第19話、冒険者たちとの距離
そろそろ昼か――ソウヤは、ダンジョン内の適当な場所で休憩をとることにした。
そして昼メシ。アイテムボックスから簡易イスと机を出して、朝に用意していた豚汁もどき――ブタ肉入りミソスープ、それとライ麦パンに猪肉を挟んだサンドイッチと、ハチミツをかけた同じくライ麦パンを取り出した。
鍋一杯のミソスープ――本当は豚汁にしたかったのだが、野菜の旨さをいまいち理解していないミストが大根やネギを入れるのを嫌がったために、肉と、かろうじて認めてくれた芋が入っているものとなっている。
――こいつには、ポトフの旨さは絶対わかんないんだろうなぁ。
お椀にスープをよそおい、ミストに振る舞う。すでに猪肉を挟んだライ麦パンをガツガツと食べている彼女。……顎の噛む力、凄そう。
そんなのんびりランチをしていたら、汁物の匂いに釣られたか、冒険者パーティーと出会った。
四人組で、男二人、女二人。格好から戦士、シーフ、魔術師、僧侶のようだ。
「ダンジョンで調理とか、お前ら大胆だなぁ」
リーダーっぽい戦士が言えば、ソウヤはニヤリと笑う。
「まあ、出てきたら返り討ちにするだけだからな」
「……いい匂いー」
女魔術師がスンスンと嗅いでいる。ソウヤはガブリとハチミツたっぷりパンをかじった。
「スープ一杯、銅貨五枚な」
「飲む飲む、くださーい!」
ノリノリな女魔術師に、他のメンバーは渋い顔をする。
「え、飲むの? 何か見慣れないスープっぽいけど」
「いや、たぶんこれ美味しいやつよ。それによく見て、肉とか具が入ってる」
ソウヤが碗の予備によそったスープを受け取る女魔術師。
「安宿の料理より、具がいっぱい入ってる!」
「あ……」
仲間たちがあんぐりと口を開ける。ソウヤは苦笑する。
「あんたたちは?」
「いや……俺たちはいいよ」
辞退された。
「それより、俺たちもこの近くで休んでもいいか?」
「どうぞ、ご自由に」
別にオレたちの場所じゃないし――ソウヤは、ずずっとミソスープをすすった。
「暖かー……。うわ、これ美味し!」
女魔術師が歓声を上げた。
「ダンジョンで、ちゃんと料理されているもの食べられるなんて!」
「……」
仲間たちは無言。昼食だろう干し肉を取り出している。
「ミア、火をつけてくれよ」
女魔術師の名前だろう。シーフ男が言った。干し肉を炙るつもりなのだろう。
保存食をダンジョンで食べる。モンスターが徘徊する場所だから、じっくり料理している余裕がないので、手軽なものになるのが普通だ。
ミアと呼ばれた女魔術師以外の三人が、薪を囲んで干し肉を炙っているのをよそに、ミアはソウヤとミストとスープとパンを囲んでいる。
「味噌って、豆を使ってるんだよ」
「豆? へぇー、ぜんぜん元がわかんないわ。あなた――えっと」
「ソウヤだ」
「あたしはミア。ソウヤさん、あなた料理人?」
「いや、行商人」
――の予定。
ミアは目を丸くした。
「行商人って、冒険者でもないのね。変わってるわー、あなた」
「そうかい?」
「行商人がダンジョンに入るって、聞いたことなかったから」
「いちおう冒険者でもあるけどね。……ああ、そう言われると、あんま聞かないかもなぁ。でも商人だって、ダンジョンに入ることはあるんじゃねえかな」
「よっぽどじゃないとないんじゃないかな。商人の依頼で冒険者が行くってのが普通じゃない?」
なるほどもっともだと、ソウヤは思った。昔やったゲームでも、商人がダンジョンに……いなくもなかったか。いるところにはいたような……。
それはともかく、せっかくなので冒険者から意見を聞いてみることにする。
「ダンジョンの中で、行商とかが商売するのってどう思う? たとえば、手に入れた魔物素材をその場で買ってくれたり、武器とかポーションとか売ってくれたら」
「便利じゃないかな。……ねえ、クラウス、あなたはどう思う?」
ミアが仲間たちに振り返った。クラウス――どうやらリーダーの男らしい。彼は頷いた。
「外に持ち帰らずに素材処分できるなら、これまで放っておいたのも集めて金になるよな」
荷物にならないのがいい、というご意見。
「でも私は、このミソスープ飲んだから言うけど、こういう所でも温かい食事が取れるほうがいいなぁ」
「出張料理屋みたいな?」
「そー、なるのかな……。ダンジョン内に休憩所とかあれば、奥の探索とかはかどるんだろうなぁって思う」
ミアが言えば、シーフ男が笑った。
「おいおい、そりゃ無茶ってもんだろ。ダンジョン内に住めっていうのか? モンスターがいつどこで襲ってくるかわからないんだぞ」
「そんなのわかってるわよ。あったらいいなって話でしょうが!」
――料理か。
ソウヤは考える。現地で作るのは、多少リスクはあるが、アイテムボックスに保存して、食べやすいサンドイッチとか、スープ一杯とか販売するのはありじゃないか。
いまソウヤの作ったミソスープを飲んだミアとのやりとりがモデルになるだろう。いずれはポーションとかも扱うつもりだから、それらの延長で簡単お手軽な野外メシも商品になるかもしれない。
うちはジャンルを固定しない行商だから。アイテムボックスの無限容量あればこそだが。
参考になった。ソウヤは、タダでおかわりをミアに振る舞った。
・ ・ ・
ダンジョン攻略再開――いや、攻略ではなく探索というべきか。
冒険者パーティーと別れ、奥へ進みつつモンスター討伐。素材になりそうなものはアイテムボックスにしまっていく。
さて、ここでひとつ、冒険者パーティーがゴブリン集団と交戦している場面に遭遇した。まだこちらは気づかれておらず、場所が広いので迂回することも可能だ。……問題なのは、ちょっと多勢に無勢で押されているということだ。
「助けてやりたいのはやまやまだが――」
ソウヤは、冒険者ギルドのルールを思い出して顔をしかめる。
戦っている冒険者の横から割って入ることは、原則避けること。いわゆる人の獲物のかっ攫いはマナー違反というやつだ。
「それで、どうするのソウヤ?」
ミストは槍を手にいつでも突入できる構えだった。
「んー、向こうから手伝ってって言われない限りはな……」
勇者時代なら、さっさと助けにいくのだが……。何ともむず痒いというか、気分がよろしくなかった。
――ギリギリまで待つべきか? だがそれはそれで漁夫の利を狙っているみたいだしなぁ……。
じれったい。仕入れ場と定めたダンジョンで、余計なトラブルを背負い込みたくない、というのがソウヤの本音だった。
だが――
「……やっぱ、そういうの、性に合わないな!」
助けが必要なら、お節介でも介入する。それがソウヤという人間だ。
「ミスト、行くぞ!」
「ええ!」
ソウヤとミストは、ゴブリン集団に突撃した。
朝ごはんには味噌汁。




