第317話、タルボットに会うソウヤ
タルボットの醤油蔵を出た後は、マーク・タルボットの実家でもあるタルボット商会へと足を運ぶ。
本店のほうにお邪魔したソウヤが、自らの名を明かすと、グレイグ・タルボットが現れた。
「ご無沙汰しております、ソウヤさん」
「お久しぶりです、グレイグさん」
挨拶は基本。そこから彼の執務室へと移動した。
小ぎれいな造りだが、商談用の部屋ではないせいか、飾り気がなく、言ってみれば地味だった。ただ、やたら頑丈そうな金庫が目立った。
世間話から入って、ここ最近のご報告などなど。息子の醤油蔵が大繁盛しているという話になったら、グレイグは少し嬉しそうな顔になった。
「――実は、ご相談がございまして」
「何でしょうか?」
「ソウヤさんは、水天の宝玉というのはご存じでしょうか?」
「いいえ。初耳です」
あいにくと、そこまで情報通というわけではない。
「水天とは、水の神様のことです。一説には、四大竜アクアドラゴンのこととも言われております」
四大竜――大地のアースドラゴン、風のクラウドドラゴン、火のファイアードラゴン、そして水のアクアドラゴン。
ほとほと四大竜と縁があるな、とソウヤは思った。
「そのアクアドラゴンの宝玉がどうかしたんですか?」
「……」
グレイグは席を立つと、金庫へと移動した。彼の背で見えないが、カチャカチャと音を立てたところからして、鍵を開けているようだった。
ガチャリと音がして、扉が開いたようだ。
――部外者であるオレがいるところで、開けても大丈夫なのか……?
少し不安になるソウヤ。人払いされていて、場にはグレイグとソウヤしかいない。もしソウヤが力づくで、となったらタルボット商会ではどうにもならないだろう。
――まあ、しないけど。
グレイグが小箱を持ってきた。席に戻ると、箱の蓋を開けて中身を見せた。
「こちらが、その水天の宝玉でございます」
「へぇ、これがそうなんですか……」
手のひらに収まる大きさだ。宝石などと比べれば大きいだろうか。
「綺麗ですね」
透き通るような水色の宝玉である。
「で、これが何か?」
「こちらは、とある沈没船の探索中に発見されたものになります」
「沈没船……? タルボット商会さんは、サルベージもやるんですか?」
「近場でのみですが、海難事故があった場合、こちらにお声がかかることがあるのです」
グレイグは続けた。
「先日、近くの孤島群に沈没船が発見されまして。我が商会の船が行って調査をした結果、船は海賊船でありました」
「海賊……」
海にあって通行する船を襲ったり、沿岸部の集落を襲撃する荒くれ者集団である。主な仕事は略奪。殺人や暴行は、抵抗せず降伏した船では行わない。――とはいえ、ルールを守る海賊ばかりではないが。
「幸いというべきか、船に生存者はいませんでした。ただ、どこで手に入れたかは知りませんが、お宝に相当するものは、それなりに回収することができました」
「この水天の宝玉も、そのお宝ですか」
「はい、普通ならそうなのですが……」
グレイグの表情が曇る。
「この宝玉、盗品なんですよ」
「……そりゃあ、そうでしょうね」
海賊が持っていたんだから。どこかで略奪したのだろう。
「いえ、そうではなく、ああ、そうなのか……。まあ、とにかく、ここにこれがあるというのが問題でして」
「どういうことですか?」
「この水天の宝玉は、竜を操ることができるのです」
「ドラゴンをですか……?」
一瞬、ソウヤの脳裏にミストや影竜、クラウドドラゴンがよぎった。
「はい。この宝玉は、本来、海の底、海竜の宮と呼ばれる場所にあったものとされております。しかし、竜を操る力を持つことから狙われ、地上に出てしまった。かなり昔の話ですが……」
グレイグはさらに難しい顔になった。
「この宝玉は、時の権力者たちに狙われました。何せ竜――つまりドラゴンを操ることができるのですから、それを持てば、軍事面への転用は火を見るより明らか」
「確かに。本当にドラゴンが支配できるなら、それを持って世界を手に、なんて考える者が出てもおかしくないですね」
その力は、権力者には魅力的だろう。……ソウヤの脳裏に『もし魔王軍の残党が手に入れたら』という不安がよぎった。
「矛盾していると思われるでしょうが、普通に考えれば、この手のものは国王陛下に献上する類いのものとなりましょうが――」
権力者に献上。わからなくはないが、ソウヤとしては正直あまりよろしくなかった。そう思うのは、身内にドラゴンの友人を抱えているからかもしれないが。
「ただ、これを手にして使おうとした国は、例外なく滅びてきました。そういう曰く付きの代物ゆえ、献上もためらいまして」
「滅びてきた……?」
「はい。ドラゴンを使役しようとした者は、ドラゴンの裁きを受けて逆に滅ぼされてしまったのです。ドラゴンの中でも最上位のディバインドラゴンが降臨し、光で国を吹き飛ばしてしまうと、伝説が残っております」
――そのディバインドラゴンは、水天の宝玉で操れないってことか。
もし支配できるなら、裁きを受けるなどないはずだから。
「それを踏まえて、これの処理をどうすべきか……ソウヤさんにご相談したくお呼びした次第です」
グレイグは頭を下げた。
仕事をしていたら、とんでもないお宝、もとい爆弾を見つけてしまったので、どうしよう――という相談である。
ドラゴンを操る、という点でアウト。権力者に献上する、というのも国が滅びる可能性が高くてアウト。にも拘わらず、これを手に入れようとする輩もいてアウト。
――スリーアウトだ。チェンジだ、チェンジ。
「ちなみに、グレイグさん的には、どうするべきだと考えますか?」
「ひとつ、このまま見て見ぬ振りをして金庫にしまう。ひとつ、どこか人の手の及ばない場所に廃棄する」
捨てる、というのが、割と正しい気がしてくるソウヤ。グレイグは三本目の指を立てた。
「ひとつ、海の底にあるという海竜の宮のアクアドラゴンにお返しする。……もっとも、海の底にあるという海竜の宮に、どうやっていくのか、という問題はありますが」
この三つですね、とタルボット商会の長はいった。
「他に何か、名案があれば、ぜひ聞かせていただきたいですが」
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