後日談125話、ちなみに精神憑依とは……?
銀の救護団のもとに、うら若き乙女――の顔を持つメイドが訪れた。
オダシューは、それを見るなり緊張した。それは別に美貌に見とれたとか、一目惚れをしたとかいうものではなく、勘であった。
他のカリュプスメンバーたちは、その来訪者を不審な目を向けても、その裏に潜んでいる気配には気づいていないようだった。
そのメイドは、どこからどう見てもメイド以外には見えず、姿勢がよかった。若いながら熟練のメイド――そう感じさせる。
これが、オダシューの違和感を持った。あまりに完璧過ぎる。よほど格式の高い……つまり王族に仕えるようなスペシャルメイドの貫禄だ。
こんな辺境をフラフラ移動している飛空艇の救護団を訪れるような人種ではないし、どこから来たか知らないが、『綺麗』過ぎる。
「リーダー! ガルにお客さんですぜ!」
……来客はガルに用があるらしい。オダシューは手を振って応えると、そのガルがいる飛空艇の個室へ。
「ガル、お前さんに来客だとさ」
「わかった」
相変わらず、ガルは表情ひとつ変えない。銀の救護団の中では、聖女レーラの護衛と、外敵への警戒担当をしているが、これといって変わったところはない。
「聞かねえのか、ガル?」
「? 何がだ?」
「誰が来たとか、そういうの」
オダシューが、先を歩くガルに続けば、彼は淡々と答えた。
「俺に会いに来る奴なんて、ろくなものじゃない」
そもそも外部に友人などいないし、名前を指定してくるということは、同業者の可能性が高い。つまりは、暗殺者。
「どうかなぁ、お前さん、見た目はイケメンだからな。救護団の仕事中にお前に惚れて追っかけてきたとか」
オダシューは冗談めかすが、ガルは小さく肩をすくめる。
「そんな娘が、危険な野を横断して追いかけてくると?」
「ねえな。普通なら」
村娘などが独り旅をできるほど治安はよくない。盗賊や追い剥ぎのみならず、危険な獣も徘徊していて、心得のある者以外がおいそれとできることではない。
「だが普通じゃないかもしれない」
「そう言っているだろう?」
ガルは返すのだ。オダシューは首をかたむけた。
「お前が聞かねぇから、おれの見たところを教えておいてやる。性別は女、年齢は二十代。どこぞのメイドだが、十中八九、只者じゃない」
「……そうか」
ガルは少し皮肉げな顔になった。
「メイドか。……同業者の臭いは感じたか?」
「あいにくと、おれのいた位置からは。……だがなるほどな、違和感の原因はそれか。知り合いなのか?」
「会ってみればわかる」
ガルはかすかに笑ったようだった。
訂正、このところ、この男は以前に比べて少し笑うようになった。
・ ・ ・
「ご無沙汰しています、ガル様」
「……」
ガルは無言だった。来訪者であるメイドが完璧なお辞儀をしたのを見た後、彼はオダシューら周りにいた者たちに、人払いをするよう合図した。
カリュプスメンバーたちは、何も言わずその場を離れた。暗殺者にも流儀はある。
二人になったところで、メイドは片膝をついた。ガルは冷めた目になる。
「何のつもりだ?」
「ご当主様への礼儀というものです」
メイド――ルフ・ペルスコットは、どこまでも従者としての振る舞いを忘れなかった。
暗殺者集団、ペルスコット家。その当主を継承したガル・ペルスコットである。しかし表向き、組織はルフが当主として運営しており、ガルは何でもない一ペルスコットとして振る舞っている。
「お前がここに来るということは、相当なことなんだろう」
表向き当主であるルフが、直々にやってきたのだ。ただの伝言なら、そこらの下っ端を使えば事足りる。
「探していた、魔王軍残党の拠点を発見致しました」
「……」
かれこれ何度目の報せだったか。現在のペルスコット家は、ガルの意向で、魔王軍残党を追っている。
ドラゴンたちが魔族狩りをしている裏で、暗殺者集団もまた水面下で活動していたのだ。
「今度は、『当たり』ですよ」
「だろうな。わざわざルフが来たんだから」
ガルの目が鋭くなる。
ブルハ――サキュバス・クイーン。魔王軍の幹部。ガルの古巣である暗殺組織『カリュプス』を潰した、仲間の仇である。
「本人を確認できたんだな?」
「同姓同名のサキュバスが他にいなければ」
事務的にルフは答えた。
「魔族が、容姿端麗な男子を誘拐している事件から、囚われた男子に精神憑依を行い、拠点を見つけました。そこでブルハの名前と、その本人がサキュバス・クイーンと致すところを確認しました」
「……」
「致すところを確認しました」
何故、繰り返した?――ガルが見れば、顔を下げつつ片目で彼の様子を見ていたルフは、そこで初めてつまらなさそうな顔をした。
「もう少し反応してくださってもよいのでは?」
「どう反応しろと?」
「サキュバス・クイーンが乱れに乱れながら、男どもを昇天させる様子の仔細の報告とか?」
「精を絞り尽くされて干からびて死ぬ様を聞きたいとは思わない」
「……つまらない人」
ボソリとルフは言った。
「やはりあなた様は、私のいれたアレ茶を顔面から浴びるくらいしないと、わからないと思います」
「真顔で何を言っているんだ?」
ガルは容赦なかった。
ともあれ、これであの宿敵を始末できる。ガルは戦意を漲らせ、復讐の時がきたことに笑みを浮かべた。
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