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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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第635話、異空間の渦


 魂収集装置は途中で止まった。しかし直後に現れた空の渦が、周囲のものを引き寄せはじめ、生き残りのドラゴンの眷属や、乗員を失った魔王軍飛空艇が為す術なく吸い込まれていく。


 かなりの風が吹き荒れていて、引き寄せられたもの同士が激突し、バラバラになる光景も散見された。


 戦場から離れた位置にいるプラタナム号から、ソウヤたちは状況を監視する。青き異世界飛空艇サフィロ号も、その渦の流れに乗り始めていた。


『――やあ、ソウヤ』


 通信機から、そのサフィロ号に乗っているジンの声が入った。


「爺さん、無事か?」

『今のところはな』

「一体、何がどうなっているんだ?」

『話せば長くなりそうなので、手短に言うが、リムが、集めた魂を使って異世界の門を開いた』

「門って……あの渦のことか?」


 異世界からやってきたエイタ船長たちサフィロ号。霧の海世界からこちらへ来た時も渦を通ってきたという。


『ここで唐突な話だが、サフィロ号は、このままドラゴンの眷属や乗り手のいなくなった飛空艇もろとも、霧の海世界へと帰還する――ということで、エイタ』

『あー、ソウヤ』


 通信機から、ばつの悪そうなエイタの声が聞こえた。


『急な話で悪いんだが、おたくら銀の翼商会との契約はここまでだ。こっちとしてもこのタイミングは予想していなかったが、開いてしまったからにはこの機会を逃すわけにはいかない』

「本当に唐突なんだな」


 ソウヤは、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような寂しさをおぼえる。急な別れ――別世界へと行ってしまえば、二度と会えないだろう。


「だが、そういう契約だもんな」


 護衛として雇う期間はなし。だが元の世界に帰る手段が見つかったら、そこで契約終了と、最初の時点で取り決めていた。そして、エイタたちの都合を優先していい、とソウヤ自身が言ったのだ。


「ボーナスを渡し損ねたな」

『なに、退職金代わりに、魔王軍の飛空艇をもらっていくさ。売ればいい金になるだろう』


 エイタのその言葉に、ソウヤは苦笑した。


『ついでに、ドラゴンのお供は、こっちの世界へ招待するから、そっちの世界の迷惑にはならんだろう』

「霧の海世界には迷惑だろう? 大丈夫なのか?」

『あいつらは、まず自分たちが降りられる足場を探す必要があるだろうな』


 皮肉げにエイタは言った。


『まあ、心配するな』


「わかった。ありがとう。そっちの世界でも頑張れ、戦友」

『ああ、またな』


 そこで、エイタとの通信が切れ、ジンに切り替わった。


『ということで、私もちょっと向こうの世界に行くことになった』

「爺さん!」

『仕方ない。これだけ強い渦の中だ。今からでは脱出もできんよ』


 サフィロ号はすでに渦の流れに乗っている。乗員が残っている敵飛空艇や、ファイアードラゴンの眷属たちが渦から逃げようとしているが、抵抗も虚しく中心へと飲み込まれていく。


「プラタナム、あの渦の流れを突っ切れるか?」

『外周付近ならば。ですが、すでにサフィロ号はかなり内側にあるため、あの辺りでは、入れば私でも抜け出せません』


 元々サフィロ号の比較的近くで渦が発生している。帰る気満々だっただろうリムからすれば、それほど遠くに渦を作る意味もない。


「くそっ」

『あー、ソウヤ。間違ってもこっちへ来ようとするなよ』


 ジンが注意するように言った。


『君はこの世界の勇者だからな。後をきちんと見届けないといけない』

「それを言ったら、あんたもこの世界じゃ、王様だろうが!」


 伝説のクレイマン王として、この世界では一大国家を築いた。日本人であり、銀の翼商会では彼のコネクションに大いに助けられた。


 そして魔王軍に対して、共に戦ったかけがえないのない友である。エイタたちは元の世界に帰るだけだが、ジンは違う……!


「あんたには、色々借りもあるし、お礼だってまだしてないんだ! ここでいきなりお別れなんて、納得できるかよ!」

『あぁー、何をそんなに感情を高ぶらせているんだ、ソウヤ?』


 ジンは困ったような声を出した。


『君の気持ちは友人として嬉しいがね、忘れていないかな? 私は異世界トラベラーなんだよ?』


 かつて、彼は自分がクレイマン王だと明かした時、放浪者だと言った。


『一度いた世界なら戻ってこれる。だから向こう側が安定したら、すぐに戻ってくる。何も、心配することはない』


 跳躍魔法によって、様々な異世界を渡り歩く、不老不死の男。彼が訪れた8番目の世界。そう、彼は異世界を超えることができるのだ。


「今生の別れじゃなくて安心した」


 本心から伝えるソウヤ。通信機の向こうの声が笑った。


『一期一会ともいうが、さすがにそちらの世界の顛末を知らずに去ったままというのは、枕を高くして寝ることができなくなりそうだからね』


 ジンは声の調子を変えた。


『こちらの渦でできるだけ敵も異世界へ飛ばすが、幾何かの眷属や魔族……何より浮遊城が残っている』


 渦に引き寄せられていく敵対勢力だが、浮遊城はその大きさのせいか、はたまた何らかの防御効果なのか、ほとんど動いている様子がない。


『これもある意味、想定のひとつだ。魔王との決着に手助けはできないが、頑張ってくれ』

「まあ、こっちは任せてくれ。大丈夫、何も問題はない」


 ソウヤは、快活に返した。自分で言ってみて、過去何度もそう言ってきたのを思い出す。


 ――勇者だもんな。


「それじゃ、爺さん。……また会おう」

『さらばだ、友よ。君とこの世界に幸運あれ』


 通信が切れた。他が渦に抗おうとしている中、サフィロ号は加速し、自らその中心へと突入していった。


 ――じゃあな、戦友。

書籍版、コミックス第1巻発売中!

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― 新着の感想 ―
[一言] ジンさんエイタ達、壮健であれ。
[気になる点] ジンさんが居なくてもクレイマンの島に行っても大丈夫な状態ですか? [一言] リム達だけでなくジンさんとも此処でお別れとは… 戦力の低下が大きいですね。
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