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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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第54話、魔族はやっつけたけど……


 魔王軍魔術師ピレトーは、戦況を変えられたことに驚愕した。


 始めは数の差で圧倒しているように見えた。しかし追い詰めたと思い始めた時に新たに現れた援軍が、すべてをひっくり返した。


「な、なんだ、あの強さは!?」


 とても人間のものとは思えない力で、魔族兵をなぎ倒していく手練れの男女。巨人族の振り回したハンマーで、人間の兵士が吹き飛ばされる光景を見たことがあるピレトーだったが、これはまるで逆だった。


「おのれ……おのれっ!」


 ピレトーは魔力を杖に収束させる。


「紅蓮の炎に抱かれて滅せよ!」


 ドラゴンの息吹を思わすオレンジ色の炎の塊が杖から飛び出し、それが放たれた。


 狙われたのはミストだった。周りの魔族兵を巻き込む炎はしかし、ミストの近くでフッと掻き消えた。


「なんだと!?」

「温い炎ね」


 ミストの視線が魔術師ピレトーへと向く。魔術師は気づけなかった。炎の塊が、彼女の軽いひと吹きで吹き消されてしまったことに。


「ワタシを狙った罪は重いわよ!」


 次の瞬間、ミストはその手の竜爪の槍を投擲した。あまりのスピードに、ピレトーが瞬きの間に槍が体を貫き、壁面まで吹き飛ばされた。


「バカ、ナ……」


 ダンジョンスタンピードが、魔王様の復活が――魔術師は、あっけなくその命を失った。


 指揮官が倒れたことで、残りの魔族兵の動揺が大きくなった。冒険者たちは一気呵成となり、魔族を撃退していく。


 しかし、事態はこれで収まらなかった。


 ダンジョンモンスターの一定数以上の増殖による、スタンピードの発生が、すぐそこまで迫っていたからである。



  ・  ・  ・



「モンスターの大群?」


 ソウヤは、カエデの言葉に思わず聞き返した。


 ダンジョンの奥から、大量のモンスターが移動しつつある、というのが、カエデの報告だった。


 戦闘のどさくさに紛れて、敵に後続戦力がないか偵察したら、見つけたという話だったが、おそらくミストが言っていたシェイプシフターが発見したのだろう。


 それはともかく、モンスターの大群というのは看過できない事態だ。


「魔族は、スタンピードを起こすつもりだったのか……!」


 連中がダンジョンでコソコソしていたのは、モンスターを外部から増やして環境を狂わしていたのだろう。


 そして人工的なダンジョンスタンピードを発生させようとしたのだ。


 話を聞いていたミストが口を開いた。


「どうする、ソウヤ?」

「放置とはいかんだろうなぁ」


 ソウヤは、視線を後ろ――魔族兵を倒し、休んでいる調査隊を見やる。


 セイジが忙しく、ポーションを配っているが、安静が必要な怪我人が複数いた。まだ僧侶に回復魔法をかけてもらっている者はいいが、魔族兵との衝突で戦力はほぼ半減している。……戦死者も数人出ていた。


「スタンピードが起きれば、大惨事だからな。ダンジョンだけにモンスターを押し留められればいいが、迎え撃つ者にも相応の犠牲が出るだろう」


 最悪、エイブルの町にも被害が及ぶ。


 ――こっそり、オレたちだけでやっちまうか?


 一瞬、そんなことを考えるソウヤ。


「カエデ、敵のおおよその数ってわかる?」

「……数百はいるかと」


 神妙な面持ちで、シノビの少女は答えた。


「もしかしたら千を超えるかもしれません……」


 ――あー、無理だ。ヘタに自分たちだけで何とかしようとしたら潰れるやつだ。


 ソウヤは早々に、最初の考えを捨てた。多勢に無勢だ。エイブルの町の冒険者たちの力も結集して、事に当たるべきである。


 その上で、こちらが予めモンスターに打撃を与えて、数を減らしておこう。


「カエデ、ギルド長にダンジョンスタンピードが起こりつつあることを報告してくれ」

「ソウヤさんたちは?」

「とりあえず、先行する敵の足止めと削りをやろうと思う。……もう連中、動きだしているんだろう?」

「はい。ですが、危険ではありませんか?」

「間違っても安全じゃないわな。けど、負傷者を抱えた調査隊が撤退するには、時間稼ぎが必要だろう」

「……確かに」


 カエデはコクリと頷いた。


「あの、聞いても?」

「何だ?」

「モンスターの大群……ソウヤさんは直接見ていないのですが、信じてくれるのですか?」


 ――あ? 何を言っているんだ?


「信じるも何も、敵情偵察は、シノビの本分じゃないのか? それとも嘘なのか?」

「嘘は言っていません! でも……その、こうもあっさり私の報告で、行動を決めていたので」

「信用しているってことさ」


 少なくとも、ギルド長は、彼女を信じて送り出しているはずである。確かに、ソウヤは自分の目でモンスターの大群が移動しているところをまだ見ていないが、彼女がシェイプシフターを使って独自に偵察をしていたことは、ミストを通じて知っている。


 むしろ、何故ここで信じる信じないの話が出たのか、ソウヤにはさっぱりだった。が、長話している場合でもない。


「じゃ、連絡をよろしく。……ドレイクのおっさん! 負傷者を連れて町まで撤退してくれ。モンスターの大群だ! スタンピードが起こるぞ!」

「何だと!? 確かなのかッ?」


 ――あ、これが自然な反応なのか。


 ソウヤは思ったが口には出さなかった。


「早く外に出て、態勢を整えないとモンスターに飲まれるぞ!」

「お、おう! お前ら、撤退準備だ! ――ソウヤ! お前は?」

殿軍(しんがり)をやる!」


 マジかよ!?――という冒険者の声が聞こえたが、ソウヤはさっさと奥へと足を向ける。ミストが当然の如く、ついてきて、セイジもまた駆けてくる。


「ソウヤさん! 僕も行きます!」

「……心意気は買うがな、セイジ。お前は調査隊の撤退を援護してくれ」


 ソウヤは、彼の同行を認めなかった。


 よりはっきり言えば、足手まといだから、ついてきても守ってやれない。


「ですけど!」

「モンスターを自力で倒せる実力がない奴がきて、いったい何ができる?」


 冷たいようだが、命が懸かっている。先の魔族との戦いは、他に冒険者がいて、武器が使えずとも役割があったが、今回はできることはほとんどないのだ。


「! ……っ」


 悔しげに唇を噛み締めるセイジ。自分の能力のなさは彼自身よくわかっている。


「今回は相手が悪過ぎる。オレはお前を死なせたくない」

「でも……!」


 それでも、と、何かがセイジを突き動かしているようにソウヤは感じた。白銀の翼の一員だから? 仲間が危険に挑むのに、自分だけ置いていかれるのが嫌なのか。


「この件が片付いたら、いくらでも特訓してやる。今は耐えろ。お前の未来のために」

「……っ」


 強くなれ――ソウヤは、ミストと共にダンジョンの奥へと駆けた。後ろは振り返らなかった。

どんな時でも、危険な方向に身を投じなければいけないのが勇者という職業のつらいところ。

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