第73話、醤油蔵の資金繰り
家を飛び出したタルボットと、実家との関係の修復。それが果たされれば、家族としてもよいことだろう、とソウヤは思う。
とある女性の親のために借金したって話だったが、タルボットの醤油が王国を席巻すれば、彼の株はうなぎ登り。
――その女性とやらとも家庭を持てるんじゃないかな……?
たぶん、好意を寄せている相手だろう。そうでなければ、あのような借金を持つこともあるまい。本当に、ただの知り合いという仲ではないはずだ。
「……しかし、タルボット。お前、すげぇな」
「何がです?」
怪訝な顔をするタルボット。ソウヤは言った。
「借金の理由が醤油の開発でではなくて、恋人の家族のための治療費だろう」
「こ、恋人なんて!? いや、そ、そんなじゃないですから――!」
――あ、図星だな、この反応は。
お幸せにー。結婚式の時は呼んでくれ、行くから……ではなくて。
「醤油の開発では借金しなかったって、お前、蓄えあったんだな。それとも、何か副業でもしてた?」
「あー、それですか」
そこでタルボットが、何とも気まずそうな顔をした。
「何だ? 後ろ暗いことでもしているのか?」
まさか彼に限って犯罪行為に手を染めてはいないだろうが。
「その……ごめんなさい! ソウヤさん!」
突然、タルボットは頭を下げた。
「え、なに? 何だよ、いきなり?」
「ソウヤさんからもらったアイテムボックスを、売ってしまいました! それで、そのお金で開発と生活費に……」
「あー、そう。そうだったんだ……」
ソウヤはポリポリと頭をかいた。
十年前、醤油作りの大志を抱いたタルボット少年に、応援の意味も込めて、アイテムボックスをプレゼントした。
割と気に入った相手へのプレゼントや、何かしらの謝罪の時でアイテムボックスを配っていたソウヤである。
「なるほど、アイテムボックスを売ったか。うん、すげぇ納得した」
機能限定でも、大収納できるアイテムボックスは希少品で、売れば大金となる。
ぶっちゃけ、行商でなくても、アイテムボックス販売店でもやれば、それだけでも大金持ちになれるだろう。
……ただ、ひとつや二つならともかく、アイテムボックスが生産可能と大きく知られると、国とか悪い組織が利用しようと狙ってくるだろうから、絶対やらないが。
「それじゃ、今後のために、新しいアイテムボックスをあげよう」
「いや、いいんですか!? その貴重なものを――」
「あったら便利でしょ」
それに周りが言うほど貴重でもないのだ、ソウヤのアイテムボックスは。もちろん、ソウヤの保有するレアなアイテムボックスは、貴重過ぎるものではあるが。
「何かの時に売れれば金になるってことも含めて渡しているからな。……それが醤油作りの役に立ったのみならず、人の命も救ったのなら、オレとしても本望だ!」
勇者だから、というだけでなく、人助けは趣味、いや本能に近いところがある。あげたものを大事に使ってくれるのは嬉しいが、人を助ける役に立ったのなら、たとえ手放したとしても喜ばしいことだった。
その後、ソウヤはタルボットと今後のことについて話し合う。
醤油蔵の壊されたものについては、ソウヤたちが早い段階で駆けつけたので、さほどの影響はなし。駄目になった醤油はあったが、致命的な量ではない。
修理費用や損害分はソウヤが負担する。
「いや、しかしそれは……」
「むしろ、お前はオレの願いのために私財を投げ打ってここまでやってくれたんだ。本当はオレが金を出さなきゃいけなかった。だからオレが出すよ」
ソウヤは、ありがとう、とタルボットに礼を言う。
「ここまで、よくやってくれた」
「……はい。それはそうと、ソウヤさんから、借りた分のお金は必ずお返しします!」
「そっちは、まあゆっくりでいいよ。オレらが醤油を流通させれば、すぐに返せる分は稼げると思う」
だから、タルボットはこれまで通り醤油作りに専念してくれればいい。利子も返済期限も設けないから。……むしろ醤油を作ってもらわないと、ソウヤのほうが困る。
「ところで、タルボット。お前、家の店に入るのって抵抗ある?」
「はい?」
質問の意味が理解できなかったのだろう。タルボットは首をかしげる。
「オレら、これでも商人だからさ。貿易商ってのに、興味があるわけよ」
貿易商――それは商品を海外へ輸出したり、輸入したりする商人。国内にはない珍品や希少な品を海外から運んできたり、逆に国内じゃ余り気味だが海外では高く売れるものを送り出したりして、お金を稼ぐ。
そういうと壮大ではあるが、基本的な部分は、ソウヤたち行商や一般商人と同じく、『安くものを仕入れ、高くものを売る』っである。狭い範囲か、海外含めた広い範囲か、の違いである。
「タルボットの実家は貿易商だから、ちょっとどういう品を扱っているか見ておきたい」
何が売れているのか、何が売れるのか。それは行商としても大いに参考になるだろう。
「あわよくば、オレらが扱うもので、何か商売に絡めればいいなぁ、と思う」
「そうですか。いや、お役に立ちたいのは山々なのですが、さすがに今、家の敷居を跨ぐのは……」
「あー、やっぱ、難しいか。いや、無理にとは言わねぇ。普通に商人だって名乗れば、話くらいは聞いてくれるだろうし」
輸入した品を買ってくれるのは、一部の王族や貴族を除けば商人たちである。無碍にはしないだろう。
「……まさか門前払いを食らったりしないよな?」
ソウヤは不安になる。無名過ぎて、商人と言っても相手にされない可能性もあるか?
「それなら、一般向けの輸入品の販売店がありますから、そちらで様子をみるのはどうでしょう?」
タルボットが提案した。
「そこで店の人間に商人だと明かせば、本店のほうを紹介してもらえると思います」
「それなら門前払いオチはない、と。それでいこう」
本当は、身内であるタルボット本人に同行してもらうのが、一番な気がするのだが……。 ――いや、逆に親父さんが出てきて、追い出されるかもな。
醤油作りのために、家を飛び出しているタルボットである。彼の父がそれを快く思っていないのは、ソウヤの知る所である。
そう考えると、タルボットのガイドはないほうがいいかもしれない。ソウヤは思い直した。
「じゃあ、明日、お前の実家の店に行ってくるわ」
「はい。たぶん、大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」
うん、と頷くソウヤ。
――何か掘り出し物とかあったら嬉しいなぁ。
貿易商と何か繋がりが持てれば、商品の仕入れとか販売に役立つことは間違いない。
必要なものはすべて揃う、それが銀の翼商会の未来の姿だ。珍品、希少な品も、ウェルカムである。
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