第229話、ハンドゥワーの森
精霊の泉巡りということで、まずはグレースランド王国にある精霊の泉を目指す。
大精霊がいるかどうかは、行ってみないとわからない。
その道中、スナーブとニェーボと別れた。元カリュプスメンバーであるこの二人は、情報収集のため、ソウヤたち銀の翼商会とは別行動を取るのだ。
主な収集情報は、魔族――魔王軍残党の動きとその拠点などの在処と、聖女の復活のための秘薬などの手がかりについて。
二人に、ソウヤはやや大きめのアイテムボックスと、浮遊バイクをそれぞれ与えた。アイテムボックスには、転送ボックスの効果もつけてあるので、遠くに離れていても、手紙での連絡や簡単な荷物の転送ができるようにしてある。
「くれぐれも気をつけてくれ。何かヤバイことがあったら連絡を寄こせよ」
「はい、お任せください」
「ほな、行ってまいりますー」
スナーブ、そしてニェーボが離脱。ソウヤたちは浮遊バイクとトレーラーに乗り、平原を移動する。
ちなみに、情報収集の二人に浮遊バイクを与えたが、他のカリュプスメンバーのためにさらに四台が追加で作られている。
閑話休題。
グレースランド王国は東、ハンドゥワーの森にやってきた。精霊の泉があるらしいが、さてモンスターも多く生息しているという。
「奥のほうとは聞いているが……」
ソウヤは、薄暗い森を見やる。木や草がびっしりで、視界はよろしくない。
「こんな暗そうだってことは、空からも見えないかな?」
「やってみればいいわ。ソフィア、使い魔出して、空から偵察!」
「はい、ミスト師匠」
ミストに促された、ソフィアが鳥型の使い魔を放つ。
偵察の間、カーシュがきた。
「いかにもモンスターが出そうだね」
「事前に聞いた話じゃ、マンティコアが出るらしいぞ」
人面獣。人によく似た頭を持つ獅子のような姿をしている。森に住み、人肉を好むと言われている。尻尾はサソリのようであり、毒だったり針を飛ばしてくるとか。
「マンイーターか……。入ったら、間違いなく襲ってくるだろうね」
人を好んで喰うからマンイーター。こんな森に入る人間なんて、冒険者くらいだと思うが、マンティコアとの遭遇を警戒しないといけない。魔獣ランクも高めの油断のならない敵である。
「ミスト師匠、かなり先に泉がありました。結構大きいです」
「大丈夫? それ本当に泉? 池や湖ではないのよ?」
ソフィアとミストが、何やらやりとりをしている。
ソウヤは苦笑して、カーシュに言った。
「いまさらながら、地元のガイドを雇うべきだったか……?」
「こんな人も入らなさそうな森に、ガイドをできる人なんているかな?」
真面目な顔で答えるカーシュ。
「せいぜい冒険者くらいかな」
「うちのメンツなら、何とかなると思っていたんだが――」
ソウヤは腕を組む。
いまソフィアが使い魔を使っている。ミストも魔力眼を持っている。その能力があれば、ガイドを探す必要はないと考えたのだが……。
「見通しが甘かったか」
「ジンさんを呼ぶ?」
「いま爺さんは、ライヤーと魔力ジェット作りに専念してもらってる」
アイテムボックス内の作業場で、ジンとライヤー、そしてフィーアが、飛空艇の修理作業を行っている。
今後、空での探索の可能性も考えているから、できるだけ早くものにしてもらいたい。
「――いいソフィア? 精霊の泉というのは神聖な魔力で満たされているの。目で見えないなら、魔力を見なさい」
ミストが、若き女魔術師を指導する。ソウヤは肩をすくめる。
「さすがドラゴンの知恵」
捜索の範囲がしぼられたので、さっそく出発する。
今回のメンバーは、ソウヤ、ミスト、カーシュ、セイジ、ソフィア、リアハ、ガル、オダシューの八人。
ジンたちは作業、他のカリュプスメンバーはアイテムボックス内で休養だ。
草木の匂いが強い森の中を進みながら、ソウヤの後につくリアハが口を開いた。
「そういえば、影竜様は、ここのところお見かけしていないのですが……どちらに?」
「アイテムボックス内にいるよ」
正確には、彼女のテリトリーに。
前を行くミストが、ちらと振り返った。
「卵がもうそろそろ孵りそうなのよ。だからそっちにかかりっきりなの」
「卵! ドラゴンの赤ちゃん?」
「ドラゴンベビーか」
ソウヤは周囲を警戒しながら歩を進める。
「そういや、赤ん坊は見たことがないな。可愛いのかい、ミスト?」
「ワタシは可愛い!」
「いや、お前が美人なのは知っているさ。そうじゃなくて、ドラゴンベビーがだよ」
「ブッサイクよ。生まれたばかりなんて、大抵そんなものでしょ?」
「わぁお、きっついお言葉」
ソウヤは苦笑する。オダシューやセイジも微笑している。
「ドラゴンベビーが生まれたら、どうすればいい?」
「どうって?」
ミストが聞いてきたので、ソウヤは首をポリポリとかく。
「ドラゴンってあまり食べなくても平気だって話だけど、赤ん坊はどうなんだ? 生まれた赤ん坊に、親がエサを持っていくとかあるだろ?」
「適当に、モンスター肉を食べさせておけば大丈夫でしょ」
「つまり、用意しておけってことね。了解」
倒したモンスターの肉を余分に確保しておこう。影竜がドラゴンベビーのためのエサを獲得するために、アイテムボックスの内外を出入りしなくても済むように。
「ドラゴンの赤ちゃんって、私は見たことがありません」
「わたしも!」
リアハに続き、ソフィアも挙手した。
「見たいって言えば、見せてもらえますかね、ミスト師匠?」
「初めは遠巻きにしておきなさいよ。影竜はたぶん、いつもより神経質になってるでしょうから」
ミストは鼻歌を歌うように楽しそうだった。
「気をつけなさいよ? ベビーと言っても、そこそこ体も大きいから、ヘタに近づくと噛みつかれるかもしれないわ」
「おっかねぇ」
オダシューが呟けば、セイジも「ですね」と同意した。
その時、ミストが顔の向きを変えた。そして先頭を行くガルが剣を構えて止まった。
「何か来る」
「大型魔獣! マンティコア!」
ミストが槍を出して、敵のいるほうへと駆け出す。それで敵の迫る方向に見当がつく。仲間たちも武器を構える中、それは木々をすり抜けて突っ込んできた。
ブクマ、評価などお待ちしております。




