第40話、エイブルの町の危機?
丸焼き亭に、今週分の魔物肉を卸した。ソウヤの元にやってきたアニータ店長は「これで今週もモンスター肉で戦えるわね」と機嫌がよかった。
「モンスター肉目当てで来てくれるお客に、それが出せないのは店としても辛いからね」
おネエさん店長の言葉に、ソウヤは同意した。こっちも顧客にガッカリされるのは面白くない。
「ご苦労様、ソウヤ君。……ところで、冒険者ギルド、大変そうね」
「そうなんですか?」
「あら、知らないの?」
何かあったようだ。
「昨日まで町の外だったので、まだギルドに顔を出していないんですよ」
「そう。何でもダンジョン内で、ちょっとモンスターが増えてるとかどうとかって、うちのお客さんが言っていたわ。……ここだけの話」
そう言ってアニータが顔を近づける。――おネエさん、近い!
「スタンピードの兆候かもって……」
「ダンジョンスタンピードですか」
ダンジョン内のモンスターが増えすぎると発生する現象だ。増えたモンスターたちは外に出て、別の場所へ移動するが通り道にある町や村、集落などを破壊していく。イナゴの大発生よろしく、連中の通った道は破壊と殺戮しかない。
ひとたび発生したら、地元領主、冒険者、果ては国まで動かして鎮圧にあたるほどの大災害となることもある。
これはさすがに無関心とはいかない。ソウヤの中の勇者魂、というかお節介精神が働く。
「ちょっとギルドの様子を見てきます」
もちろん、ここでの取引その他すべてを終わらせてからで。
・ ・ ・
冒険者ギルドへ行く道すがら、ソウヤはミストとセイジに、エイブルの町のダンジョンに何やら異変が起きているらしいと伝えた。
もちろん、事実確認はこれからで、まだ何もわかっていない。
「ダンジョンスタンピード……」
セイジは、そわそわと落ち着かない。
「子供の頃に一度。町にゴブリンやオークが溢れて……とても怖かった記憶があります」
大勢の死者が出て、セイジのいた孤児院でも何人も犠牲者が出たという。
「スタンピードねぇ……」
一方のミストは何やら機嫌がよさそうだった。
「何度か傍観したことはあるけれど、当事者として当たったことはないわねぇ。でもそうね、暴れてもいいってことよね、ソウヤ?」
「町を壊すのは勘弁な」
「失礼ね! モンスターを殺戮しまくることのほうよ」
こういうミストの発言を聞くと、彼女はかなりの戦闘狂ではないかとソウヤは思う。
冒険者ギルドの建物が見えた時、ミストが唇の端を吊り上げた。
「あぁ、感じるわ。ピリピリした雰囲気。これは何かあるわね」
出てくる冒険者なり、近くの人々の表情が硬いのはソウヤにもわかった。
ギルドに入ると、ふだんは何も置いていないフロア中心にテーブルが出され、冒険者たちが取り囲んでいた。
何らかのミーティングか、はたまた作戦会議の雰囲気だ。ソウヤはその輪にしれっと近づく。
「蛇頭のドラゴンだ! 間違いねえよ!」
「ドラゴンっ……!」
ざわざわと、冒険者たちに動揺が走る。見るからに屈強な冒険者が、腕を組んで言った。
「それで、そのドラゴンがダンジョンの一階と二階の間の道を塞いでいると?」
「そうです、ギルド長!」
髭面の冒険者が大きく頷いた。先ほどドラゴンがどうこう言っていた人物のようだ。
「あんなところに出るような奴じゃありませんよ! 馬鹿デカい図体で、低級のドラゴンじゃない! そのせいで、奥にいた冒険者たちは帰ることができずに足止めを食ってまさぁ!」
ドラゴンが――
退治しないと――
だが相手が中級以上のドラゴンだと、竜殺しでも呼ばないと――
冒険者たちのざわめきが収まらない。ギルド長と呼ばれた屈強な男――見た目、三十代後半から四十代くらいの戦士風の人物が眉間に溝を作る。
「現状の戦力では厳しいな。王都から援軍を呼ばねばなるまい。それまで中の連中が無事だといいのだが……」
歴戦の戦士を思わせる風格があった。彼が言葉を発したためか、周囲のざわめきも半分程度に減る。
「早まった行動を取らなければいいんですが……」
「だが王都からの救援って言っても、早くても数日はかかりますよね? 中の連中が、それに耐えられるでしょうか?」
「食料や水が尽きるか?」
「非常食は携帯しているだろう。……携帯しているよな?」
「他にもモンスターがいるだろう? 長引くようなら、いっそ――」
場が重々しい。悲観的な見方が支配的になっているようだった。ソウヤは、聞いた話を頭の中で整理する。
ダンジョンの浅いところで、自然界で最強クラスであるドラゴンが居座り、中の冒険者が孤立してしまっている、ということだ。
相手がドラゴンだと、生半可な戦力では太刀打ちできず、応援が必要。しかしそれを待っていては、中にいる冒険者たちが衰弱し、ダンジョンにいる他のモンスターなどの餌食になってしまう恐れがある、と。
――……ここは、オレたちの出番かな。
そう結論づけたソウヤは、停滞する周囲をよそに、そっと手を上げた。
「あのぅ、ギルド長――」
「ん? 誰だ、お前は?」
直接会うのは初めてだから、ギルド長も俺の顔を知らなかった。
「白銀の翼リーダーのソウヤです。どうも、はじめまして。ここにはつい最近きた者です」
「……あぁ、お前が、ソウヤか。変わった冒険者がいると聞いていたが、お前か。エイブルの町冒険者ギルドのギルドマスター、ガルモーニだ。よろしく」
「こちらこそ」
噂になってる?――ギルド長の言葉に内心首をかしげつつ、ソウヤは続けた。
「オレら冒険者なんですが、同時に銀の翼商会って行商でもあるんです」
「それも聞いている。ずいぶん美味い肉とスープを売っているらしいな。機会があったらご馳走してくれ」
――こっちで取引した冒険者が噂の発生源だな、こりゃ。
何となく察するソウヤである。数日、エイブルの町を離れた間に、ギルド長の耳に入る程度には話題になっていたようだ。
――ま、知っているなら話は早い。
「孤立している冒険者がいるって話ですが、オレたちが行って、食料や補給物資を届けてきましょうか?」




