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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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第605話、ドラグゥ


 魔王軍魔術師キハンは、森の中の砦じみた建物にある門をくぐった。後ろからは、人類軍の兵たちが怒号と共に追いかけてくる。


「キハン様!」

「門を閉めよ! 時間を稼げ!」


 施設の兵たちが施設へ入るための門を閉め、さらに外壁上に弓やクロスボウを持った魔族兵が上がって、向かってきた人間の兵を攻撃する。


 荒ぶる息を静めつつ、キハンは施設の奥へと急ぐ。コルドマリンの騎士がやってきた。


「キハン様! 外はどうなっているのでありますか?」

「ここからでは見えんか? 人間どもがジーガル島を攻めてきたのだ。……波はここまでこなかったか?」

「波……ですか?」


 怪訝に首を傾げる青肌の魔族騎士に、キハンは少し眉をひそめた。


「来なかったわけだな。軍港は大波に飲み込まれて壊滅状態だ。そこへ狙いすましたように、人間どもがやってきた。軍港はもうおしまいだ!」


 この森の施設は、人類側も把握していなかっただろうが、ここに敵が来た以上、おそらく増援と、飛空艇が向かってくる。そうなれば、ここは長く保たない。


「我々もおしまいだが、黙って全滅されてやるつもりはない」

「何をなさるおつもりですか?」


 コルドマリンの騎士が尋ねる。キハンは、実に愚かな質問だと思った。


「知れたこと。培養していたドラグゥを放つ!」

「ドラグゥを……!?」


 騎士の青い肌がさらに濃く青ざめた。


「いや、しかし……あれはまだ、敵味方の判別すらできていない生物! 我々も無事では――」

「どうせ人間どもに殺されるのだ。構わん」


 施設の扉を開け放ったまま、キハンは奥へと進んでいく。


「死なば諸共だ……!」



  ・  ・  ・



 それは黒き獣だった。


 狼にも似た四足の動物だが、体毛がなく、つるんとした印象だ。額には一本の角があり、尻尾は鞭のように長く、非常にアンバランスだ。


 それが収容されていた扉が開かれた途端、次々と外へと飛び出した。まるで何かに導かれるように。


 まず襲われたのは、施設内にいた魔族兵だった。その魔獣の凶暴な爪が引き裂き、牙が急所を貫いた。


 臭いを嗅ぎ、聴覚で物音を逃さず、獲物として追い詰め、死を与えていく。施設を守っていた魔族兵は、後背から襲いかかってきた黒い魔獣の餌食となった。


 施設を攻めていたニーウ帝国兵たちも、中の異変に気づく。しかしどうする間もなく外壁から魔獣が降ってきて、攻撃してきた。


 それらは素早く密集していた兵たちに飛び込むと、手当たり次第に暴れ、周囲の被害を拡大させた。


 その爪は、一撃で鎧を切り裂き、肉をえぐった。牙は兵の手や足、首をかみ砕き、死を与える。


 さらに額の角からは光の魔弾を放ち、遠くから射殺を狙っていた弓兵たちを撃ち抜いた。


 魔獣の名はドラグゥ。


 対人類との戦いに備え、魔王軍が開発していた魔獣型兵器。地上戦で先陣を切り、敵を殲滅する凶暴なる魔獣。


 ただし、制御に問題があり、同種――つまりドラグゥ以外の生物は、すべて攻撃してしまうという欠点を抱えている。


 魔王軍は、この魔獣を制御できるように試行錯誤を重ねているが、いまだ解決策は見出されていない。


 それ故、現状は『使えない兵器』として保留されていたのだが、研究者であるキハンは、どうぜ全滅するのなら、敵味方が識別できなくとも関係ないと、この魔獣を地に放ったのである。


 人間に一矢報いるために。



  ・  ・  ・



 リッチー島傭兵同盟と銀の翼商会の面々が、捜索している一帯に、ソウヤたちは到着した。


 ここでの抵抗は微少であり、少数の魔族兵と遭遇しては、たちまち制圧していった。大波と空爆で満身創痍の敵が多かったが、それでも魔族兵は向かってきた。結果、返り討ちにあうわけだが。


『勇者ソウヤ』

「どうした、プラタナム?」


 通信機に聞こえたプラタナムの声。


『魔王軍の反撃のようです。ニーウ帝国軍の受け持ち地区に、未確認の魔獣が多数襲来しています』

「未確認?」

『これまで確認されたことのない四足歩行の魔獣です。額の角から電撃か光線の類いを放ち攻撃します』

「なんだそりゃ……?」


 角からビーム、もとい魔法を撃つ魔獣とは。


「プラタナム、状況を教えてくれ」


 上空にいるプラタナム号からなら、地上の様子はよく見えるだろう。


『現在、帝国軍の受け持ち地区を驀進しつつ、軍港敷地内に広がりつつあります。魔獣の襲撃を本営に報告しようと伝令が走り出しましたが、追いつかれてやられました』

「実況をどうも」


 こういう時に、通信機を使わないとな――各国に通信機を渡しているものの、上級指揮官たちの分しかないため、まだ末端は伝令がメインである。


「あー、攻略部隊本営、聞こえるか? こちらソウヤだ」

『――こちら本営です。勇者殿、どうされましたか?』


 知らない声だが、おそらく本営にいる通信機の担当兵だろう。ソウヤは続けた。


「上にいる飛空艇からの報告だが、帝国の受け持ち地区に未確認の敵魔獣が現れ、目下苦戦しているようだ。魔獣は他地区へも展開しつつあるらしい。各グループは警戒。オレも魔獣の迎撃に行く」


 ここに来て、新たな脅威が出現。簡単には終わらせてくれないらしい。ソウヤは、ぼやきたいのを抑え、仲間たちと移動を開始した。

書籍版第1巻発売中!

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔族は禁じ手を使ってきましたね。 個人的に自棄になった魔族が神風特攻隊化や自爆装置の発動等予想してましたので…
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