後日談117話、ドラゴンに人質は通用しない
「おやおや、ここは王族のみに許された神聖な土地ですよ」
やたら気取った男の声が響いた。歩国の王族を連れた一団――肌が灰色の長身の人型が、先ほどの声の主だ。
ナダは刀を向けた。
「そういう貴様は、王族ではないようだが?」
「いかにも! 我々は――ああ、こちらにおわす四人は正真正銘の王族の方々ではありますが、その他は王族でもなければ、人でもございませぬ」
いちいち気取ったその仕草。ドラゴンたちの表情が曇る。
「その慇懃無礼さは、ヴァンパイアか」
クラウドドラゴンがあからさまにガンを飛ばせば、アクアドラゴンもまた拳法士のように構えた。
「あいつら、もう殴るぞ。よいな?」
ミストも影竜もまた臨戦態勢である。ナダは、後ろでドラゴンたちの高まる戦意に寒気を感じ、とっさに振り返ってしまった。
「ど、ど、どうされたのですか、突然!?」
「あー、何つーか」
ソウヤは苦笑する。
「ドラゴンって、吸血鬼が嫌いみたいなんだ。特にああいう、勿体ぶるタイプ」
鼻持ちならない相手が気にいらない。ドラゴンを馬鹿にしているのか云々。
「ドラゴンは意外に煽り耐性、低いからさ」
我慢はしない。気にいらなければ、プチっと潰す。誰がそれを止められようか。他者になめられるのが大嫌いなのが、ドラゴンという種族なのである。
「一応、人質がいるのですが……」
ナダは気が気でない。ヴァンパイアとその配下たちに囲まれるように、意識があるのかないのか、立っている四人の王族――王と王妃、ナダの兄と姉がひとりずつ。
「……ドラゴンが人質なんて、気にすると思うか?」
ソウヤもまたアイテムボックスから剣を取り出す。
「いや、ソウヤ殿――」
言いかけたところで、ジンが呑気に顎髭を撫でつける。
「まあ、ドラゴンは気にしないな」
まるで他人事である。そうとは知らず、ヴァンパイアが声を張り上げた。
「何やら士気は旺盛。闘志も漲っているようですが、こちらには王族という人質がいるのをお忘れなきよう――」
その瞬間、ヴァンパイアの顔に影が差した。ツインテール少女――アクアドラゴンの顔がすぐそこにあった。
「ゴチャゴチャうるさいんだよ」
呟くような声が届いた瞬間、ヴァンパイアの顔面にパンチがぶち込まれ、その体を吹っ飛ばした。
周りの魔族――半数が吸血鬼であったが、それらも驚く。
「なっ――!?」
「いつの間――」
『誰が喋っていいって言った?』
灰色髪の美女、クラウドドラゴンは槍を止めた。
「喋らない。吸血鬼」
ヴァンパイアたちの心臓が穿かれ、塵のように消えていく。集団で指示を出す上位
種たる吸血鬼が軒並みやられたことで、他の魔族兵たちは慌てて、距離を取ろうとする。その頭の中には、人質云々など欠片もない。
そんなことより、自身の身の安全を図るほうに、体が反応してしまったのだ。
「そうは問屋が、卸さないわよ!」
ミストが竜爪槍で魔族兵を貫き、ソウヤもまたショートソードで、魔族兵の体を鎧ごと容易く両断する。
「その表現、最近多いよな、ミスト。気にいっているのか?」
「商会やっていた頃が懐かしいっていうのよ!」
「えー、お前、店の仕事とか手伝ったことがあったか?」
「あったわよ。……警備とか?」
「それは……仕事といえばそうだけど。何か違くない?」
魔族兵の数が、瞬く間に減っていく。ナダは完全に出遅れた。
「ナギ!」
「承知!」
ソウヤやドラゴンたちが、魔族を蹴散らしている間に、逃げもせず立ち尽くしている王族の保護に向かう。
完全に場は混沌と化した。アクアドラゴンに吹っ飛ばされたヴァンパイアは、めり込んだ壁から起き上がる。
「まったくもって野蛮な……。人質のひの字も出す間もないとか――」
すっとまたも影が過る。ツインテール少女のドアップが視界一杯に広がる。
「だから、うるさいと言っているんだが……?」
再び叩き込まれる顔面パンチ。
「お前が言っていいのは、ごめんなさいと、出てきてごめんなさい、だけだぞ」
「くっ! しかし――」
ヴァンパイアは霧状に姿を変えて、アクアドラゴンの物理打撃を回避する。
『くうぅ、覚えていろ!』
そのまま溶けるように、ヴァンパイアは消える。ナダは、それを見やり、歯噛みする。
「逃がしたか!?」
「まあ、そうだね。わざとだね」
老魔術師のジンは、まったく他人事だった。それよりも保護した王族にかけられている術を見て、それを解除する。
後ろで、一連の戦いを見ていたフラムは、隣に立っている青年冒険者を見る。
「ねえねえ、フォルスくん。あれはどういうこと?」
「アクア姉ちゃんはね、心臓を刺せば殺せるのに、わざと顔を殴ったの」
ブンブンと拳を振って、宙にパンチを繰り出すフォルス。
「ヴァンパイアはいくら顔を殴ったり潰しても死なないんだよ。そうやって逃げるように仕向けて……魔王軍の残党のアジトを探ろうとしているんだ」
凄いよね、とフォルスは言った。
「ボクやナダは、皆やっつけちゃって、アジト探るのに苦労したのに。言わなくてもきちんと一人逃がすなんて、さすがだなぁ」
それが聞こえたナダ、そしてナギは、何とも言えない顔になる。ソウヤと目が合うと、勇者はニコリとした。
「まあ、経験の差ってやつかな」
これまで魔王軍の残党根絶のために、活動してきたドラゴンたちである。
※次回から毎週日曜日の更新に変わります。どうぞよろしくです。
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