも顔面にヒットし、倒れず踏みとどまれば、さらに一発同じ場所に当たった。
「ガル」
オダシューが声をかけた。
「ここはおれとニェーボで何とかする。お前たちは先に行け!」
「……」
ガルは、インモルタルを一瞥する。ニェーボの鉄球を連続して受けて立っていられるとは、さすがは魔族。人間ならばとうに死んでいる。
「わかった」
ここでぐずぐずしていれば、敵兵が集まりブルハへの道が遠のく。オダシューが残りの魔族兵を片付け、ニェーボがインモルタルを相手にしている間に、ガルと残りのメンバーは先を急ぐ。
去り際、グリードは、倒れたハノを一瞥した。
「先で待っていてくれよ。……俺たちもそっちへ逝くからな」
・ ・ ・
カリュプスメンバーたちは進む。インモルタルの迎撃が破れたと聞いて、駆けつける魔族兵だが、次の迎撃網を形成する前に突撃してくるガルたちに各個撃破されていった。
そんな中、先を急ぐ通路の一つで、ブルハが立っていた。妖艶なる美女。サキュバス・クイーン。魔王軍の大幹部。ガルたちの足は止まる。
「ブルハ……!」
宿敵の姿。組織であるカリュプスを壊滅に追いやった仇敵。それがとうとう、目の前に現れたのだ。
「三年だ。この日がくるのを待ち侘びた」
ガルはミスリル剣を構えた。ブルハは、ガルたちに関心がないように、どこか呆けた顔をしていた。アンニュイな表情。しかし何も言わない。
――俺たちのことなど忘れてしまったか?
それは酷く腹立たしいことだった。追う方は忘れない。しかし悪事を働いた者は、己の所業すら忘れている。
「覚悟しろ!」
問答無用ならばそれも結構。ガルは突撃した。無害な人間を装っているが、あれで獣の如き爪と、少々の魔法を使いこなす。肉弾戦でも相当な実力者だ。油断を誘っているのかもしれないが、隠している爪を知っているガルは手を抜かない。
ブルハが自身の顔に手を置く。するとその顔が、一瞬で別の顔に変わった。
「!?」
これにはガルもほんの僅かに腕が鈍った。仇と思ったら、まったく別の姿に変わったのだ。ガキンと剣と剣がぶつかった。
「お前は誰だ?」
「オレはお前だよ」
その顔は、鏡で見る自分の顔。魔王軍残党幹部の一人、変化のメレオーが、ガルたちの行く手を阻んだ。
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