第182話、飛空艇の重要パーツ
修理のため、必要となるパーツの調達に目処が立った。
現代の飛空艇のエンジンなどの機械類は、ほぼ古代文明時代のものを流用、もしくは劣化コピー品である。
古代文明時代の機械の知識を持つライヤーと、それに近い精度の部品を作れるドワーフが協力すれば、修理用の品を手に入れることができるだろう。
だが、とても重要な『とある』パーツだけは、専門の工房でも無理だった。
ライヤーは問うた。
「ブルーアさんよ、ここにゃ飛行石は取り扱ってないのかい?」
「んなもん、あるわけないだろう!」
ドワーフの機械職人は腕を組んで顎を突き出した。
「あれは機械とは別物だ。こんな部品製造工房でどうにか作れる代物ではないわ!」
「……なんか、おれに対して当たりが強くね?」
首をひねるライヤーをよそに、ソウヤとジンは顔を見合わせる。
「飛行石か……やっぱあれ、貴重なものなのか」
「おそらくだが、飛空艇が、限られた層しか運用されていないのは、その飛行石のせいじゃないかな」
老魔術師は指摘した。ブルーアは頷く。
「こればっかりは、遺跡からの発掘品が主だからな。浮遊する力を持つ魔法の宝石ってんだろう? 現代の技術でも再現が難しい」
そう言うとブルーアは、部品の山を避けて、鍵付きの箱を開けた。そして手のひらサイズの宝石をひとつ。その見覚えのある球形に、ソウヤは口を開いた。
「それ、もしかして飛行石か?」
こちらで回収した飛空艇のものと比べると四分の一程度と小ぶりだったが。
「そうだ。ただし、これは人工的に作り出した飛行石だ。魔術師どもがどうにかこうにか作ったものだ」
「飛行石を作った?」
ライヤーが近づいて見ようとすると、ブルーアは両手でがっちりと人工飛行石を握り込んだ。
「別にとりゃしねえよ!」
「当たり前だ!」
にらみ合う二人。ジンは人工飛行石を見つめる。
「魔術師が再現したというのは?」
「ああ、王国でも飛空艇の数を増やそうってんで、発掘品だけではなく自分たちで作ろうとしたのさ」
わかる話だ。遺跡から見つけたものだけでは、安定した供給ができるはずもない。
「ただ、魔術師どもが頑張っても、この程度よ。しかも浮遊できる高さはせいぜい数十メートルくらいで、本家のもんと比べても全然及びもしない」
古代文明時代の技術力がそれだけ高かったということだろう。
「人工的に作る、か……」
ジンが腕を組み、視線を彷徨わせる。
――この爺さん、きっと作れないか考え出したぞ……。
ソウヤには予感があったが、とりあえず、ブルーアに聞いた。
「これを調達しようとしたら、どうするのがいいだろう?」
「普通に考えたら、遺跡から発掘だろうな」
ドワーフは口髭を撫でつける。
「誰かに譲ってもらうってのは……まあ、無理ではないが、王国や軍はまず無理だろうな。貴族とか飛空艇を保有している奴なら、あるいは……」
「金に物を言わせて買う、というのが割と近道だったりするか?」
「手放す奴がいるのか、って話だがな」
ブルーアは肩をすくめた。
「維持できないとか、金回りがヤバくなったとか、手放したい奴はいるかもしれんが……直接、探し回るってのはな」
「遺跡からの発掘品を待つよりは、早いかもしれないな」
皮肉るソウヤだが、そもそも自分で見つけない限りは、手に入らないと思った。見つかった飛行石は、王国が獲得しようとするだろうし、それでなければどこかの貴族や商人などが高額で買い取るだろう。
しかし、飛行石をどうにか調達できないものか。
「なければ作るというのも手だ」
「……何となく、そう言うと思ってた」
ジンの発言に、ソウヤは苦笑する。ブルーアは鼻をならす。
「腕のいい魔術師が寄り集まって、この程度だ。小さなボートクラスならともかく、標準的飛空艇に載せられるレベルじゃないぞ」
「それは、私以外の魔術師がやったものであって、私がやればまた違う形になるかもしれないよ」
「凄い自信だ。魔術師って奴は、どいつもこいつも大言を吐きよる」
がははっ、と笑い、ブルーアは人工飛行石を箱に戻した。鍵をかける音が響く。
ソウヤはジンに耳打ちした。
「本当にできると思う?」
「ソウヤ、我々がやってくる前にいた世界、つまり日本には飛行石などなかった」
ジンは、教師が生徒を諭すように言った。
「それでも空は飛べたのだ。必ずしも飛行石が必要というわけではない。違うかね?」
「それは……そうだな」
確かに、日本や世界には、魔法的な力はないし、科学の力で人は海を行き、空を飛んだ。
「とはいえ、魔法の力が便利なのは認めるがね」
茶目っ気たっぷりにジンは言った。
「飛行石に頼らず、どこまでやれるか。おそらく燃料……魔力になるのだろうが、そのあたりは飛行石より効率が悪くなるだろうとは思う」
まずはやってみることが大事だ、と老魔術師は告げた。
「その上で、天然の飛行石も探そう」
「あ、結局探すのか……」
肩透かしをくらった気分になるソウヤ。ジンは頷いた。
「あれば、それにこしたことはないからね。結局のところ、一番効率のいいものを選ぶべきなのだ。長く使うつもりなら」
そう言ったところで、ふと、ソウヤは思い出したことがあった。
「オレ、ひとつ心当たりがあったわ」
「ほう、飛行石の?」
「ああ。その、今もそこにあるかわからないし、正直ダメかもしれないが……」
ソウヤは自分で言いながら、顔をしかめた。
「十年前さ、オレ、魔王討伐で勇者やってたんだけどさ」
「ああ、そう聞いている」
「飛空艇に乗っていたんだ」
「そうだったね。……だが、その飛空艇は」
「魔王城へ乗り込む最中に墜落した」
ソウヤの言葉に、ジンも察した。
「つまり、君は、墜落した飛空艇から飛行石が回収できるのではないか、と?」
「壊れているかもしれないが……。つい、思い出してね」
一回、見に行くのもありだと、ソウヤは思った。ダメもとで行ってみて、なければやっぱりで済むが、もし使えるのであれば、儲け物である。
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