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【書籍化】魔王を討伐した豪腕勇者、商人に転職す -アイテムボックスで行商はじめました-  作者: 柊遊馬


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第380話、銀の翼商会としての第一日目


 聖女がいる。聖騎士がいる。グレースランドの姫がいる。


 おまけに人化したドラゴンまでがいる銀の翼商会。


 古参メンバーを紹介された新人たちは、驚きの連続だった。


 無理もない。


 死んだはずの勇者がいる時点で、これ以上驚くことなどないと思っていたところに、これである。


 さらにかつての魔王討伐メンバーや、知る人ぞ知る暗殺集団カリュプスの構成員たちもいるとあっては、開いた口がふさがらない。


『これだけで国の精鋭騎士団を軽く凌駕してないか!?』


 これに六色の魔術師ソフィア、ティーガーマスケことセイジまでいる。


 再び魔王が現れても倒しにいける最精鋭。二代目勇者パーティー。……などなど、個々の戦闘力が強力過ぎる面々が揃っている。


 勇者とドラゴンがタッグを組んでいるという時点で、この世界の誰が相手できるというのか?


 これが、対魔王軍の切り札だ、と言われても納得がいく陣容と言える。同時に『魔族との戦いが近い』というのが現実味を帯びてきた。


 そんな気持ちの熱いうちに、さっそく新人たちはそれぞれの訓練に移った。


 ジンやミストからは魔法を。


 セイジからは魔法カードを使った戦闘術を。なお、そちらはカリュプス勢やカーシュら騎士も加わり、それぞれの戦闘術を教えた。


 そしてソウヤは――


「はい、調理担当は、さっそく料理作りだ!」


 戦いがあろうがなかろうが、人はお腹をすかせるものである。


 商人系グループ採用者であるロイとシェーラは、銀の翼商会が使うキッチンを見やり、目を丸くした。


「こんな調理器具は初めて見る……!」

「火がつく……魔道具なのですか!?」


 コンロとか水道とか、魔石を用いた魔道具を使っているから、世間一般のキッチンとは作りが異なっている。


「これが便利なんだよ」


 最初は戸惑うのは仕方がない。だからソウヤが道具の使い方を教える。


 ロイとシェーラは共に23歳。ここに来る前は、ロイが冒険者ギルドでの料理スタッフ。シェーラが王都にある宿屋で料理を担当していたそうだ。


「ソウヤ様が料理をなさるんですか!?」


 ロイは仰天した。まさか勇者自身が作るとは思っていなかったからだ。


「ここじゃ、オレが作ることが多い」


 セイジも料理ができるが、残りはヘルパー程度。だから料理のできる人間を採用したのだ。


「冒険者たちが銀の翼商会の串焼きの話しているのは聞いていましたが……」


 ロイは頭を掻いた。


「まさか、ソウヤ様が作っていらっしゃったとは」

「魔法大会での串焼き肉も、ソウヤ様が?」


 シェーラが目を輝かせた。


「私、会場で食べました。とても美味しかったです!」

「ありがとう。あの日は前日からひとりで仕込んでいたから大変だったんだ……」


 昼前には完売してしまったが。


「そうかあ、美味しかったか。それはよかった」


 苦労が報われた。


 ふたりは、銀の翼商会の新しい味つけの料理に関心を持って入ってきた口であるが――


「ちょっとうちの団は、魔王軍残党絡みで戦うことも増えるだろうが、食事はどんな状況でも必要になる。危険もあるだろうが、極力、君たちには仕事ができるように守っていくつもりなんで、頑張ってほしい」

「「はい!」」


 ロイとシェーラは元気よく頷いた。



  ・  ・  ・



 魔法空間と呼ぶことになったアイテムボックス内。銀の翼商会に入った面々のために寝泊まりできる家――寮が作られ、それぞれに割り当てられた。


 相変わらずの四角い箱の積み重ねではある。バロールの町で焼け出されたグラスニカ家の実家の面々に仮の家として作った経験もあって、手際よく完成した。


 携帯可能部屋! テントのように使うこともできるかもしれない。


 その場合、モンスターのいる野外でどこまで耐久性を発揮できるか、など検討しないといけないことも多いだろうが。


「普通に部屋だ」

「しかも個室!」


 新人たちがどういうのを想像したかは知らないが、簡素ながら部屋までもらえて喜んでいた。


 特に女性陣がテンションが高かった。大部屋で雑魚寝とか想像したのだろうか?


 プライベートな空間は必要だろうと思うソウヤである。


 ライヤーは笑った。


「まあ、何も知らねえ奴らが、うちに来たら飛空艇で寝泊まりするんじゃね、って思うのが普通だろうなぁ」


 アイテムボックス内に家を作って過ごしていたから気にしなくなっていたが、確かに行商といえば野宿が普通。商人のキャラバンだって町の外なら野営である。


「しかも人数が増えて、自分たちの寝床があるか心配してた奴もいただろうぜ」

「……それでも、うちに志願してきた」

「それだけソフィアやセイジの弟子になりたいってこったろうよ。憧れの存在から教えてもらえるなら、たとえ火の中水の中ってな」


 ライヤーは皮肉っぽく口の端を吊り上げた。


「そう思っていざ入ったら、それぞれに部屋を用意してもらえたんだもんな。そりゃ予想外過ぎて大喜びってやつよ」

「まあ、想像していたより待遇よけりゃ、そりゃ気分がいいわな」


 その後、食事となって、ここでも新人たちは嬉しい悲鳴をあげることになる。


 ソウヤ主体でロイとシェーラが作ったお食事は、銀の翼商会としてはベーシックなものであるが、初めて体験するものが大半ということで、その料理に驚いていた。


「うっまぁー! なんだこれ、城の料理でもこんなの出てこないぞ!」

「うむ、美味」

「これアレでしょ? ショーユってやつ!」

「というか、陸地なのになんで普通に魚料理があるんだ?」


 城から来た魔術師も、魔法大会に出場した魔術師も、ガツガツと料理をとる。


 これは作った料理人も鼻が高いかと思ってソウヤが見たら、ロイとシェーラも夢中で食べていた。


 こうして初日が経過したが、離職希望者は出なかった。


 これから本格始動とはいえ、初日で辞める人間が珍しくないという世の中を知っているソウヤとしては、まずは一安心といったところだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 料理担当で合格したメンバーは3年後には自分の店を持っているのかな
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