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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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後日談62話、虚無の世界


 突然、真っ黒な魔力が現れた。観測していたソウヤが、その見たことのない魔力の色に圧倒されたのも一瞬、気づけば、一人だった。


「……え?」


 ここはどこだ? ソウヤは絶句した。


 ゴールデンウィング二世号の甲板にいたはずだ。それが何故、この得体の知れない空間にいるのか。


「宇宙、じゃないよな……?」


 息はできる。足が地面につかず、浮いている。しかし落下しているわけではない。


「まさか、死後の世界だったり?」

『虚無だよ、ここは』


 老人の声がした。振り向けば――地に足がついていないのに、身を翻すことができたが、そこにいたのは、黒いフード付きのローブをまとう男。おそらく今の老いた声の主だろう。


「キョム……?」

『そう、虚無だ』


 ふっと、老人は近づいた。声がクリアになっていく。


「何もない。意味もない。存在しないこと。空っぽ――」


 ソウヤは首を傾げる。言葉の意味はわかるのに、わからない不思議な感覚に苛まれる。


「あー、オレはソウヤと言います。あなたは?」

「名前か? そんなものに価値はないよ、ここではね」


 老人はふよふよと近づき、いやすれ違った。


「幽霊ですか?」

「ふむ、そんなようなものだ。この虚無の中にいれば、生きているのか死んでいるのか、それさえもどうでもよくなるものだ。……君も同じだ」

「オレは死んだのですか?」

「それに意味はあるかね?」


 老人は振り向きつつ言った。距離が離れそうになるので追おうとしたら、ソウヤの体もふわりと老人の後を追った。


「死後の世界なんですか、ここは?」

「虚無だ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……わからない。あなたの言っていることが」

「わからない。そうだ、誰も何も、決してその真意はわからない」


 老人は正面に向き直った。


「そもそも、言葉からして、きちんと相手に伝わっているのかさえわからない。君の口にした言葉の意味と、私が聞いた言葉の意味は、解釈が違うかもしれない」

「哲学か何かですか?」

「そこに意味はあるのかね? その問いに答えたところで、君の疑問は解消されるかね?」


 老人の言葉に、ソウヤは少し考え、首を横に振った。


「たぶん、解決しないかと」

「よろしい。君もここでの過ごし方がわかってきたようだな……」


 老人は笑ったようだった。声の調子が、少し機嫌がよくなった。


「ここは長いのですか?」

「長いだろう。しかし短いかもしれない」


 相変わらず、理解に困る答えだ。老人は振り返ると、口元がやはり笑っていた。


「ここには時計がないのでね。……時計はわかるかね?」

「ええ。……確かに、ここに時計はなさそうだ。太陽も、月や星もない」


 時間の感覚がわからなくなる。比較するものがないと、確かめようがない。


「でも、オレは知りたい。ここはどこで、どうしてここにいるのか……。知っています?」

「さあね。私は知らない」


 老人の答えは、ソウヤも予想できていた。ただもしかしたら、何か知っているのではないかと淡い期待をしたのだ。


「オレには仲間がいたんです。飛空艇に乗っていたのに、気づいたらここにいる――あ、飛空艇はわかります?」

「それは私が知っても意味のない情報だ」


 老人は言った。


「肝心なのは、ここがどこなのかということ……そうだな?」

「あー、それもそうなのですが、できれば元の場所へ帰りたいかな、と」


 この得体の知れない場所から、元の場所――もし世界が違うなら元の世界へ。死後の世界でないのなら。


「ここがどこかという問いなら、私はすでに答えた。虚無だと」

「そうでした。言い方が不味かった。虚無とは――ああ、駄目だ。この言い方だと、やっぱりあなたは答えている」


 何もない。意味もない。存在しないこと。空っぽ――と。


「おかしいな。言葉にはできるのに、正しく聞きたいことが伝わらないもどかしさ」

「そういうものだよ。人を理解するのは難しいのだ」


 老人は止まる。


「どれ、私が君に歩み寄ることにしよう。君の聞きたいこと、知りたいことが君にもわかるように努力しよう」

「それはありがとうございます。……正直、オレは頭がよいほうではないので、そろそろ限界でした」

「頭の良し悪しなど、問題ではない。理解するかしないか、理解できるかできないかだ。高名な学説も、計算式も、文字も、人の頭のよさを指し示す指標ではあるが、虚無の中では、役に立たない。ゴミだ。空っぽ、無意味、無価値なのだ」


 老人とソウヤは言葉を交わした。


 結局のところ、どうしてここにいるのか明確にはわからないものの、ここにいる直前に感じた黒い魔力の作用ではないかと推論を得た。つまりは、バローク遺跡都市の魔王軍残党が何かしらの道具ないし兵器を使ったのだ。


「……それが何なのか、さっぱりではあるがね」


 老人は悩むでもなく、思ったままを口にした。取り繕うのも無駄だと言わんばかりだ。


「しかし、それは大した問題ではない。この虚無から、どうやって元の場所に戻るかだ」


 探してみよう、と老人は言った。


「だが心せよ。この虚無は、それを壊そうとする者に牙を剥く。私たちの行く道には、私たちを真に虚無にしようとするモノが漂っている。……気をつけたまえ」

「はい、師匠」

「師匠?」


 怪訝な口調になる老人に、ソウヤは笑った。


「あなたは、ここではオレの導き手ですから」

「そうか。……師匠ね。――行こうか、我が弟子よ」


 老人は手を振った。

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