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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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後日談101話、姫様をお救いしたけれど……


 姫君が捕らわれている。

 それを聞いた時のナダは、渋い顔になるのを何とかこらえた。


 はっきりと言えば、ナダは王族とか上級の貴族に関わりたくはない。これは家柄も関係しているが、昔から苦手であった。

 しかし、一方でそういう苦手感情を表に出さないように心がけてはいた。だから銀の翼商会にいた頃も、お姫様や貴族出身者がいたが、苦手であるというのは悟られてはいないと思っている。


 個人の好き嫌いはともかく、生存者がいるなら助けなければなるまい。ナダが個人的に深い尊敬の念を抱く勇者ソウヤも、助ける人を選ぶことはなかった。


 魔族のアジトのさらに奥に行けば、そこには娘が一人、閉じ込められていた。身なりは上等、なるほどお姫様というのは彼女で間違いなさそうだった。

 長い黒髪の麗しい姫君であった。従者の名前を出して、助けにきたことを告げれば、彼女は安堵の表情をみせた。


「どこのどなたかは存じませんが、助けていただき感謝致します。リーシンと申します」

「これはご丁寧に、リーシン姫。旅の剣士ナダと申す者。お怪我はございませんか?」

「私は大丈夫です、ナダ様。あなた様は――」


 心配げなリーシンの目は、慈悲に満ちていた。ナダは緊張を押さえ込み、答えた。


「私も怪我はございません。……ああ、これは魔族の返り血です。お見苦しいものを……申し訳ない」


 聞けば、リーシン姫は、この国――グーファイ王族の姫だった。彼女の従者だというフォイと合流する。彼は怪我をしていたが、ナギによって応急手当ては済んでいて、比較的軽傷であった。


「事情を聞きたいが、他にも魔族がいるやもしれぬ。移動したいが、姫君は大丈夫ですか?」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 留まるほうが危険と考え、リーシン姫、そして従者フォイも、ナダの提案を了承した。


「フォルス?」

「とりあえず、ここにあるものは持って行く」


 少年冒険者は、アジトにある物を手当たり次第、アイテムボックスに収納していった。どこで手に入れたか、ナダは知らないが、その収納のさまは、かつてのソウヤを連想させた。


 魔族系リザードマンがいないか警戒しつつ、空洞を出る。あまり外を歩いたことがないのか、リーシン姫は少々遅かった。


 ――まあ、王族だからな。しょうがあるまい。


 ナダは別段急かすこともなく、警戒しながら歩を進めた。正直言えば、アジトにいた程度の敵ならば、自分やフォルスが本気を出すまでもないと思っている。


「しかし、グーファイの姫たるリーシン殿が、何故魔族に?」

「わかりません」


 リーシン姫は首を横に振る。フォイは口を開いた。


「姫様は、近隣の町への視察の後、王都に戻られるところでございました。この国では、魔族など滅多に現れませんでしたから、何故襲われたのか、まったくわかりません」


 心当たりはないという。ナダは、ちらとナギを見る。


「どう思う?」

「実際、誘拐されたわけですから、何か魔族に狙いがあったと思われます」

「だよなぁ……」


 人間を無差別に襲ったというのなら、馬車の時点で二人とも殺されていたに違いない。


「ちなみに敵が何者かについては、何かわかりませんか?」


 リーシン姫とフォイに尋ねれば、二人ともわからないと答えた。捕虜はとれなかったが、フォルスがあの空洞内にあった物証となりそうなものを片っ端から回収したので、その線から調べれば正体はおそらく掴めるだろう。


「フォイ殿、姫様の護衛はどれくらいの人数がついていたのですか?」


 馬車一つ。他にそれらしいものはなかったから、随分と少人数でリーシン姫は移動していたようだ。この辺りは本来は治安がよいのではないか。でなければ、そんな少人数で王族が移動するはずがない。


「それが……、本当なら五〇人、馬車五台の規模だったのですが――」


 フォイは顔をしかめた。


「襲撃の寸前、霧に包まれてしまいまして」

「霧?」

「はい。気づけば、護衛の馬車と戦士らの大半が消えてしまいました。そこを先ほどの魔族に襲われて――」

「――!」


 ナダは、周囲の気配に注意を払う。


「フォルス、何か感じるか?」

「うーん、特に」

「ナギは?」

「こちらも」


 特に敵の気配はなし。フォイが不安げな顔になる。


「敵ですか?」

「フォイ殿の話の通りであれば、護衛の者たちは、魔法か何かで移動させられたのではないかと思うのです」


 あるいは、姫様の馬車だけが移動させられたのかもしれない。が、この際どちらでもよい。

 問題は、霧と移動が人為的なものであるなら、その使い手がいるということだ。だがアジトの外にも中にも、そういった魔法を使う者がいなかった。


「まだ、近くに敵がおる……」


 それも見ているのではないか――ナダは思ったが、人間より警戒範囲の広いフォルスが感じ取れないというから、案外いないのかもしれない。

 いや、テリトリーにうるさいドラゴンですら感知できない実力者ではないか? そもそも霧で目隠しして、邪魔者を消す術の使い手である。恐るべき相手である可能性は高い。


「警戒しつつ、馬車のところまで戻りましょう。そこから、及ばずながら王都まで護衛しましょう」

「ありがとうございます、ナダ様」


 リーシン姫が頭を下げ、フォイも間髪を入れずそれに倣った。護衛の者たちがいない今、通りがかりのナダたち以外に、身を守れるものはないのだ。

 もちろん、ナダとしても、行き掛かりとはいえ、弱き者たちを見捨てるような真似はするつもりはなかった。


 フォルスは何も考えていないような顔をしていたが、一人ナギだけは、不審さを僅かに滲ませていた。彼女が不審を向けたのは、ナダなのか、それとも姫と従者か。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完全に一目惚れされていますね、今後の展開を楽しみしてます
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