後日談115話、昔々とある場所で
『……で、結局、竜玉って何だ』
ソウヤは念話をジンに向けた。
何か知っているような様子のジンではあるが、ナダたちの前で言わないというのは、あまり歩国の王族の耳に入れるのはよろしくない事情があるのではないかと想像したのだ。
クラウドドラゴンとアクアドラゴン、影竜、そしてミストも念話に聞き耳を立てているのか、ジンに注目している。
老魔術師もまた念話を返した。
『これは、ナダたちには聞かれていないから言うけど、わかったからと言ってネタばらしはしないでくれよ』
『……どうしてそこで私を見るのだ?』
青髪美少女――アクアドラゴンがツインテールをブンブンと振った。誰も何も言わなかった。
『さて、竜玉とは、簡単に言えばダンジョンコアのことだ』
『ダンジョンコア……?』
聞いたことがあるような、ないような。こちらの世界では、ダンジョンコアを見たことがあったっけ――ソウヤは思い出してみる。
――忘れている、わけではないか……?
思い出せなかった。この世界に召喚されるまでに、アニメか漫画などで見聞きしたから、知っているような気になっているかもしれない。
『ダンジョンコアって、よくあるアレでいいのか、爺さん? ダンジョンの奥深くにあって、ダンジョンを構成している心臓みたいなやつ』
『心臓……。せめて頭脳にしてやれ、とも思ったが、それも違うか。少なくとも君は本物は見たことがなさそうだね』
『たぶんな。銀の翼商会の時に見つけていたら、売り物になるかですっごく揉めそうだから、ないと思う』
『ダンジョンコアを商品にしようというのは、確かになかったね』
ジンは苦笑した。ミストや影竜は肩をすくめたり、知らないという顔をする。
『ダンジョンを人工的に制御する。支配する魔道具というと語弊があるが、ダンジョン内を人の手で制御できる代物だ』
『それが竜玉か?』
クラウドドラゴンが淡々と問うた。ジンは頷く。
『ここでの竜玉の正体について言えば、そうだ。それ以外についてはわからない』
『それでお爺ちゃん』
ミストが口を開いた。
『アナタはここの竜玉について知っているようだけど、どういう関係かしら?』
『昔々の話だ』
ジンは目を伏せ、古い記憶を引っ張り出す。
『まだこの歩国が存在していなかった頃、私が皇帝竜として、この東方に降り立った。酷い気象条件が重なり、作物ができず多くの人々が命を落としていた。私はそこでほんの気まぐれに、ダンジョンコアを民に授けた』
『気まぐれね……』
ソウヤは腕を組んだ。干渉しなくてもいいのに、ジン――皇帝竜に敢えて干渉させるほどの酷い状況だったのだろう。
『皇帝竜だったあんたが授けた玉だから、竜玉って呼ばれているってことか?』
『そうだろうね』
ジンは真顔で続けた。
『ダンジョンコアの制御能力は、魔力さえあれば、大抵のことはできてしまう。土地に作物を授け、人々に生きるために必要なものを提供できる。……裏を返せば、戦争だったり、あるいは土地を支配することもね』
人々は、竜玉の力にすがり、命を繋いだが、やがてその力を自らのものにしようと野心を持つ者から狙われることになった。人を救った竜玉が、人を滅ぼすことに加担する。皮肉なものである。
『心ある者が、人々が竜玉を巡って争わないように、どこかへ隠したと聞いていたんだが……そうか、ここだったのだな』
『知らなかったのか?』
『人々が困っている時が来た時に使えるのならいいかと思って、回収はしなかった。もう何千年も昔の話だ』
そんなに古い話だったのか――ソウヤは思いを馳せる。竜の授けた玉とか、ロマンのある話である。伝説として語り継がれるような話だとソウヤは感じた。
「あのー、ソウヤ殿?」
恐る恐るナダが口を開く。
「先ほどから皆さん、黙り込んで……少し怖いのですが」
「ああ、悪い悪い。ちょっとドラゴン同士で情報の共有をしていた」
ソウヤは謝りつつ、ナダを見た。
「それで話を戻すと、歩国の王族は、ダン――竜玉の守護者として、それを守ってきたんだな?」
「そこまで言ってませんが……」
王族の秘密、まだ語っていない部分を、部外者であるはずのソウヤから言われて、ナダはビックリした。説明されていないのに知っているのはおかしい、と思われても仕方がないが、ソウヤは押し通した。
「そもそも竜玉は、ドラゴンが授けたモノだぞ。四大竜が知らないわけがないだろう?」
その瞬間、クラウドドラゴンとアクアドラゴンは、思い切り顔を逸らした。場に合わせるとか、空気を読むことに疎い、というか敢えて逆らうのがドラゴンらしい。
しかしナダには通じたようで。
「そうですね。竜玉の経緯を考えれば、ドラゴン側が知らないはずがなかったですね。これは無粋なことを言いました。お許しを」
「うむ」
そっぽを向いておきながら、人が下手に出ると調子のよい態度に出る風と水の大竜様。ともあれ背景は理解できた。
「よし、じゃあ魔族に竜玉を取られないよう、奴らを阻止しないとな」
いざ、ダンジョンへ。敵の狙いがわかったら、後は阻むのみである。
ソウヤたちは、竜玉のある最奥部を目指して、ダンジョンに突入した。岩肌むき出しの天然の洞窟といった見た目。
歩国の王族には儀式で使うとされるが、果たして、どのような仕掛けがあるのか。
「ナダは、このダンジョンの奥に行ったことがあるんだよな?」
「はい、過去に何度か。成人の儀の時は、単身で魔物を倒しながら」
そこでナダは首を傾けた。
「実はこのダンジョン、武器持ち込み厳禁なのです。武器の携帯が許されるのは、成人の儀のみ――」
「武器を持っていると魔物が現れる――そうだね?」
ジンが顎髭を撫でつけながら言った。ナダはコクリと頷いた。
「まさに。さすがはジン殿。見事な推理ですな」
「……まあ、竜玉の自動防衛機能なんだけどね」
ボソリと呟いたのは、ナダたちには聞こえなかった。
「本来なら武器なしで行くものですが、今回は先に魔族が入り込んでいますから、武器の携帯もやむなしです」
つまり、ダンジョン内では魔王軍の残党のほか、固有のモンスターが出てくるということだ。
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