第399話、心臓と尋問
ジンに心臓を握られた魔族の魔術師カイダは、ナールの心臓を元の体に戻してやった。
心臓が戻り、肌の色がよくなるナール。
「やった! やった! 心臓が戻った! 神様――」
ナールはその場でここにいない神にひざまずいた。それだけ感謝感激をしているのだろう。
しかし見守っている魔術師たちは、ジンとその心臓抜き出しの魔術に釘付けだった。
「すげぇ。あんな魔法があるのか……!」
「さすが師匠だ……」
感心する外野をよそに、ジンは言った。
「ナール君。悪いが椅子を持ってきてくれないか?」
「はい、ただいまー!」
すぐに立ち上がった料理番だった男は、近くの粗末な椅子を取ってきた。
「そこに置いてくれ」
「どうぞ」
「ありがとう」
ジンは腰を下ろした。相変わらず、右手にはカイダの心臓がある。
「それでは、あまり時間がないが、我々も魔族の情報を求めている」
「……」
「……」
「ぐぐっ、わかった! わかったから、爪を立てないで!」
握られた痛みにカイダは表情を歪めた。
「屈辱だわ。見世物にしてぇー!」
「君もナール君や盗賊たちの心臓を抜いた時、弟子や他の魔族兵の前でやったんだろう? おあいこだよ」
ジンはまったく悪びれなかった。心臓を目の前で抜かれる恐怖にさらされたナールたちが何も感じていなかったわけがない。
「まずは魔王軍が何をしようとしているのか。目的を教えてくれ」
「……魔王様の復活」
小さな声だったが、それは周りを驚かせるには充分な大きさだった。
「十年前、勇者に倒され、冥界に落ちた魔王様の魂を現世に取り戻す」
「そのためには生け贄――魂が必要だったな?」
「そうだ。人間の魂は莫大な魔力を含んでいる。その力をつぎ込むことで、魔王様を召喚するのだ! そうなれば人類なぞ――イタタタタ」
老魔術師が無表情のまま心臓を握ったので、カイダが痛がる。
「復活できそうかね?」
「そうだ。さほど遠くないうちに、我らの王である偉大なる魔王様がお戻りになられるのだ! ひれ――だから痛いってば!」
カイダは声を荒げた。ジンは目を細める。
「そうかそうか。魔王の復活は近いか。では次の質問だ。魔王が復活したら、魔王軍はどう行動する?」
「決まっているわ! 人間どもを駆逐し、この世界を魔族が支配する世界とするのよ!」
「ふむ、つまり十年前と同じということかな」
ジンがチラと部屋の角にいるソウヤを見た。報告書を書きながら、遠巻きに話を聞いていたソウヤは首を横に振った。
「具体的にはどう攻撃する? 潜伏しているアジト近くの人間の集落や拠点を奇襲し、そのあとその国の中枢へと進撃するとか?」
「そんなことをあたしが喋るとでも……アイタタタ! い、今は潜伏拠点近くの治安を乱すなり、人間の戦力を削りつつ、攻勢の時を待っている……! イタタ」
心臓を握られるのは相当痛いようだった。ジンは尋問を続ける。
「まだ攻撃計画自体は、末端まで伝えられていないということかな?」
「そうだよ! あたしゃ教えないんじゃなくて、知らないの!」
カイダが投げやりに言えば、聞いていたイリクが口を開いた。
「本当ですかな? ジン殿、この魔族が嘘を言っている可能性は?」
「たぶん、本格的な攻撃計画を知らないというのは本当だろう」
「そうなのですか?」
「防諜上の理由だ。あまり早い段階で攻撃計画を末端まで配布してしまうと、今のように人間側に察知されてしまう恐れがあるからね」
ジンはそう指摘した。
「治安の悪化や人間戦力を削っている段階というのは、ここでの連中の動きがまさにそれだ。魔王軍は魔王を復活させてから反撃に出るつもりだから、当面は地方での小規模攻撃に留まるだろう」
「魔王の復活ですか……」
イリクの言葉に周囲がざわめく。十年前の世界を巻き込んだ災厄が再び訪れるのか、と不安がよぎる。
「冥界とやらに、魔王の魂はあるのかなぁ……?」
ソウヤがポツリと呟いた。
「なに? どういう意味だ!?」
カイダがピクリと反応してソウヤを見た。ジンは顎髭を撫でながら考え込んでいる。
「確かに。召喚元が正しくなければ召喚は成功しないからね」
「!?!?」
「冥界に魔王の魂がなければ、いくら召喚しても呼び出せないんじゃないかな」
「!?」
困惑するカイダ。
「さっきから何を言っている――アタタタ、すみません! 黙ります!」
ジンは思考しながら無意識に手を握っていたようで、カイダは口を閉じた。
「そのあたりは追々考えるとして、魔術師。知っている限りのアジトの場所を教えてもらおうか」
・ ・ ・
心臓文字通り握られているカイダから、魔王軍の残党の拠点の場所を聞き出した。複数の場所が上がったが、本拠地については――
『移動する亀。地中や海を移動する巨大な移動要塞さね。常に移動しているから、こればっかりはあたしにも正確な場所はわからんよ』
と、カイダは証言した。
ひと通りの尋問の後、カイダを投獄。弟子らしいマーロと一緒にしたら、喋る喋る。互いの無事を確認した後、これまでどうだったかと話となり――
『え? バラしちゃったんですか、拠点の場所?』
『仕方ないさね。あいつらは悪魔だよ。壮絶なる拷問を受けて、喋るしかなかったのさ』
『その割には、怪我ひとつないようですが?』
『あんたも心臓を盗られてニギニギされてみなさいよ! 生きた心地がしなかったわ!』
『心臓を!? まさか!』
『あんたも気をつけることだね。あれは恐ろしいよ……』
『自分もやってたじゃないですか……。因果応報ってやつじゃないですか……』
以上、牢屋内の師匠と弟子の会話の抜粋。
尋問におけるカイダの証言は、だいたいのところ正確だったようだ。不安から解放され、身内と再会できたことで警戒心がすっかり消えてしまっている。
ソウヤはジンやミスト、イリクらと顔を見合わせ、ついで証言にあった魔王軍の拠点の場所の書かれたリストを眺める。
「とりあえず、これを順番に回っていくか」
もちろん、カマルへの報告も忘れない。
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