後日談122話、近い将来に向けて
地の底へ通じているかのような深い深い穴を行く魔族たち。
その動きを、ソウヤはずっと感じ取っていた。会場が盛り上がり、ドラゴンたちが飲み散らかし、騒々しくあっても、一度目をつけたら、その位置をどこまでも追える。
それもこれも大地竜の力。相手が地底という大地属性ドラゴンの庭のような場所にいるからとも言える。
これが水の中とか、空の上となると、ソウヤよりも他のドラゴンたちの探知が優れる。
ただ、ソウヤとて万能ではなく、位置はともかく、標的が何を話しているか、など会話の内容まではわからない。
そこは集中すれば、ある程度わかるようになるのだが、周りが騒々しかったり、他の作業をしている間は駄目だった。
聖徳太子みたく、多人数の会話を聞き取れるくらいのスキルでもなければ、他と並行しながら、相手の会話や細々とした動作まではわからないのだ。
とりあえず、竜玉騒動のヴァンパイアと合流した魔族は今は移動中。そのままアジトに到着するまでは、位置さえ掴めれば問題ない。
ソウヤは、片手間で監視しつつ、歩国での朝を迎えた。
昨夜の歓待は、朝近くまで続いたこともあって、王城はひどく静かであった。ドラゴンたちも楽しんだらしく、お休み中。
特にアクアドラゴンは、たらふく酒をくらい、爆睡中であった。水属性ドラゴンは酒好きだが、翌日は大抵潰れるのである。
若干の睡眠の後、ソウヤは城内を散策し、家臣の一団と遭遇し、そこでお話をした。
「お金が欲しい」
「はい……?」
歩国の家臣たちは首をかしげた。
「買い物をするにはお金が必要。特に人間社会では」
「そうでございましょうな」
ソウヤとしては、特に商売をしなければいけないということはないが、そろそろ人間社会への復帰も考えている。リハビリもほとんど済んでいるから、後は復帰後に備えての準備である。当面は、とりあえずやったことがある行商方面で考えている。
「しかし、ドラゴン様」
「……ソウヤでいいよ」
「ソウヤ様。言ってくだされば、お金はこちらでお出しします」
家臣たちは頷く。
「そうです、ドラゴンの方々にお金を出されては、バチが当たります」
「皆様は、我が国を救ってくださった大恩人にありますれば」
「竜玉伝説の皇帝竜様に、人間如きのルールを押しつけるわけにも参りませぬ」
彼らは、ソウヤ――いや、ジンがいる間は、人間の規則や決まりを強要するつもりはないらしい。ましてドラゴンたちから金を取るのは、よくないと考えているようだった。
そもそも、ドラゴンが金など払うか、という世間一般の見方もあるが、歩国ではそれとはまた少し違う様子ではあったが。
「そうは言うがな……」
ソウヤは反論しかけ、果たしてどう言ったら、すんなり納得してもらえるか考える。気持ちの上では、否定できても、それを理解してもらうには少々工夫なり言い方なりに気をつける必要があった。
恩人だの、伝説のドラゴンに対する罰当たりな行為はできないだの、気持ちは理解できなくはない。
しかしソウヤ自身は、今回それほど優遇されるような働きをした自覚はない。まして、信仰されるような伝説のドラゴンでもない。そのドラゴンの降臨で、他のドラゴンたちも同様に考えられると、それはそれで面倒ではある。
何故なら、遠慮に対する配慮など、ドラゴンに期待するだけ無駄である。変にドラゴン全体を崇拝されても、都合など知ったことかと平気で暴れ回ると考えるドラゴンの方が圧倒的に多いのだ。
「皇帝竜と四大竜には、それでいいけど、それ以外のドラゴンについても、それに合わせなくもいいと思う」
無関係なドラゴンといえど、敬意をもって接しないと、踏み潰されるから、そこは弁える必要はある。
だが、媚びへつらって、人間はそういうものだと他のドラゴンたちに勘違いさせ、増長させると荒野の荒くれ者よろしく、人里に我が物顔で出没するようになるかもしれない。
「しかし、ソウヤ様」
家臣の一人は真顔で言った。
「あなた様も、四大竜のお一人では?」
そうだった――大地竜のトップを引き継いだソウヤである。これについては、まだ先代が存命ということもあって、ソウヤはいまいち自覚に欠けている。
自分はその他ドラゴンのくくりのつもりで言ったのに、贔屓していい四大竜の中に入っているという。……これはポカである。
「今のはなし」
ソウヤは、もう諦めた。
「戯れだ。俺も商売がしたいんだ」
ほんの気まぐれだ。半分ドラゴンといえ、人間としての考え方がベースになっている。だからお金を利用することは自然なのだ。ドラゴンだからと神格化されても、根は人間のままである。
「左様ですか」
ドラゴンがやりたいことなら、と家臣たちは納得した。これが西の方の国々ならば、ドラゴンよりも勇者としてのソウヤが有名だから、何の問題もなかっただろう。
しかしこちらの方では、勇者ソウヤよりも、ドラゴン御一行様の印象が強い。
名前くらいは、聞こえていたようだが、今回は、カイザードラゴンのインパクトが強すぎた。
「それで商売をなされるのに、お金が必要と――」
「何を扱うつもりなのですか?」
家臣たちは聞いてくる。ソウヤは自身の顎に指を当てる。アイテムボックスを漁れば、それこそ、色々な場所で回収したゴミ――もとい、使い道がないけど、他の場所ならば欲しい人がいるかもしれないと集めた資材やら素材がある。
しかしそれらの多くは、商売をやる地域で、必要とされるものなのか、またはライバルとなってしまう店などがないかなど、下調べをやらねばならない。
お金云々の前に調べることであるが、現状では城下町をチラッと眺めた程度なので、情報不足であった。
そうなると、特に地元調査をしなくても、売れるという品を出すのがよかろう。ということで――
「こんなものでは、どうだろうか?」
アイテムボックスから出すそれ――突然出てきたものに、家臣たちは驚くが、それはさらに驚愕へと変わる。
「これは、もしや、鱗――っ!」
「おおおっ!!?」
「霧竜のなんだけどね」
ミストの古くなって落ちた鱗ではある。ソウヤはさらに。
「これが、影竜。これがアクアドラゴン。こっちはクラウドドラゴン――」
モンスター、もといドラゴン素材。コレクター垂涎の品であり、騎士や冒険者たちからも、装備に用いれば箔がつくとして憧れの品である。四大竜のものとなれば、それ一つで屋敷が立つくらいの高値がつく。
そもそも、一般に出回らないから、レア度の桁が違うのだ。この品揃えは、他では真似できない。つまり競合もない。
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