第356話、休憩の過ごし方
3回戦の後、2時間の大休憩が入った。昼を過ぎて、ランチタイムといったところである。
「ボス、かき入れ時ですが、全品売り切れました」
オダシューがソウヤに報告した。
会場の売り子部隊こと、カリュプスメンバーは、大会中に串焼きと水を販売して回ったが、お昼前に全弾を撃ち尽くしたのである。
「昨日あれだけ準備したのに……」
ソウヤは頭を抱えた。アイテムボックスの時間経過無視空間なら、数百、いや四桁超える数字の食べ物だって保存できる。
だからガンガン作ったのだが……。
「正直、作りすぎたと思ってたんだがな」
闘技場が万を超える大観衆が詰めかけていた。全員が全員買うわけではないが、数で比べればソウヤが用意した量など、全然足りないと言える。
「好評だったのは間違いないですな」
オダシューは言った。
「ショーユタレを使った肉料理ですから、売れないわけがない」
「……」
「どうしやす、ボス?」
「どうもこうもない」
ソウヤは手を叩いた。
「オレら銀の翼商会はここで店じまいだ。売り子メンバーには休息と自由時間を与える。ご苦労さんでした!」
「いいんですかい? まだまだ売れそうですが」
「お前はオレにこれから作れというのか?」
ソウヤは苦笑した。
昨日、しこたま料理を作りまくり、さすがに疲れたから、今日は売り子はしなかった。
――頑張ったんだよ。体力には自信があったが、そんなオレでもへばるくらいにな!
「モノがねえんだ、しょうがない」
「……ですな」
オダシューは頷いた。ソウヤは皮肉っぽく言う。
「完売っていうなら、売り上げは充分出たってことだ。想定分は売れているんだから、今日はこれでよしとしておこう」
いまさらジタバタしても遅いのだ。
「わかりました。皆にも伝えてきます」
「うん。……あー、オダシュー」
「何ですか、ボス?」
「お前も午後は楽しめ」
「了解です」
ニヤリと笑い、オダシューは離れた。ソウヤは、アイテムボックスから昼食に用意したサンドイッチを取り出す。
「爺さん」
「ありがとう」
隣にいたジンに、ランチを渡す。周囲の席は空席が目立つ。観客たちもお昼をとる時間だ。おそらく会場近くの屋台などは修羅場となっているだろう。
「何やってたんだ?」
「魔力念話だ。セイジはうまく着替えて、こちらに合流できそうだ」
「もう有名人だもんな、ティーガーマスケは」
魔術師はもちろん、観客からも注目されていることだろう。迂闊に外を出歩いたら、ファンなどに囲まれてしまうのではないか。
「ソフィアのほうは? あっちも色々な連中が寄ってきそうだが……」
「ああ、魔術師はもちろん、来賓である有力者たちやその使いが詰めかけているそうだ」
「うわ、ミストがキレそう。……助けがいるか?」
「念話で話した限りでは、イリク氏のもとに避難したらしい」
「親父さんのところか」
宮廷魔術師であるイリク・グラスニカ。ソフィアの父親である。
「それで収まりそうか?」
「ちなみに、イリク氏は、国王陛下のおそばにいるそうだ」
「……おぅ。それは……まあ」
アルガンテ王陛下とお食事会に流れ込んでそうな雰囲気。何せソフィアは、今大会で六色の魔術師となった。王族も、機会があれば話したいと思っている人間の筆頭だろう。
「まあ、王様と会食なら、他の詰めかけ連中は引き下がるしかないわな」
ソウヤは闘技場の一角、王族たちの観覧席のあるボックスを見やる。人の姿が見えないから、奥で休んでいるか昼食だろう。
「ソウヤー!」
バタバタと少年――フォルスがやってきた。付き添いの影竜のそばには、見慣れない女の子がひとり。
おそらくヴィテスだろう。彼女も人化の術を使えるようになったようだ。
人懐っこいフォルスと違い、人とあまり接触しないヴィテスだから、ソウヤもあまり交流がなかった。
さらにクラウドドラゴンとアクアドラゴンのコンビもやってくる。もちろん、二人とも人間の姿だ。
「ドラゴンご一行様のご到着ってか? どうしたんだ、こんなところに?」
「昼食を要求しにきた」
クラウドドラゴンが淡々といえば、水色髪のツインテ少女アクアドラゴンがお気楽な顔で腕をぶんまわした。
「肉をよこせー!」
「集りかよ」
周りに人がいないのをいいことに、ソウヤとジンは、ドラゴンたちとランチタイム。
肉入りサンドイッチを食べて、アクアドラゴンが「美味ー!」などと子供のように言えば、フォルスも真似して「びみー!」とやっていた。
子供は何でも真似したがるものなのだ。
と思っていたが、ヴィテスは淡々と食事を進めている。あまりに表情が動かないので、一瞬、クラウドドラゴンの真似をしているんじゃないかと思った。
「大会はどうだ? 面白いか?」
「なんか、バチバチやっててー、楽しい」
フォルスは素直だ。アクアドラゴンは口を開いた。
「ソフィアとやらの魔法は派手でいいな。でもトラ男は、なんか地味でつまらん」
つまらん、などと酷い言いようだ。ソウヤが苦笑すれば、クラウドドラゴンが言った。
「お子様だな。あのシンプルな強さがわからないとは」
「なんだとー!?」
アクアドラゴンが顔を歪めるのをよそに、影竜はクラウドドラゴンに同調した。
「決める時は一撃で。我が子たちにも、ああいう戦い方を身につけてほしい」
「セイジをみならえば、いいのー?」
フォルスが無邪気に聞いた。一方のヴィテスは母である影竜の言葉に、コクコクと頷いていた。
「遅くなりました」
そこへ噂のティーガーマスケの中身、セイジがやってくる。虎マスクを装備をしていないので、誰にも気づかれていない。
「よう、お疲れー。ベスト8進出おめでとう」
「おめでとー」
フォルスが言えば、フッとセイジが顔を綻ばせた。
「ありがとうございます」
「おかーさんがね、セイジをみならえって言ってたんだよ」
「あー、そうなの、うん……」
小さな子供の言うことなので、セイジもそれ向けの表情になる。コホン、と老魔術師が咳払いした。
「さて、お食事タイムではあるが、次の対戦相手の傾向と対策、やるかね?」
「お願いします、ジン師匠」
基本、こいつら真面目なんだよなぁ――ソウヤは準備してきたサンドイッチをセイジに渡した。
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