第308話、親子対面
実家の様子を確かめたほうがいい、というソウヤの言葉に、イリクは複雑な表情を浮かべた。
「確かに確認は必要ですが、実家のあるバロールの町は遠い。王都での魔法大会が近く、私がここを離れるわけには……」
「ソウヤ」
アルガンテ王が指を鳴らした。
「船は出せるかな?」
「もちろんです。バロールの町には個人的に用もありますので、こちらとしては構いません。向こうで何があるかわかりませんが、何もなければ一日で往復できますよ」
「では、イリクよ。二日、休みをやる。ソウヤの飛空艇で、ちょっとバロールの町まで行ってこい」
「はっ、承知いたしました」
イリクは頭を下げた。ソウヤは立ち上がった。
「では、準備をしないといけないですね。王都にゆっくりとはいかないようだ」
「すまんな、ソウヤ」
「いいえ。ソフィア……仲間のことですから。お安い御用ですよ」
「ソウヤ様は仲間のこととなると苦労を厭わない方ですからね」
レーラはニコニコと微笑した。
話は決まった。会談はお開きとなり、ゴールデンウィング二世号に戻る。王都を見て回れると思ったフォルスが、がっかりした。
「えー、見て回らないのー?」
「用事ができた。なあに、数日で戻ってくるからその時にさ」
「むー」
「飛行場と王城の間も、一応王都だし」
「そうかー」
お子様フォルスは、来た時も通った道を見回した。
もっとも王都飛行場は、王国軍関係と貴族の個人所有のものしかないので、王都の一般人はほとんどいないのだが。
「……フォルス殿は、ドラゴンなのか?」
バロールの町に行くことになったイリク・グラスニカは、ソウヤと子供姿のフォルスを見て不思議そうな顔をしている。
レーラは微笑む。
「あれで、まだ生まれてさほど経っていないんですよ。私が一度目覚めた時は、まだ生まれていませんでしたし」
「そうなのですか」
イリクと、彼のお供である魔術師二人が感心したような顔になった。
「ドラゴンというのは、まこと賢き種族なのですね……」
「悪いことは考えないでくださいね」
レーラは笑顔で釘を刺す。
「あの子のお母さんドラゴンが同行していますから。逆鱗に触れたらおしまいですよ」
「はい」
イリクは頷いた。ドラゴンという種族が恐ろしいものだということは、彼らも認識している。
とはいえ、実際のドラゴンを見るまでは、本当の恐ろしさについてわからないのが普通だが。
・ ・ ・
飛空艇ゴールデンウィング二世号についた時、イリクとその従者である魔術師は感嘆の声をあげた。
「ほう、大きさはともかく、王国の船より上等ですね」
「掘り出し物ですがね」
ソウヤは苦笑する。ただ船長を託したライヤーが、念入りに手入れしているから、そんじょそこらの船より手が掛けられている。
「そういえば、ソフィアとはしばらく会っていないとか」
「お恥ずかしながら。……事情は、彼女から聞いているでしょうか?」
「ええ、まあ……」
魔法が使えないから、身内から冷たくされたという話。それは親も含まれているから、イリク本人とするには実に気まずい話題である。
「彼女、魔術師として頼もしいですよ。素人目ですが、オレが見てきた上位の魔術師たちに引けを取りません」
「勇者であるあなたから、その評価をいただけるとは……」
イリクは、ソウヤを勇者と称した。世間には勇者マニアで通しているつもりだが、アルガンテ王の側近ゆえ、本当のところは聞いているかもしれない。聖女と一緒にいて、さも自然に接しているのを見れば、お察しか。
「私も、彼女が魔法を使う様を早く見たくあります」
――よく言うよ……と思われてるくらいは、自覚はあるかな。
ソウヤは、イリクを見やる。ソフィアの成長を見て、手のひらを返す様が目に浮かぶ。
船に乗り込むと、甲板に噂の当人であるソフィアがいた。ジンとミストと何やら話し込んでいる。
これからのトレーニング内容の確認だろうか。
「そりゃあもう、わたしは、あの人嫌いよ!」
――うん?
「魔法のことしか眼中にないんだもん! どうせわたしが魔法を使ったって、魔法しかみないわよ」
ソフィアがイライラしている。ミストが苦笑する。
「見せつけてやればいいのよ。あなたしか使えない魔法を見せたらいいんじゃないの?」
「わたししか使えない魔法?」
「ブレスでも吐いたら? ドラゴンみたいに」
「あー、確かにアレなら、わたしのことも見るでしょうとも……」
腰に手を当てるソフィア。ソウヤたちは近づくが、まだ気づいていない。
「でも、嫌よ。お父様の前で、ドラゴンブレスなんて。あの魔法バカっ!」
――うわ……。
ソウヤは隣にいた魔術師を見た。イリクは無表情で口を開いた。
「誰が魔法バカだって……?」
「え……」
その突然の声に、ソフィアが硬直した。ゆっくりと振り返った彼女は驚愕した。
「お、お父様!? 何でっ!」
まさか陰口の当人がいると思っていなかった。ソフィアは目を回し、仁王立ちのイリクは無言のまま。大変気まずい空気が流れる。
そそっと移動したミストが、ソウヤを小突く。
「おかえりなさい。で、こちらのソフィアに似た魔力の持ち主はどなた?」
「イリク・グラスニカ氏だ。エンネア王国宮廷魔術師で、ソフィアのお父さん」
「初めまして」
無表情のままイリクが、ミストに会釈した。そのミストは背筋を伸ばした。
「どういう経緯でここにいるかは知らないけれど、どうぞよろしく。ワタシはミスト、そちらのお爺ちゃんは、偉大なるジン・クレイマン。知っているかもしれないけれど、一応ワタシたちは、ソフィアのお師匠」
「いや、今初めて耳にした。娘がお世話になりました。……クレイマン?」
イリクが首を傾げる。ジンが笑みを浮かべた。
「ジン・クレイマン。ただの魔術師だ」
伝説のクレイマン王とは言わなかった。
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