後日談133話、城門破壊
「――ですから、城門が破られたんです!」
魔族兵が、城内の魔力式通話機に叫んだ。
「城の外にドラゴン!? そんなことはわかっていますが、門を破って侵入者が――ですからさっきからそう言っているでしょう!」
互いに声が高く、そして時々聞こえる轟音に負けないように怒鳴るような声となっている。
「城壁は突破されています! 正面門を破られたら、城内に――だから、城壁の門がやられたって言っているでしょうが! ここも持ちませんよ!」
分厚い金属の門が破られるものか、とのたまう相手に、魔族兵は怒気をぶつける。
表にいるというドラゴンがブレスを放ってくれば金属の門とて無事に済まないことくらい容易に想像がつくだろうに。
門の裏手に、魔族兵が集まってきていた。敵の襲撃を受けて、門の守備にきた者たちである。
本来、頑丈なはずの城壁がガラガラと崩れていく音がしていて、兵たちの顔にも不安の表情が浮かぶ。
そして、ゴーンという門が何かにぶつかった音が、辺り一面に木霊した。魔族兵たちの視線が、門に注がれる。
敵が、厚さ数十センチの金属板の向こうにいる。攻城兵器でも用いているかのような音がしたことで兵たちはしん、と静まった。
敵は初めは人間だったが、いつの間にかドラゴンも加わっている。この門の向こうにいるのは、ドラゴンなのか……?
次の衝突音に備える兵たち。先ほどの音は凄まじかった。
沈黙。次に備えつつ、固唾を呑む。門の裏手にいる兵たちには、外の様子はわからない。
そしてそれは来た。
ドンと轟音と共に、門が吹っ飛び、待機していた魔族兵たちの列を跳ね飛ばした。金属の塊がそのまま猛スピードで飛んでくれば、武装した者とてひとたまりもない。
五十人程度の兵が巻き込まれ、あるいは下敷きになった。無情な超重量の門は、彼らを押しつぶしたのだ。
位置の都合上、門の直撃から外れていた魔族兵は、通話機を操作したまま、一瞬の衝撃に固まっていたが、すぐに自らの役割を思い出す。
「と、突破されました! 門が吹き飛ばされました! たった二発で!」
ゆらり、と崩壊した門のあった場所をくぐったのは、人間。
ドラゴンではないが、僅かな人数。魔族兵は通話機を操作したまま、侵入者を見て、呆然とした。
「にん、げん……?」
「あー、駄目だ。壊れちまった」
門に一番近いところにいた男――ソウヤは、手に持っていた金属製のハンマーを捨てた。
「悪い爺さん。とっておきのハンマーを壊しちまった」
「それは試作モデルだよ」
老魔術師は皮肉げに答えた。
「とっておきではない」
『敵襲――!!』
正面にいなかったことで難を逃れた兵たちは、その叫び声に反応し、武器を構えた。そのたった五人の襲撃者に挑むが――
「洒落臭い!」
黒髪、バトルドレスの美少女――ミストが竜爪槍で魔族兵を薙ぎ払えば、長身美女姿の影竜から、黒い靄のようなものが流れてきて、そこに入った兵たちを捻るように潰した。
それが異常であるのは、通話機にかかっている魔族兵にもわかった。忘れてはいけない。こいつらは門を破壊したのだ。
「敵は少人数ですが! 強すぎます! 増援を――」
それ以上は言えなかった。打ち込まれた火球が、通話機の備え付けられている壁ごと溶かし、吹き飛ばしたからだ。
老魔術師――ジンの放った魔法である。
「うーん、ついやってしまったが、これはどうするのが正解だっただろうか?」
「何がだ、爺さん?」
ソウヤはアイテムボックスから聖剣を取り出し、向かってきた雑兵を一閃する。金属鎧を物ともせず、抵抗がなかったように両断される魔族兵。
「いや、ガルたちが侵入しているのだろう? それなら、こちらに敵を引きつけるために、電話は残しておくべきかと思ってね」
「もう吹っ飛ばしただろ」
ソウヤが、落ちていた大盾を蹴飛ばすと、まるでブーメランのように飛んで、迫る敵兵を切り裂いた。高速で飛ぶ金属の塊は、刃がなくとも物体を切断する!
「普通、無線とか電話とか、増援を呼ばれると厄介だから、真っ先に壊すのが正解じゃね?」
「それはそうなんだが……彼女たちは、ね」
ジンが肩をすくめる。ミストと影竜は、暴力的なまでの笑みを浮かべて、魔族狩りを行っている。ドラゴンの卵を狙った愚かな同胞のせいで、とばっちりの魔族兵である。……元々、戦闘大好きな性格ではあるのだが。
「まあ、これだけ派手にやれば、電話を使わなくても、敵が集まってくるんじゃないか?」
ソウヤは奥の通路から現れた団体を見て、ニヤリとする。門を破壊した音は、城中に響き渡ったことだろう。
「ガルたちのことも気になるが、ここで暴れたほうが、あいつらにとってはやりやすいんじゃないかな」
そもそも、ドラゴンたちは魔族への報復に余念がない。ドラゴンの一派が一族絶滅にさらされたこと、その逆鱗に触れたことは、言い方を変えれば万死に値する、というものである。
世の中には、喧嘩を売ったら人生が終わるような相手もいるのだ。
・ ・ ・
城の警備の目は、ほぼ外と城門に集まっていた。
出てくる敵を始末しながら進むガルたちカリュプスグループは、聞こえてくる魔族兵たちの言葉から、大体の状況を把握する。
「ドラゴンたちは派手に暴れている」
「おっかない!」
オダシューが言った。
「だが、いい陽動になっている。……こんな言い方したら、ドラゴンたちに怒られるかもだが」
「事実だ」
ガルが言えば、先導するスナーブが手を挙げて、皆を止めた。
「敵か?」
「待ち伏せされている」
スナーブの報告に、ガルは眉をわずかに動かした。
「そう簡単には行かせてくれないか」
「ここは敵の本拠地だからな。そういうもんだ」
オダシューが豪快に言えば、正面通路に魔族兵の一団が武器を構えて通せんぼする。
そしてフードを深々と被った魔術師らしき魔族が、前に出た。
「……ここから先は、行かせないよ」
魔術師インモルタルは、ガルたちの前に立ち塞がった。
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