第237話、ご機嫌取りの結果
ソウヤとアルガンテ王のやりとりは続く。
バッサンの町を訪れたソウヤたちは、そこで大盗賊団を討伐。新たな遺跡を発見したり、浮遊バイクの製造のための工場を作るといった事業を進めた。
「浮遊バイクを量産できるのか?」
「うちの商品開発部が、一般向けの浮遊バイクを作りました。それを流通させるべく、バッサンの町とやっているところです」
色々やってるので見守ってやってください、とソウヤは言った。
「もし欲しければ、バッサンの町で売ると思うので、そちらで購入を検討していただければ」
「うむ、浮遊バイクは、いずれ国中に広がるだろう。あれの機動力は、貴様が使ってよくわかっているからな」
王国では、大なり小なり浮遊バイクを売る、と。――こっそり有力者へ宣伝。浮遊バイクの知名度を上げる作戦。
浮遊バイクの需要が高まれば、いずれはバッサンの町だけでは追いつかなくなる。その辺りで国が一枚噛むこともできるだろう。
「浮遊バイクを使ったレースで客を呼び込んで、地域の経済効果を高められたらと思っています。王都でも主催のレースでもやったりとか」
「それは面白そうだな」
バッサンの町での思いつきも、馴染みのアルガンテだから気楽に話すことができる。ここぞとばかりに王族に、浮遊バイクを印象づけるソウヤである。
次に話は醤油にいく。アルガンテは相好を崩した。
「ペルラが貴様の焼肉をいたく褒めていた。今ではショーユ味付けの食事を摂るようになった」
「ペルラ様は……そうですね、絶賛されました」
ソウヤは恐縮してしまう。大臣とペルラ姫で、醤油タレのアピールに焼肉をしたのを思い出す。
「今のところ、バロールの町のタルボット蔵のみ、醤油が生産される格好ですが」
「うむ、こちらからも確認したが、その……タルボットの蔵か? 需要が追いつかないということで、規模を拡張している。国からも支援してやった」
「そうなのですか?」
「我らも、安定してショーユ味付けのものを食べたいからな。それだけ魅力的な品だ」
アルガンテは目を細める。
「貴様の差し金だろう?」
「この世界でも、醤油を使ったものを食べたいと思いまして。初めはそれだけだったんですけどね」
「だが行商を始めた貴様は、そのショーユを一部とはいえバラまいた。その効果は凄まじいものがあった」
それだけ、新たな味に惹かれたのだろう。
「貴様に先見の明があったわけだ」
「たまたまですよ。自分の好きなものが当たっただけです」
「それで実際に売れたのだから大したものだ」
「恐縮です」
悪い気はしないが、これ以上褒められるとムズがゆくなる。ソウヤは話題を変えることにした。
「そういえば、バッサンの町の遺跡で、古代文明時代のゴーレムをいくつか手に入れました。調整すれば動く代物ですが、使い道はありますか?」
「古代文明時代のゴーレムか。それは興味深い。我が軍でもゴーレムは使用されているが、古代文明のものがどの程度のものか気になる」
アルガンテは乗ってきた。
「研究用にいくつか買えるか」
「承知しました」
ということで、エアル魔法学校の時と同様、三体のゴーレムを売った。
「そうそう、遺跡で珍しいものを手に入れました。こちらは天空人の遺跡なのですが『若返りの水』というそうです」
「若返りだと!?」
アルガンテは仰け反った。驚くのも無理もない。ソウヤも、その場で聞いたライヤーだってその時はビックリしたのだ。
「それは不老になるものか?」
「いえ、鑑定魔法の結果では、二十歳くらい若くなるもののようです。一種の回復魔法のようなもので、多量に飲まなければ副作用などもないそうです」
「素晴らしい!」
アルガンテは喜んだ。
それはそうだ。若返るということは、自らの寿命を伸ばすことにも繋がる。副作用で逆に寿命が短くなる、ということもないものならば、活用しないわけがない。
本当は、この手のものは、表に出すものではないかもしれない。
だがソウヤは、アルガンテの人となりを知っている。彼が治めているこの王国を、ある程度見て回ったが、魔族の問題以外はよいものと感じている。
よい王なのだろう。そんな王が治める国は長くそのままであってほしい。
そもそも、不老不死の薬ではないので、そこまで神経質になるものでもないと思う。寿命が現代日本人並みになる程度のことだ。
飛空艇の話を持ち出すまでに、少しでもご機嫌をとる。
「これは母上もお喜びになるだろう!」
――うん?
ソウヤは一瞬、聞き間違いかと思った。ビンの液体を眺めるアルガンテは言った。
「最近、母上は老いを気にしていらしたからな。これで若返れば、元気になってくれるのではないか!」
――あー、そういえばこの人……。
一見、親思いの孝行息子のようでもあるが、アルガンテは、マザコンだった。
何かあれば『母上のため』というのが口癖でもあった。
もちろん、別段、母に甘えてベタベタしているとか、そういうことはない。しかし、母を敬い、まるで神のごとく崇めているように接しているのが、アルガンテという男だった。
――そりゃあ、自分より母上様だよなぁ。
肩透かしをくらうソウヤ。当然の帰結である。アルガンテは、若返りの水を与えられたら、自分ではなく母に献上するのだ。
――お母さんを若返らせたら、付き合うとか、そういうのないだろうな……。
十年前の印象では、アルガンテの母親は大層な美人であった。マイナス二十歳……ちょうどアルガンテと同じくらいになるのではないか。
とはいえ、お母さん大好きアルガンテのご機嫌取りには充分過ぎる効果があっただろう。ソウヤは、そろそろ切り出すことにした。
「陛下、実は、銀の翼商会は、古代文明時代の飛空艇を発見し、これを修理しておりました。この飛空艇を、行商の足として使いたく思うのですが、保有を認めていただきたい」
「いいぞ」
アルガンテは、さらっと答えた。あまりに短い一言に、ソウヤは耳を疑った。
「いいんですか?」
「ああ、貴様なら、飛空艇を悪用することもあるまい。まあ、悪用するなら、その時は軍の飛空艇で撃沈するだけだが」
若返りの水をじっと見つめながら、アルガンテは言った。こちらの話に関心がないように見えて、しっかり聞いていたようだ。
即断が過ぎる。あまりにノータイムの返事に、ソウヤは困惑してしまう。
カロス大臣が、今回の会談をセッティングするにあたり、予め飛空艇の話をしていたのかもしれない。考える時間があったから、ソウヤが切り出す前にすでに結論を出していた、ということだ。
ともあれ、懸念だった飛空艇の保有について、国王陛下より許可をいただいたのである。
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