第342話、いつものようにやるだけ
結局のところ、今回は銀の翼商会は移動売店をやるということが決まった。
「それはつまり……?」
エルフの治癒魔術師が首をひねったので、ソウヤは答えた。
「いつものように、串焼きと水を売る」
軽食をつまんで、酒ではなく、飲料水を提供する。移動の道中で、旅人や商人たちにやるいつもの仕事だ。
「ただ、露店を開く場所は今の時点で埋まっているから、会場の中で、売り子をやる感じ」
会場は闘技場であり、その客席を周る格好である。王都商業ギルドから許可証をもらったので問題ない。
「今の時点で埋まっている、とは?」
ダルが聞いてきたので、ソウヤは微笑した。
「場所を予約した商人や露天商が、何らかの理由でキャンセルしたり、撤収する可能性があるんだとさ」
カドル商業ギルドマスター曰く、予約は埋まっているが実際に、そこに商人が来ない場合があるという。
急用、事故、取り扱う商品のトラブルなどなど。あるいは売り切れて、店を畳む場合もあるらしい。
「なるほど」
「ということだから、場所が空いたら露店を開いてもいいそうだ」
商業ギルドのほうで、お知らせしてくれるそうだ。
ダルは頷いた。
「そうですか。頑張ってください」
「手伝ってくれないのか?」
「私は、ほら、セイジ君の応援ですから」
エルフの治癒魔術師は苦笑した。
確かに、参加するセイジとソフィアには応援とサポートが必要だ。ソウヤは了承した。
「そうだな。全員でやるようなものじゃないし、そっちのサポートは任せる」
「任されました」
本当は大会を見たいだけじゃないか、と思ったが、それについては突っ込まなかった。
――そのかわり、ちゃんとサポートしてやれよ!
さて、大会での行動について、他の面々にも確認しておく。
ダルではないが、参加する二人のサポート要員と、そうでない者を知っておかないといけない。
「まず、ソフィアとセイジ」
「参加者ですからね」
「で、お前と、ミストと爺さんがサポートだろ?」
「リアハさんを忘れてますよ。彼女はソフィアさんにつくみたいです」
リアハとソフィアは仲良しである。そう考えるなら当然か。
「他に何か予定がある奴は?」
「ライヤーとフィーアは、たぶん飛空艇のメンテでしょう」
「あの二人は、まあ、そうだろうな……」
「ガルやオダシューたち、カリュプスメンバーは、ソウヤさんの作業を手伝ってくれると思いますよ」
ダルは指折り数えた。
「後は、カーシュ、メリンダ、コレルの討伐組ですか」
「……そういや、コレルはまだ落ち込んでるのか?」
勇者時代の仲間であり、猛獣使いだったコレル。しかし十年前の戦いで、相棒であるモンスターを失い、復活した今でも失意の底に沈んでいる。
「彼は、もう駄目かもしれません」
ダルは残念そうに首を振った。
「心が壊れてしまったかもしれない。……治癒魔法では体は治せても、心まではどうにもなりませんから」
「……そうか」
どうしたものか。専門家でさえこれなのだから、素人であるソウヤには手の打ちようがない。
「そういえば、メリンダは、最近姿を見かけるようになった」
「ええ、ようやく吹っ切れてきれたのでしょう。剣のトレーニングを始めたり、リハビリに励んでますよ」
「それは何よりだ」
前向きになってくれて、ソウヤとしてもうれしかった。
「手伝ってくれるかな?」
「おそらく」
ダルはしかし首をひねった。
「まあ、向き不向きはあります。彼女の場合は、ベテランの騎士ですから。少なくとも商売向きではないかと」
「そうだった」
銀の翼商会なんてやっていて、つい忘れそうになる。この世界で騎士に商売の真似事をさせるのは、あまり褒められた行為とはいえない。
普通の騎士なら、ブチキレられても文句が言えないレベルである。
「カーシュが積極的に手伝ってくれるから忘れそうになるけど、あいつも聖騎士なんだよな」
周りから見たら、ガチで怒られるほど不敬かもしれない。
「でもそれを言ったら、ここで商売しても何も思われないような人なんて、いないと思いますよ」
ダルは苦笑した。
勇者、聖女、騎士、魔術師、暗殺者……。――確かに。
「後は、ドラゴンたちか。……まあ、彼女たちは何かしてもらうつもりはないし、むしろ何もしないでくれると助かる」
人化できるとはいえ、人間を下に見ているドラゴン種である。魔法大会のような人の集まる場所に来られて、ひと悶着起きたら、それこそ目も当てられない。
「影竜さんは問題ないでしょうが、フォルス君とクラウドドラゴンの行動が読めません」
「話したら最後、観たいと言い出しそうだ」
特にフォルスが。子供の好奇心は怖い。
「アクアドラゴンは、どっちでしょうね……」
ダルは不安な表情になる。
「アイテムボックスハウスでじっとしてくれるか……。クラウドドラゴンのように外に関心があるのか」
「……」
「ソウヤ君?」
「ノーコメント」
何を言ってもフラグになりそうだ。ソウヤは、魔法大会用の品の仕込みを始めるのだった。
黙っていればわからないかも、と思ったソウヤだったが、残念ながら、すでにドラゴン勢には大会のことは筒抜けである。
そもそも、ソフィアが魔法大会に出るからと、トレーニングにクラウドドラゴンが付き合っていた。当然、そこからアクアドラゴンの耳に入り――
「ふうん、まあ、退屈しのぎにはちょうどいいかもね」
ソウヤの知らないところで、ドラゴンたちの大会観戦が決まったのだった。
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