第241話、美味しくいただきました
ふだん、ソウヤたちが食しているものを、アルガンテ王、ペルラ姫に振る舞った結果。
「貴様らだけ、こんな美味しいものばかり食べているのはズルイ!」
醤油ダレのついた鳥肉の串焼きをモグモグとやりながら、アルガンテは言った。
「しかし、串に刺さったのを直接食べるというのは新鮮だな!」
「そもそも串に刺した状態で出さないでしょうからね」
野外で、手を汚さずに食べる方法だとソウヤが説明すると、アルガンテは頷いた。
「確かに、手掴みで肉など食べたら、油がつくからな」
「そもそも手洗いせずに、直接触って食べれば、そりゃ腹も壊しますよ」
こういう現代では当たり前の衛生面の知識に乏しい世界である。手洗いをしてれば、避けられた食あたりも相当なものだと思う。
「しかし、この温かな食事というものはいいものだ」
アルガンテが言えば、ペルラ姫は同意した。
「まったくですわ。いくら毒物などを警戒するためとはいえ、冷めた料理のなんと味気ないことか!」
そこへ、焼き上がったステーキを、お二人に提供する。もちろん醤油ベースのタレがかけられている。
「こちら、Aランク魔獣のベヒーモス肉のステーキです」
「おおっ!」
アルガンテは、相好を崩す。
「これは、我ら王族とて滅多に味わえないと言われる、幻の魔獣肉だな! さすがソウヤ。このような魔獣肉もあるのか!」
さっそくナイフとフォークを入れる王様とお姫様。時間経過無視のアイテムボックスに保存した肉だ。新鮮な肉を使ったステーキを、一口。
「んん!」
ペルラ姫の顔がほころぶ。アルガンテはうんうんと何度も頷いた。
「うまい!」
それから二人は夢中でステーキを食べていく。見守るカマルは、ソウヤの傍らに立つ。
「大丈夫なんだろうな? 毒見なしで王が食事など、前代未聞だぞ」
「うちのメンツで腹を壊したヤツはいないから大丈夫だよ」
ソウヤは小声で返した。
「そもそも、オレが王族に毒を仕込むと思うか?」
「……さて、どうかな?」
そっぽを向くように顔を明後日の方向へ向けるカマル。ソウヤは皮肉った。
「危害を加えるつもりなら、アイテムボックスに引き入れた時点で、毒なんて与えなくても始末できると思うがね」
「ああ、そうだろうな。……それで、今焼いているのは魚か?」
「王とお姫様が食べているのを見るのはメシテロだろう。お前にやるよ」
「それはどうも。川魚なら焼いて食べたことがある。……塩は?」
「ここは醤油で食べてみろ。それは初めてだろ?」
焼けた魚の匂いが広がる。アルガンテがビシッとナイフを向けてきた。
「カマル! 貴様、俺が食していないものを、ひとりだけ楽しむつもりか!」
俺にも食べさせろ、とステーキを平らげつつ、焼き魚をおかわりするつもりらしい。
――よく食べるよなぁ、ほんと。
それだけ醤油を使って食べる料理を気に入ってくれたということだろう。
結果的に、アルガンテ王とペルラ姫は、アイテムボックスハウスでの食事に大変満足した。
食後のデザートに、プリンを提供したら、こちらもお気に召したようだった。ソウヤは以前、ペルラ姫に頼まれていたクレイマンの遺跡についての経過報告をした。
手掛かりは依然としてないものの、もしかして空に浮いている可能性もあるので、飛空艇が出来上がったら本格的に探ってみるつもりと、今後の方針も伝えておく。
古代天空人の遺跡などが見つかれば、地上の技術では不可能な復活薬や、レーラの魔力欠乏に効果のある薬などがある可能性もあるからだ。
なお、王城に転送ボックスを設置することが決まった。利用者は王族なのだが、王がソウヤたちに手紙を送ったり、逆に魔族に関しての情報だったり重要案件をソウヤから報告するためだ。
……というのは一面。本音を言えば、アルガンテやペルラ姫が、定期的に、銀の翼商会のお菓子などを食べたいから、というのが強かった。
出すものさえ出してくれるなら、ソウヤとしては構わなかった。王族との物理的なコネにもなるわけで、商人としてはある意味願ってもない状況なのだから。
・ ・ ・
アルガンテ王との会談が終わったので、次は聖女レーラの魔力欠乏症状を治療するための行動である。
とりあえず、エンネア王国内にある精霊の泉を目指す。そこで当たりを引けば、それで一気に復活もあり得る。
王都を離れる前に、ソウヤは王都で鍛冶をやっているドワーフのロッシュヴァーグの元を訪ねた。
最近の報告のため、というのもあるが、古代文明遺跡で回収した特殊魔法金属や、ゴーレム素材を見せるためでもある。もし、ロッシュヴァーグの眼鏡にかなうものがあれば、売るつもりでもある。
「そうか……レーラがな」
かつての仲間のひとりである聖女レーラの復活と、その後。ロッシュヴァーグは表情を厳しくさせながらも頷いた。
「まだ、復活の機会があるなら、御の字じゃわい。それに、おぬしのアイテムボックス内にいる重傷者も、レーラが治癒したんじゃろ?」
「ああ、ただ、まだ眠ったままだがね」
魔族の呪いをかけられた上での瀕死。聖女の力で双方を取り除かれたので、あとは目覚めるのを待つだけではあるが……。
「オレ自身、十年も昏睡状態だったからな……。正直、いつ目覚めるやら」
「無理やり叩き起こしたらどうじゃ?」
「ロッシュ、そう簡単にどうにかなるなら、オレは十年も眠っちゃいなかっただろう?」
アイテムボックス内の時間経過無視エリアにいるのは、今はレーラのみだ。よって、復活のための行動は、彼女ひとりのために集中することができる。
「十年か……」
ロッシュヴァーグは目を細めた。その視線の先には、ロッシュヴァーグの工房でこしらえた魔法金属製の剣を眺めているカーシュに向けられる。
「あいつも復活したのは喜ばしい話じゃが……聖騎士には戻らないと言ったそうだな」
「色々思うところがあるんだろうね……」
偉い人にも掛け合うつもりだったのだが、カーシュは銀の翼商会を選んだ。十年間のブランクは、勇敢なる聖騎士をもってしても、そう簡単な話ではないということだろう。
――オレみたいな、この世界での縁があまりない人間とは違う。
ソウヤとて、知り合いが十年も歳を重ねているのを見て、面をくらうこともある。だが生まれも育ちもこの世界ではないからか、そこまで深刻に捉えていない。
十年間のブランクを受け入れやすかったのも、昔、旅行に行った土地をまた訪れたという認識に近かったのかもしれない。
――しょせん、オレはこの世界じゃ、異世界人だもんな。
だがカーシュたちには、そうではない。
「ソウヤ」
そのカーシュがやってきた。剣を選び終えたのか、と見れば、彼は深刻な顔で言った。
「ひとつ、思ったことがあるんだが、話してもいいか?」
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