第227話、泉はどこにありや?
「精霊の泉? それはまた、懐かしい響きですな」
グレースランド王国王城にある図書館。ソウヤたちは、そこで老いた魔術師から話を聞いていた。
しわくちゃな顔に、開いているかもわからない目。曲がった背と、かなりの老齢。
ジンも老人なのだが、彼は背筋もしっかり伸びていて、この魔術師と比べると若いと感じてしまうのだから、比較とは怖いものである。
リアハが、グレースランドの王族に古くから仕える魔術師に、精霊の泉の場所を聞いた。彼はもごもごとヒゲを動かしたあと、ゆっくりと語り出した。
「精霊の泉は、世界中にあります。ただし、きちんと精霊がいる泉というのは、多くありません」
「世界中……」
思ったより多い、というか、予想外の答えだった。
「その、きちんと精霊がいるとはどういうことでしょうか?」
「姫様、精霊は清い環境にしかいません。大抵は人里の離れた場所。あるいは森の守護者であるエルフなどのテリトリーなどです」
エルフ――耳の長い人型種族だ。森に住み、長寿で、美男美女ばかりだという。ただ、少々人嫌いなところがあって、人里でエルフを見かけるのは珍しかったりする。
「ここからが肝心なのですが、精霊の泉は多々あれど、姫様が探している『あらゆる病を治す水』のある泉は、この世にひとつか二つしかないのです」
「その場所はご存じですか?」
「ふうむ……」
魔術師は席を立つと、壁に張られた世界地図へと歩んだ。ソウヤたちもその後ろに続く。
――この世界地図……。
ソウヤは頭を傾ける。テーブルみたいな大陸が海に囲まれているが、その海の端から海の水が流れ落ちている。
飛空艇がある世界だから世界を一周しようと考える輩がいなかったのか、とこの地図を見ると思う。地球は丸かった、ではないが、この世界もおそらく球形だろうが。
それはさておき、魔術師はグレースランド王国の近くを含めて、複数の場所を指さした。
「おいおいおい……」
何カ所を指さすのか。ひとつか二つしかないのではなかったのか?
こちらの疑問に対して、魔術師は言った。
「あらゆる病を治す水のある精霊の泉は、いま指し示した場所の『どれか』です。今、どの泉が、そうなのかは、行ってみないとわかりませぬ」
「どういうことです?」
リアハはなおも聞く。
「精霊の泉は、そこにいる大精霊に影響されます。そして大精霊は、一カ所に留まらず、気まぐれに移動するのです」
「つまり、大精霊がいるところが、その精霊の泉ということか?」
ソウヤは言ったが、魔術師は微動だにしない。聞いているかわからない彼に、リアハは近くで囁くと、コクコクと頷いた。
「そうです。泉に大精霊がいれば、そこが精霊の泉なのです」
この魔術師は、リアハ姫としか話さないのだろうか。ソウヤは口をへの字に曲げたが、とりあえず手掛かりは聞いたので、仲間たちに向き直る。
「精霊の泉とされる場所を巡って、当たりを引くのを待つ運ゲーらしい」
どこのソシャゲだよ――と思わずため息がこぼれる。ある程度、場所はわかっていても、当たりハズレがあるのは面倒だ。運がよければいいが、悪ければ延々と周回する羽目になる。
「これは他の方法を考えたほうがいいか?」
「一発で引き当てるかもしれないわよ?」
ミストが言った。カーシュも微笑した。
「そうそう、ソウヤって意外と運がいいから」
「そうか?」
考えてみて、いまいち自分の強運エピソードが浮かばないソウヤである。勇者時代からの戦友であるカーシュは地図を指さした。
「ほら、選んでみて。強く念じて『ここ!』と思った場所はどこだい?」
「勘任せかよ」
そう言いながら、ソウヤは目を閉じて集中してみる。数秒ほど意識を空っぽにしてから、ふっと目を開ける。
地図の中で、真っ先に中心に捉えたのは――
「ここだ!」
「……」
一同の視線が集まる。リアハはソウヤを見た。
「島、ですね……」
「大陸の北」
ポツンとある離れ小島。尺度とかいまいち疑わしい地図だから、本当にあるか怪しくもあるが。
「一応、さっき、このお爺ちゃまが指していた場所のひとつよね」
ミストが確認をすれば、精霊の泉とされる場所ではないところではなかった。
「遠いな」
「行くだけ行ってみる?」
ミストは地図の上を撫でた。
「あなた一人なら、ワタシが乗せていけるけれど」
ソウヤは、ちらとリアハを見る。彼女は頷いた。
「勇者の勘というか、ある意味、神のお導きかもしれません。お願いできますか?」
「……爺さん、どう思う?」
「どの道、飛空艇はエンジンをどうにかしなければいけない。……君らだけ行ってみるというのもアリだと思う」
「わかった」
ソウヤは決めた。
「……正直、勘でしかなく、何も保証はないが、オレとミストで様子を見てくる。爺さん、ライヤーたちと一緒に飛空艇のほうを頼む」
後の面々には、情報収集と近場の魔獣討伐を委ねる。魔獣肉の在庫は増やしておきたい。
保存用のアイテムボックスを渡しておけば万事やってくれるだろう。
・ ・ ・
そんなわけで、早速ソウヤはミストと共に、目的の島へと飛んだ。
「一応、地図は複写したが……」
ソウヤはミストこと霧竜の背中に乗り、もらった地図を見やる。
「これ本当に大丈夫なのかね」
現代で見るような精巧な地図からすると、何だか絵画の延長じみている。海にヘビのようなモンスターが描かれていたりするのだ。
『まあ、正直、どこまで信用していいかわからないわよね』
ミストも同意した。
『ソウヤ、悪いんだけど、ちょっと前を見ていてもらっていい?』
「?」
『魔力眼を使って、ちょっとその島があるか先に見てみるわ。その間、近くのものが疎かになるから』
要するに、瞑想するから見ていて、ということだろう。
「わかった。やってくれ」
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