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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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第68話、借金は返すもの


 タルボットの醸造蔵。ソウヤは、十年ぶりに再会したマーク・タルボットが借金をしていたことを聞いた。


 醤油開発のための資金が不足して借金をした――かと思えば、そんなこともなく、知り合いの――おそらく親しい女性の家族を救うためだったという。


「治療費ねぇ。……教会の僧侶さんの治癒魔法じゃ駄目だったのか」


 相当の難病だったようだ。魔法のある世界でも、何でも魔法で解決するわけではない。

 ソウヤは小首を傾げる。


「でもタルボットよ。お前んち、貿易商だろう? 金を借りるにしても、家から借り……れなかったんだな、そうだろ?」


 家から借りられれば、そもそも金貸しから借りたりしないだろう。


「親父は、僕が家を飛び出してショーユ作りをしているのが気に入らないんです。勝手にやれ、だが金は出さない……そういう約束なので」

「……それに、好きな女の家族のための金なら余計に、ってことか」

「す、好きなって」


 途端に赤面して、視線を逸らすタルボット。この反応、二十八にもなって初心過ぎではないか。


「と、とにかく、実家を頼ったら、間違いなく醤油作りを辞めさせられます!」


 それは困る――ソウヤは唸った。


 とりあえず、フランコ・アイアン商会から金を借りて、治療費の件はどうにかなった。

 しかし、醤油開発はすれど、借りた金を返す目処が付かず、先方はヤクザ紛いの行為に及んで取り立てにきた、と。


「で、いくら借りたの? 借用書ある?」

「金貨100枚です」

「うわっ、高っ!」


 一般人の年収の数年分。下手したら十年分くらいの額である。


 ――治療費の額パネェ。普通の人じゃ、手が出ないだろ、それ。


 本来は、よほどの金持ちや貴族、王族を相手に治療を行う医者なのではないだろうか。


 ――タルボットの実家なら、まあ払えなくはないだろうが……。


 貸すほうも貸すほうだが、おそらくタルボットの実家のネームバリューがあればこそだ。額が額である。返済見込みがなければ、さすがに貸さないはずだ。


「これが借用書です」


 タルボットが丸めた羊皮紙を広げた。ソウヤはそれを拝見する。


 ――書式は整っているようだな……。誰が誰に借りて、幾ら借りて、利子が幾らで………いつまでに返済して、返済できなかった場合は……。


 ソウヤは、借用書から顔を上げた。


「返済期限から一カ月過ぎてなお返済されない場合、お前、労働奴隷になることになっているんだが?」

「はい。ちなみに、返済期限は三日前です……」


 ――過ぎてんじゃねえか!


「返す宛ては?」


「……厳しいです。何とか半分は……でも残りと利子分は……」


 一応、返すための努力はしていたようだ。まったく宛てがないのに借りたら、詐欺も同然である。


 とはいえ、現状はよろしくない。ソウヤは唸る。


 借金が返せずに奴隷落ちするというのは、この世界では特別珍しいことではない。

 しかし、そうなると、ひとつ腑に落ちないことがある。


 何故、返済期限過ぎたら、即奴隷落ちではないのだろうか? 返済期限にさらに一カ月の猶予とか、意味がわからない。

 即時に、私財没収で、奴隷にしてしまったほうが早いのではないか? 何故、そんな条件の借用書になっているのか。


 ――ひょっとして、タルボットの実家の金を期待しているのか?


 家を出ているとはいえ、勘当されたわけではなく、繋がりが残っている。息子が借金で危機とあれば、家族が代わりに支払うのを期待しているとか……?


 ――いや、それなら、直接、実家の貿易商のほうへ行ったほうが早くないか?


 つまり、そっちにも行った。だが断られた。しかし是が非でも金を取り立てたいから、タルボット当人にその気にさせるために、蔵で暴れたと。息子が直接、家に泣きつけば実家も金を出すのではないか。


 初めから、タルボット本人に返済能力がないのに高額の金貸しとか、フランコ・アイアン商会は、中々にアコギなことをする。


 今回の件での解決策は、もちろん借金を返済することだ。が、問題となるのは『誰が』その金を出すか、である。

 ソウヤは借用書を机の上に置いた。


「ところでタルボット君。醤油のほうの出来はどうだい? 地元の漁師さんが、醤油を使っていたから、モノは完成しているんだろう?」

「はい、もちろんです!」


 それまでしょげていたタルボットが、急に目を輝かせた。


「たまり、濃口、甘口、淡口の四種が完成しています。ソウヤさんから聞いた、白をいま作ってるところです」

「凄いな! そこまで作り上げたのか!」


 これは嬉しい報告だ。この十年の間に、よくぞやってくれた。


 醤油と一口にいっても、地方によって違うものだ。関東と関西では濃さが違うといわれるのは有名な話だが、それ以外にもバリエーションがあって、料理や食材によって向き不向きが存在する。


 勇者時代に話して、どれかひとつでも醤油らしきものが作れればと思っていたが、タルボットは数種の醤油の開発に成功したのだ。


「よくやった! よし、後は任せろ!」

「いえいえ……え?」


 キョトンとするタルボット。


「後は任せろ、とは……?」

「お前の借金だよ。フランコ・アイアン商会とは、オレが話をつけてきてやる!」


 せっかく異世界で作り上げた醤油だ。むざむざ失われるようなことはしない。


 ――ま、醤油うんぬんはともかく、借金の理由を聞いちまったからな。何とかしてやりたいってのが人情ってもんだ。



  ・  ・  ・



 かくて時系列は戻る。醤油蔵を襲撃した奴を小突いて、ソウヤとミストはフランコ・アイアン商会に乗り込んだ。


 ちなみに、タルボット本人は、セイジと醤油蔵の片付けをやっている。


 マーク・タルボットの借金を返済にきたと用件を告げたら、責任者のもとに通され、マイオ・フランコで面談となった。

 フランコ・アイアン商会の社員を叩きのめした、醤油蔵で暴れたどうこうの牽制ののち、本題に入る。


「で、マーク・タルボットの借金を、おたくが返すってことだが?」

「うーん、少し違う。オレたち銀の翼商会が買い付けた商品の代金を、借金の返済に充てるということだ」

「……まあ、金は金だ。そっちの金がどういう経緯の金かは、大した問題じゃない」


 マイオ・フランコは、ブルドッグのような顔を厳めしい顔を向けた。


「金貨150枚だ」


 ――ふっかけてきたぁ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 確認したい点が有ります。借金の原因となった病気の高額な治療薬によって、罹患した人は完治しているのでしょうか? 他作品の話で、延々と借金させて金蔓とするために対象の人物の親族に毒物を服用…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >金貨150枚 金貸し一人の命にしては暴利もよいとこだと思うのですけど。 ミストさん、どう思います?
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