後日談131話、ドラゴンたちは征く
『……マジかぁ』
思わずソウヤが念話を漏らせば、ミストドラゴンが一瞥をくれた。
『どうしたの?』
『魔王軍残党の城に、ガルたちカリュプスのメンバーが乗り込んだ』
歩国を離れて、ソウヤとドラゴン一行は、魔王軍の拠点『地底城』へ急行中だった。
魔族と絶賛、戦争状態であるドラゴンたちは意気軒昂、鼻息も荒く、魔王軍残党討伐に向かっていたが、アースドラゴンの力で様子を探っていたソウヤは、城外の騒ぎも掴んでいて――
『そろそろ、仲間たちに会ってもいい頃合いだとは思っていたんだけど、まさかこういうタイミングとはな』
『おう、あの根暗なガルたちがおるのか!?』
先頭を飛ぶアクアドラゴンが、心なしか声を弾ませた。
『久しく会ってなかったからな。奴らがおるのは、少し楽しみだ』
――覚えているんだなぁ、一応。
ソウヤは思う。ドラゴンの長い一生を考えれば、三年前なんて瞬きにも等しい。そんなほんの一瞬とはいえ、共に過ごした人間たちのことを覚えているのは、ソウヤとしては少し嬉しくなるのだ。
特にアクアドラゴン、クラウドドラゴンといった長寿組かつ、人間にさほど関心が薄いドラゴンたちが、である。
『でも、それはそれで面倒ではある』
先頭を争うクラウドドラゴンは言う。なお彼女の背には老魔術師であるジンが乗っている。
わずかに首を捻るアクアドラゴン。
『何故だ?』
『こちら側の友人がいる以上、城を外からブレスで破壊しにくい』
『あー、そうだそうだ。それは困るな。私はブレスで建物を壊すのが大好きなのに!』
『一応、加減してくれるみたいね』
ミストドラゴンが苦笑した。ガルたちがいるから、もろとも破壊するとか、そういう真似をアクアドラゴンは控えてくれるという。
これにはソウヤもニッコリだ。
――普通、ドラゴンが人間にそんな配慮することないぜ?
破壊とあれば好きにやるのがドラゴンの流儀。指図は受けないが一般的なドラゴンが、友人と見た人間には遠慮を見せる……。これは異例なことだ。
しかも配慮しているのが、あのアクアドラゴンであるというのだから、驚きである。
『それで――』
それまで黙っていた影竜が念話を飛ばしてきた。
『まだ飛行が続くのか、ソウヤ?』
『もうじき、地底の城まで通じている地下への大穴がある』
そこを一直線に飛べば、自然と辿り着ける。そう説明したソウヤは、それに気づいた。
『あ、入り口に飛空艇が浮いているけど、あれは魔王軍じゃないから無視な』
『わかった』
『飛空艇? どういうこと?』
ミストドラゴンが尋ねてきた。ソウヤは、少し考える。
『知っている船ではないんだけどな。魔族が乗っていないのは確かだ』
人間が動かしている船とわかったら、それ以上は見ず、地底城と魔族の動きを注視していたソウヤである。
『たぶん、ガルたちが乗ってきた飛空艇だろう』
『なんだ、じゃあ知り合いがおるか?』
アクアドラゴンが確認する。彼女、こうまで人に好意的だったっけ?――ソウヤは、らしくないアクアドラゴンに違和感をもつ。
それを察したか、クラウドドラゴンは言った。
『歩国で、歓待された後だから』
『あー、酒か』
人間の作る酒が好物というアクアドラゴンら水属性ドラゴン。酒で買われた好意の感情。現金といえばそれまでだが、アクアドラゴンがやたら人間に配慮しているように見えたのはそれが原因かと、ソウヤは納得した。
『オレたちの知り合いはいないようだが……ガルが世話になっているかもしれない。あまりビックリさせないように』
『ムリだな』
アクアドラゴンは即答する。
『私たちの姿を見た人間は、例外なく驚き、ひれ伏す! 存在自体がビックリだ』
愉快そうな水の四大竜さまである。
『間近で拝謁する名誉を与えてやるくらいで勘弁してやろう!』
『……なんだこれ、止めたほうがいいのか?』
ソウヤが首をひねり、ミストドラゴンに助けを求めれば、彼女は笑った。
『フライパスくらいで勘弁してやるって』
『やめてやれよ!』
飛空艇のそばをドラゴンが、しかも集団で通過するなんて、船側からしたら生きた心地がしないだろう。
そうこう言っているうちに、山岳地帯にさしかかり、程なくして目的の大穴と、それに滞空している中型飛空艇が見えてきた。
見たことがない型だった。ここ三年で普及したモデルか。ソウヤは思ったが、その船がペルスコット家所有の飛空艇『カラスノス号』ということは当然知らない。
『ソウヤ』
先頭を争うように飛ぶクラウドドラゴンに乗っているジンが念話を寄越した。
『魔族の襲撃と勘違いされないように、先方に警告しておくべきじゃないかな?』
『……それはそう』
アクアドラゴンがフライパスする気満々な様子で、こちらは大穴に飛び込む都合上、近くを通過する。あちらが武装していれば敵襲と慌てて、船を守るために攻撃してくるかもしれない。敵ではないものを破壊するのは趣味ではない。
『ミスト、ひとつやってくれ。こういうのは得意だろ?』
ソウヤはミストにお願いする。ドラゴン流の、人の頭に直接交信をぶつけるのは、気が引けるのだ。
『はいはい、それじゃあ、やってあげるわよ』
ミストドラゴンは、飛空艇に向けて警告の念話を飛ばした。
『そこの飛空艇! 近くを通過する! 敵対意志はない。攻撃するな!』
ドラゴンの警告に、ドラゴン集団の接近に気づき、動き出していた船員たちが頭を押さえて硬直した。遠慮のないドラゴンの、脳内に直接話かけるアレである。強さに気をつけないと、頭をぶん殴るような衝撃を与えることもある。耳元で大ボリュームをぶつけて鼓膜を吹っ飛ばすくらいの所業を、ドラゴンは平然とやるので、ミストは優しい方である。
船員たちが固まっている間に、ドラゴンたちは猛スピードで近くを通過した。これが逆の立場であったなら、本当に生きた心地がしなかっただろう。
予告通り、アクアドラゴンが至近を通過し、甲板上のものをひっくり返して飛び去った。
かくて、ソウヤたちは地底へと飛び込んだのである。
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