第231話、懸念を解消しよう
「ソウヤ、つかぬ事聞くが、ミスリルは残っているかね?」
そう言ったのはジンだった。
魔力式ジェットエンジンの開発を、ライヤーと進めていたジンは、とある素材を求めた。
「最初は、割と真面目にジェットエンジンにしようと思ったが、魔法とそれに関連する金属を流用するほうが、効率がいいのに気がついた」
老魔術師は、そう言った。
「で、魔力ジェットは魔法を利用するが、そこで発生する熱も、魔法に高い耐性のあるミスリルで抑えたいのだが……」
「……」
「ミスリルタートルを、アースドラゴンに献上したが、少しくらい残っていないかね?」
「ない――いや、ある」
ソウヤは、アイテムボックス内のリストを再度確認する。ミスリルの欠片という名称で十数個。
「ミスリルタートルを倒したり移動させた時に、少量の欠片が落ちた。それくらいなら」
欠片といっても、人間の頭くらいの大きさの塊や、片手剣くらいの大きさのものだ。元のミスリルタートルが大きかった影響でもある。
「よかった。それなら、エンジンひとつには充分だろう」
ジンは頷いた。
「予備などを作るなら足りないが、とりあえずゴールデンウィング二世号のエンジン分にはなるだろう」
「そいつはよかった」
ここに来て、ミスリル探しをしなくてはいけなくなるところだった。
「エンジンが完成したら、いよいよゴールデンウィングは自力で飛行できるわけだな」
「ソウヤ、補助エンジンはあるんだ。自力飛行なら、もうできる」
ジンは言ったが、すぐに皮肉っぽく笑んだ。
「まあ、そういう意味で言ったのではないのはわかるがね」
「そうそう、そいつは野暮ってもんだ」
メインとなるエンジンを据えたら、飛空艇を使って世界の空へ漕ぎ出せる。
ミストドラゴンの背に乗ってひとり旅、ということもなく、仲間たち全員で移動できるのだ。
「楽しい夢にケチをつけるわけではないのだがね」
ジンは眉をひそめた。
「飛空艇を保有していることを、エンネア王国に通達してあるかね? カロス大臣だったか」
「いや、してないな。大臣に言ったおぼえはない。……言わないと駄目か?」
取り上げられたりしないか、ソウヤは渋い顔になる。
飛空艇自体は、移動用に使い、商売をする時は船から離れてやるつもりだった。権力者たちに目をつけられると厄介だからだ。
「話を通しておいたほうが、後々面倒がない。商売で使うにしろ、『エンネア王国大臣の証明書』なりを持っておくと、地方貴族などが手を出しにくくなるだろう?」
ソウヤが警戒するそれ。貴族が権力で飛空艇を取り上げようとした場合に対抗するため、こちらも権力者の加護、ないし後ろ盾があるほうがいいという指摘だ。
『この船は王国の大臣のお墨付きだ。手を出したら……わかってるな?』というやつだ。国から何らかのペナルティー、もしくは報復があると思われれば、飛空艇に手を出すのを躊躇ってくれるかもしれない。
「それでも国が非常事態には徴用、というのは避けられないがね」
それはどこの国でもある。
「ただ、大臣は、そういう非常時には君を頼るだろう。そういう時、大臣が飛空艇の話を知っていれば、国の強制徴用を避けてくれると思うよ」
「それもそうだな」
これまで通り、秘密は秘密にしたままにしておこうと思ったが、オープンできるところはしたほうがいいこともある。
――黙っておいたことがいいこともあるけどな。
しかし、カロス大臣あたりには、話を通しておいたほうがいいというのは、ソウヤの中でも納得できた。
エンネア王国に戻るので、一度王都にも立ち寄ろうと思った。
・ ・ ・
グレースランド王国を離れて、エンネア王国に帰ってきた。
街道では、グレースランド行きの行商や商人たちの馬車などと多くすれ違った。国境の結界が解かれたのを知った彼らが、流通を再開させているのだ。
そんな中、浮遊バイクの一団は大きく目立った。ちょっと声をかけられ、街道脇に停めれば質問攻めに合った
『その乗り物は何だい?』から始まり、『この焼き鳥、うまいな!』といういつもの商売の流れになる。
浮遊トレーラーの、そのまま売り物を展開できる棚の物珍しさと、即席の休憩スペースのせいで、人がどんどん増えていった。
「結界があったって話だけど、アレ何だったの?」
「魔族の仕業だって? 大丈夫なのかい?」
「グレースランドの治安ってどうなってる?」
商人たちの質問に、ソウヤはそれぞれ答えていった。グレースランド王国内を巡った経験が役に立った格好だ。
何々が不足気味だった、とか、さほど日が経っていない地元の情報は、商人たちにも大いに役立つ。情報料代わりに銀の翼商会の商品を買ってくれる人が多数いた。
その間、セイジは軽食を作り、オダシューとポニテ少女のトゥリパが給仕やヘルプをこなしていた。
ミストとカーシュは、商人の護衛の冒険者たちに、魔族との闘いの話やモンスターについて話していた。
ガルとソフィアらは、休憩所周りの警戒だ。人が集まった分、物盗りに気をつけるべきではあるが、そもそもいるのが平原の一角なので、盗賊や魔物など注意すべき存在は少なくない。
そんなこんなで思いがけず足止めを食らった銀の翼商会だったが、飛空艇のパーツ絡みで、ドワーフの町ルガードークに到着。
さっそくソウヤはジンと、ブルーアの工房へ向かった。
「話は先日の手紙で知っているが……」
ブルーアは髭をいじった。彼には転送ボックスを渡したため、完成した部品の受け取りや、注文書、報酬などでやりとりをしていた。
「これが、その素材であるミスリルだ」
ミスリルを使ったエンジンのパーツ製作。手先が器用なだけでなく、魔法金属も扱えるドワーフでなければ、この手の精巧な部品を発注できない。
「新型エンジンは、死んだ兄の夢でもある。やるさ」
ブルーアは、受け取ったミスリルを手に取る。
「こいつは、ミスリルタートルのものか?」
「わかるのかい?」
「ドワーフをなめてもらっては困る」
地面から掘り出したものとミスリルタートルの背中のもの、ドワーフにはひと目でわかるものらしい。
「確かに受け取った。できたら、また転送ボックスで送ればいいか?」
「頼む」
魔力ジェットエンジンが、また一歩現実のものになりつつあった。
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